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提言と新書

新書ご紹介

これこそ!社長の哲学

『これぞ!社長の哲学』
会社を繁栄させるのも「人」ならば、衰退させるのも「人」である。その中でも経営者の役割は最大で、極言すれば「会社は経営者の芸術品である」と断言できる。
 創造も開発もなく、従業員の活力もなく、行動も鈍い。このような会社は日常業務でさえも中途半端となり、言い訳ばかりがまかり通る。すべて他責で済ます頽廃ムードの会社の行く着く先は、倒産ということになる。
会社の業績の差の第一は「社長の質」にある。経営者が経営者として「夢」と「情熱」を持ち相応しい「哲学」を身につけているかで運命が決まる。
経営者は如何なる時でも、しっかりと行く先を見定める哲学と眼力が必要である。
「先憂後楽」で日夜苦労している経営者の一助になる経営書である。

著者: 荒田 英路(会員番号543)
単庫本: 214ページ
出版社: すばる舎リンケージ
発行: 平成26年6月22日
価格: 1,500円(税抜き)

経営者は昇進・昇格する人材をどのように見分けているのか

人事は実に戦略的な経営計画である。
この書は、いわゆる流行りのノウハウ本ではなく、斜め読みして明日から使える仕事のちょとしたコツを具体的に知りたいという期待には応えることができない。そのかわり、日ごろから人事・組織コンサルタントとして筆者が経営者とともに「戦略的な評価や昇進・昇格はどうあるべきか」考えている立場で学んだ「経営者的視点を紹介」してくれる。人事がいかに戦略的な経営企画であり、組織の可能性を最大にする昇進・昇格について教えてくれる。

もくじ:
1.経営者が期待する昇進・昇格要件と社員の認識とはどうすれ違っているのか
2.経営者は昇進・昇格人事で何を実現したいのか
3.経営者等級制度を利用してどのような人材を昇格させるのか
4.経営者はどのような人材を昇進させるのか
5.「あとがきに代えて」
昇進・昇格に相応しい人材として認められるにはどうすれば良いのか

著者: (株)日本経営システム研究所 
代表取締役社長 中村 壽伸(1401)
単庫本: 192ページ
出版社: 日本生産性本部
発行: 2014年6月
価格: 1,620円(消費税込

寝たきりだけど社長やってます
ー19歳で社長になった寝たきり障がい者の起業物語ー

動くのは左手の親指が数ミリと右手の親指が1センチだけ
著者は生後10ヶ月で10万人に1人の難病といわれる脊髄性筋萎縮症だと診断された。
この病気は、筋肉を動かす神経に問題があり、徐々に筋肉が萎縮し、体が動かなくなってしまうものである。
著者に出来ることは、指先をわずかに動かすことと、「話す」こと、だけである。
著者は小さな頃から社会の一員として働きたいと思っていたが、高校卒業後の就職活動で、重度障がい者をしっかりと受け入れてくれる場所がないことに気づき、深い挫折を味わう。
しかし、それでも著者は自らの中にある「僕だって働きたい」という気持ちを捨てることはなかった。そこで著者は、養護学校時代からの幼馴染みである松元さんを誘い、2人で起業することを思いつく。松元さんも、著者と同じく10万人に1人の難病である脊髄性筋萎縮症を患っている。
「2人で会社を作ることは決まった。でも、何から始めればいいんだろう・・・」
18歳の著者と、松元さんが奮闘し、ウェブサイト制作会社を設立し、その会社を運営していく物語。障がい者にも健常者にも読んでもらいたい、胸が熱くなる1冊。

著者: 佐藤仙努(105特別会員)
単庫本: 192ページ
出版社: 彩図社
価格: 590円

起業いろは塾
ー新しい自分への形 独立・起業への挑戦ー

永年、東京都の外郭団体で「起業塾」「創業セミナー」の主催者サイドの責任者として実務をなさり、本年3月末で定年退職した方からの読後のコメントです。
 
全体としての感想
 起業に関する本の中で、ここまで書いてある本はなかったと感じています。まずは、自分の体験談から書かれていますので、著書の思いが読む方に伝わるものであり、人柄が見てとれます。
起業するに当っての考え方と心の部分が大変良く書かれている内容なので、読む方が参考になるところが多くあります。
 考え方にしても、なかなか、経験がなければ書けない内容ですし、著書の人間性が全面出ていて、誰しも納得されるでしょう。ます。
一般的な本では、心の部分があまり書いてないので、心の部分が書かれていることは、大変良かったと思います。巻末の先輩起業家15名からのメッセージは、これから起業しようとする方々にとって心強い内容になっていると思います。

著者: 塩原勝美(2123)
単庫本: 251ページ
出版社: 法令出版
発売日: 2013/7/21
価格: 1,600円(税別)

誰にもすぐ役に立つ
ビジネス日本語・文書の本

ビジネスシーンにおける円滑なコミュニケーション能力は、社内社外を問わず、あらゆる業務の基礎のまた基礎ですが、書くのは苦手、書くのは嫌いというひとは意外に多く、「ビジネス文書の書き方」や模範文例集が多数出版されています。
本書は、<聴く・話す・読む・書く>スキルを巡る実績多数のセミナー講師経験を集大成した<ビジネス文書の書き方トレーニング・ブック>として書きました。
新入社員はもちろん、「書くのが苦手」なすべてのビジネスマンのための研修テキストとして、また独習本として、ぜひ本書をご活用ください。(会員No.2440神谷洋平)

著者: 神谷 洋平(2440)
単庫本: 247ページ
出版社: さくら舎
発売日: 2014/3/16
価格: 1,400円(税別)

日本流・『おもてなし』文化は世界的資産
~ビジネスを成功に導く秘訣がここにある!~

 商品・サービスの何れもがコモディティ化し、過去から継続している単一業種は衰退化しています。だから価格競争に陥り値引き合戦が繰り広げられコストダウンが日本の得意分野の品質管理・品質保証・魅力品質をも蔑ろにしているのです。
 世界一古い、そしてどの国でも簡単に真似が出来ない「日本流おもてなし文化」はこうしてあらゆる場面で競争激化の土俵に登り、定量志向、デジタル分野で苦戦を強いられているのです。ここでは表題に関し、歴史的考察ならびに高付加価値創造の「日本流・おもてなし文化」という資産が実際にどのように導入され「業績=顧客の支持率」を達成しているのかを『人的要素』を基盤に事例でご紹介しています。

著者: 武田 哲男(株式会社武田マネジメントシステムス・代表取締役)
単行本: 241ページ
出版社: 産業能率大学出版部
発売日: 2013/12/27
価格: 本体1,800円(税別)

はいしゃさんの仕事 段取り術

私どもは、歯科学と経営学を融合させようと言い続けてきています。
そのため、「仕事の視える化シリーズ」として2009年から『歯科医院の活性化』(変革プロセス)、『マニュアル作りで仕事を視える化』(マニュアル作成)、『5Sで仕事を視える化』(5S活動)『人財として人を育てる』(人材育成)『ホンマモンの歯科医療スタッフ』(組織文化)、『歯科医院経営の心得』(歯科学と経営学の融合)に関する本を、医歯薬出版から出して頂きました。
どの本も、現在変革をされている歯科医院の方々が、本当に大変なときからどのように組織を作って来たのかを赤裸々に書いて頂いています。
私どもは、その真摯な姿勢に感謝するとともに、一緒に変革を行ってきた同志として、今よりさらに地域に密着した質の高い歯科医療サービスを提供できるように、歯科医院を後方から支援していきたいと考えています。
しかし、スタッフ一丸で歯科医療に取り組みたいと考えている歯科医院に対して、まずは何から行えばいいのかという写真事例集の必要性を考えるようになりました。この度は、組織の文化をお届けします。きっと、仕事の本のおもしろさを感じて頂けるでしょう。

編著者: 小原啓子・河野佳苗
縦型A4判: 104ページ/カラー
出版社: 医歯薬出版株式会社
発売日: 2014/1/10
価格: 3,800円+税5% (税込3,990円)

経営課題をブレークダウンする 適正在庫のノウハウ

『品切れと在庫を減らす』
相反する両者をどのように一体化し、実現させるのか、それが分かるのが本書です。

1、 大事なのは、品切れが発生するから在庫を置く増やすではなく、品切れが発生するプロセスや原因について解明し、「仕事の仕組みを変える」などの対策をとることにより、強い基盤を作らねばなりません。それが結果的に平準化につながります。グラグラの基盤の上にどんなシステムを作っても絵に描いたモチになります。 
2、そのうえで、経営層からの在庫目標としての金額的トップダウンと、現場からの数量的ボトムアップと整合性をとって一体化し「適正在庫」としています。
3、在庫目標⇒在庫計画⇒部品レベルの基準設定や調達方法まで、著者独自の複合ABC分析や、統計的安全在庫の手法などの理論的裏付けと、展開の手順について実データを示しながら分かり易く説明していますので、実務に応用できます。

著者: 中村謙治
単行本: 231ページ
出版社: 秀和システム
発売日: 2011/4/5
価格: ¥2310

企業向けマーケティングと組織購買行動

日本の「企業向けマーケティング」に関する研究と教育は、消費者向けマーケティングのそれと比較すると、非常に遅れていると言われています。事実、日本語で作成された企業向けマーケティングの論文の数は極めて少ない。また、大学のマーケティング関連の科目を見ると、消費者マーケティング関連の講義は多く見られますが、企業向けマーケティング関連の講義はほとんど見受けられません。しかし、消費者マーケティングと企業向けマーケティングの重要性にそれほど大きな差異はありません。経済的視点から見ても企業向けマーケティングがもっと重視されるべきなのです。
本書は、「売り手企業が効率的に受注確率を向上させるためにはどのように営業活動をすべきか」というテーマを「組織購買行動論」からアプローチし、面談調査やアンケート調査を実施して検証し、これらの研究成果をまとめたものです。

著者: 黒川和夫
単行本: 234ページ
出版社: 五絃舎
発売日: 2013/9/15
価格: ¥2,940(税込)

グローバルに伸びる製造業 3D活用でプロセス改革 
開発設計マネジメントの理想と13の成功事例

日本製造業の海外展開は販売、製造の進出から始まり、現在は海外売上拡大の方針や顧客の海外進出に伴い、開発設計領域でも拡大傾向にあります。
海外展開には海外拠点の役割明確化は当然のこと、海外の業務レベル向上を国内側で支援しなければなりません。また国内外の連携も3Dなど様々なデータの活用が必要です。
これら様々な開発業務の改革が必須ですが、改革推進中に不十分になりがちな点が2点あります。1つは経営や事業の目標・方針と結びついた開発部門全体の目標と方針策定、もう1つは創造的な開発業務へのIT活用(登録や管理など作業業務ではなく、設計課題解決に直結する業務への活用)です。
本書ではグローバル開発を行う際の単なる3D活用だけでなく、経営や事業の目標からの活用方針の検討、実現までの総合的ソリューションを述べています。
開発の海外進出や強化を推進されている方、開発業務の改革を推進されている方に、すぐに活用いただける内容です。

著者: 岡部仁志、新井本昌宏、渡辺智宏、鳥谷浩志
単行本: 252ページ
出版社: 日経BP社
発売日: 2013/5/27
価格: ¥2,940
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改正高年齢者雇用安定法対応 
高年齢者雇用時代における人事・賃金管理

本年4月1日より高年齢者雇用安定法が改正施行され、65歳まで希望者全員の継続雇用が義務化されました。
最近のコンサルティングにおいても、50歳台、40歳台からの賃金カーブの是正、昇給制度や役職定年制度、脱年功型の役割と成果型の人事賃金制度への見直しなどの相談が実際に増えてきています。
本書は、65歳完全雇用から70歳雇用、ひいては定年なき時代までも見すえて広くトータル人事制度のリニューアルの必要性について提唱しました。
実践的な人事労務コンサルタントの立場から、法改正への現実的な対応策及び中期的な視野での人事賃金制度改革の進め方について、できるだけわかりやすい言葉に置き換えて解説してみたものです。

著者: 二宮孝
単行本: 237ページ
出版社: 経営書院(産労総合研究所)
発行: 2013年4月30日
価格: ¥1,890
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提言ご紹介

アートスタイル経営㊤

老舗の温泉旅館が展開/驚異的なリピート率実現

山本英夫(南関東支部)

栃木県の板室温泉に大黒屋旅館という創業460年を迎えた温泉旅館がある。栃木県では最も長く続いている会社であり、現代アートを経営に取り入れて、独自の経営展開をしているということで、業界ではよく知られているユニークな旅館だ。2005年に、企業メセナ協議会から「アートスタイル経営賞」という賞を授与されてから俄然注目を集めるようになったと言う。
以来、大黒屋の経営を「アートスタイル経営」と言うようになり、10には『ちっちゃいけど、世界一誇りにしたい会社』(坂本光司著、ダイヤモンド社刊)の中でも取り上げられた。慢性的不況の温泉・ホテル業界にあって70数%のリピート率は驚異的な数字である。
 この16代当主の室井俊二社長とご縁をいただくことになり、その経営の本質についてお聞きすることができた。聞けば、現代アート、とりわけ「もの派」と言われる現代アートのパイオニア的存在である「菅木志雄氏」の作品の収集をしており、同氏の作品と対話しながら経営感性を磨くとともに、感性論哲学という哲学をベースにした経営を展開してきたと言う。
 私は、その感性論哲学を創始者である哲学者・芳村思風氏を師事し、同哲学を経営に落とし込んだ「山本英夫の感性経営」を構築してきた。感性論哲学という哲学を共通項として、より深く関わることができたのである。
 実際のところ、室井社長も「アートスタイル経営」という経営の体系化を進めており、パートナーを求めていたところだということで、大いに話は盛り上がり、共著でその内容を本にしようということにもなった。主として、実践は室井氏、理論は私、ということで2人の共同編集作業によって「アートスタイル経営」の体系化が強力に進められていった。現代アートは時代を映す鏡であり、哲学は時代を興す学問である。それをもって、新しい経営を創造しているのが室井社長。
昨年末には、室井俊二という経営者、菅木志雄という現代アーティスト、芳村思風という哲学者、この3者で奏でられる「アートスタイル経営」について浮き彫りにした『感性論哲学からのアプローチ・進化するアートスタイル経営』(室井俊二監修 山本英夫編著 静岡学術出版)が出版された。21世紀を拓く新しい経営のホイッスルが鳴ったような気がした。
(平成23年2月16日 日刊工業新聞掲載)

アートスタイル経営㊥

現代アートを経営資源に/ベースに「感性論哲学」

山本英夫(南神奈川)

板室温泉大黒屋の経営理念資料には以下のように「アートスタイル経営」が定義されている。「アートスタイル経営」とは、広義には、現代アート、またはアート的要素を経営資源の一つとして経営に取り入れ、経営に生かして進める経営のことを言う。狭義には、つまり「大黒屋・アートスタイル経営」という場合には、次のように定義する。
根底に「感性論哲学」という哲学を据え、「感性」を原理として経営を展開する上で、現代アート、とりわけ菅木志雄氏の「もの派・現代アート」の思想と作品を見る者をして、自らの感性を成長させるものとして活用し、そこから醸し出されるビジネス空間そのものを経営資源化して進める経営のことを言う。
また、その時に「〇△□の経営」という視点と「禅的経営」という視点も加味された独自の経営の総体を言う。
感性論哲学という哲学をベースとしているという点では、「アートスタイル経営」は理念経営そのものである。経営は「3つのおもい(念い・想い・思い)」から始まるとする「"おもい"の経営」である、としている。
その上で「〇△□の経営」と「禅的経営」について言及しておきたい。つまり、「アートスタイル経営」を形や構造として見た場合に「〇△□」で説明できるのである。「〇=目標、△=行動、□=基本」とするのが基本だが、室井氏は「〇=発見、△=ゆらぎ、□=志」と展開していく。禅的には「〇=悟った自分、△=修行している自分、□=修行に入る前の自分」ということを江戸時代の禅僧・仙崖は「〇△□乃書」に表している。
ちなみに、「〇△□の美しさって何?」というサブタイトルの『中・高校生のための現代美術入門』があり、〇△□で見事に現代美術を解説している名著もある。
また、「〇=調和作用・善、△=統一作用・美、□=合理作用・真」ということもでき、真善美を追求する経営でもあり、「経済」「道徳」に「文化」を加え、「経済・道徳・文化、三位一体の経営」という面もあると言う。
まさに、大黒屋ならではの「アートスタイル経営」という独自の世界が展開されている。「21世紀の経営を拓く」可能性を感じさせる新しい経営の実験である。
(平成23年2月23日 日刊工業新聞掲載)

アートスタイル経営㊦

継続の中に本質がある/ワークショップで体感を

山本英夫(南関東)

3回にわたり、「アートスタイル経営」について語ってきた。しかし、語っても語っても言い尽くせない。かえって、語るほどに現実と離れていく感じがして仕方ない。「感性、感性。アート、アート」と言うほどに陳腐に聞こえてきてしまう。理性的で観念的な言葉の限界がそこにある。
それでも何とかして「アートスタイル経営」を伝えたいと思い、室井社長に「実感!アートスタイル経営」というワークショップ型の経営セミナーを企画提案した。
板室温泉・大黒屋に来てもらい、そこに展開されている理念空間に身を置いていただき五感六感・全身全霊で感じてもらう。菅木志雄という「もの派・現代アーティスト」の作品世界に身をおいてもらう。もちろん基本的なガイドはさせていただくが、主役は参加された方であり、その人の感性。その「感性」に気づいてもらい、それを深堀りして、ブラッシュアップする。
「感性・〇△□・行動」というのが、このセミナーのテーマである。その人の感性で感じてもらい、その感じを〇△□で理性的に組み立て、それに基づいて行動する。そういうシンプルなスタイルをワークショップを通じて体感してもらうのである。1泊2日の泊りがけの、しかも全国でも名湯として知られる板室温泉にもつかれる、というおそらく日本で唯一の経営セミナーだと思う(詳細は「実感!アートスタイル経営」というホームページ参照)。
今年から毎月開催するということで、1月からスタートさせていただいた。おかげさまで好評のうちに、第1回目は修了することができた。今年1年かけて「アートスタイル経営」セミナーに磨きをかけて続けていくが、継続の中にこそアートスタイル経営の本質がある。創業460年の大黒屋の家訓に「石垣を積むように」という言葉がある。何事も「石垣を積むように」基本を徹底していきなさい、それが継続の要諦である、ということである。状況イメージが浮かんでくるとともに、行動イメージも浮かんでくる。ここにこの家訓の凄さがある。自らが抱えている問題に置き換えて考えることでヒントをくれるのである。あなたの「石垣を積むように」をモノにしていただければと思う。
(平成23年3月2日 日刊工業新聞掲載)

「はやぶさ」に学ぶ逆境に強く生きる思考法

真正面から困難に挑む/耐える精神が未来開く

上野延城(埼玉)

昨年の最も明るい話題の一つは小惑星「イトカワ」から表面の砂を持ちかえるという任務を成し遂げた「はやぶさ」である。
通信やエンジンなどのトラブルで絶対的なピンチを乗り越え、7年もの歳月をかけて世界で初めて小惑星への往復航行を成し遂げた。映像で燃え尽きた姿に多くの人が感動したのではないか。
 困難や失敗があってもあきらめないで、逆境に立ち向かうことの必要性をあらためて知らされたと人々は感想を述べている。
 2010年ヒット商品番付けの中でも殊勲賞に選ばれている。快挙の裏側には状況に応じた最善策を行った不断の努力があった。
 進化論で有名なダーウィンは「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでなく、唯一生き残るのは変化できる者である」と述べている。
何事でも変化に対応する、しなやかさがなければ生き残れない。「はやぶさ」の偉業を我が身に置き換えてみて、実践してみてはどうか。
 人間は困難にぶつかると逃げようとする。しかし、苦しみに真正面からぶち当たること以外に、苦るしみから逃げる道はない。逃げれば苦しみはもっと強い苦しみになって追いかけてくる。
 低迷する消費市場に打ち勝つには、人頼りの姿勢をやめて、自分が主体にやる気にならないことには始まらない。
 人頼りの姿勢の特徴は必ず相手のせいにする。環境が良くないといって、グチや不平をたらたらと言う。たとえどんな状況になっても、商売に言い訳は許されないのである。
 「はやぶさ」のプロジェクトマネージャー、川口淳一郎氏は著書「はやぶさ」式思考法の中でトラブルは勲章と思えと語っている。挑戦しないかぎり未来はこない。そこから逃げず挑戦し続けという意味で多くのトラブルは、いわば、私たちの勲章だと思っている。
 また、減点法と加点法の違いは、失敗をカウントするか成功をカウントするかである。減点法を止めて加点法にしようとも述べている。人間のやる事にはみな大差はなく、事を成し遂げるか、逃げるかの違いである。
 厳しい環境にも逃げないで耐える強い精神が現代は必要である。
(平成23年3月9日 日刊工業新聞掲載)

IT導入計画のススメ

二つの戦略的投資方法/「効率」と「効果」を考えて

阿部 満(南関東)

中小企業は機動性や特殊な技術ノウハウを持ち、時には大企業の集団的な組織力を超える、熟練工や職人による神業的な技術や技能の専門性を持ち合わせている。
しかし、その反面、経営資源のヒト、モノ、カネ、情報の中で情報の活用の格差が企業力の違いになってきた。ではなぜ、情報、つまりITの活用が進んでいる企業と全く進んでいない企業の二極化が進んでいるのか。
それは、中小企業では「自社にITの専門家がいない」「IT投資と効果が明確に見えない」「ITを従業員が使いこなせない」など、ヒトとカネを使ってIT化をわざわざ行うことへの不安材料があるとされている。
また、はたしてどのようにIT投資を行えばよいか。正直なところ、本当に自社にとって効果が上がるのかが見えていないのだ。そこで、それらのIT投資と効果を明確にさせるために「IT導入計画のススメ」と題してご説明していく。
まず、IT化を行うには企業ごとのITサイクル(段階的なIT導入の流れ)があることをご理解いただきたい。このIT化サイクルとは大きく二つの戦略的投資方法に分けられる。
一つは、IT化によって効率性を求めること(コスト削減効果・生産性向上など)。もう一つは、効果性を求めること(売り上げ・利益向上など)。つまり、IT化サイクルとは効率性と効果性の二つを考えてIT導入計画を練ることが重要になる。
では、さらに具体的に説明すると、効率性のためのIT化とは財務・会計システム、人事システム、発注や在庫管理システム、工程管理システム、原価管理などのIT化をいう。
一方、効果性を求めるIT化とは、ホームページ、ビジネスブログ、電子商取引(Eコマース)、グループウエアシステムや販売管理システム、顧客管理システム、営業支援システムなどをいう。
このようにIT化サイクルを意識し、IT導入による効率性と効果性を考えながら、定量的な目標に加え、IT導入計画を立てていただければ、読者の皆さまのビジネスモデルも良い形で変革していく。ぜひIT導入計画からススメてみていただきたい。
(平成23年3月16日 日刊工業新聞掲載)

「ウーマノミクスが日本を変えるか」を、検証する

女性登用進まぬ日本/なお「結婚」「出産」の壁

島影教子(東京支部)

いきなり「ウーマノミクス」を持ち出してもご理解いただけないだろう。かく言う自身も今年の1月11日のNHK番組「クローズアップ現代」で出会うまで「ウーマノミクス」の言葉を知らなかった。「ウーマノミクス」は、造語で「女性経済」=「働く女性たちの活躍」のことを言うらしい。つまり、女性を活かすことで社会を元気にするという主旨のものである。類語に「ダイバシティ」や「ワーク・ライフ・バランス」などの言葉がある。それぞれ正確には内容は異なるものの、いずれも女性雇用を増やし、労働力強化を図るものである。
「勤労婦人福祉法」として「男女雇用機会均等法」が施行されたのは元々、72年(昭和47年)。わずか39年の前の話であり、その後86年、97年、07年と改正され、現在は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律』と、なんとも長い名称になっている。
内容は、性による不利益な差別や妊娠や出産を理由にした退職強要や配置転換などの禁止、さらには女性だけでなく広い意味での性差別を捉えているところに特徴がある。主旨は、少子高齢化による労働力減少対策でもあり、有能な女性が子育てをしながら職場復帰できる環境整備でもある。内閣府の「男女共同参画局」や財団法人21世紀職業財団でも「働く女性の活躍推進の支援」を大きく取り上げている。
 近年よく耳にする「イクメン」なる言葉も均等化の表れのひとつであろう。しかし、現状は法的には整備されても、実際に育児休暇を取る男性の数はいっこうに増えない。ゴミ出しやアイロン掛け、キッチンに入る"主夫"や子供を抱く男性の姿は増えてはいるのだが、これは単に今のヤングファミリー層が奇をてらわないだけであり、また「草食男子」が増えた傾向現象であろうと思う。
実際に女性役職者が増えているだろうか?国会の女性議員の数が半数になっただろうか?全て否である。国内の女性労働者は現在、およそ2300万人。「共働き」の割合は、97年頃から「男性片働き」を逆転し、女性の収入が中流家庭を支えているのである。
先日、大手商業施設で女性の店長にお会いした、同じ女性として「増えてきましたね」と、敬意を込めて声を掛けたが「いや、まだ全国でも数人にも満たないんです」と、返事が返ってきた。会社も一時期、女性管理者を増やそうと努力したようだが、現実には「結婚」「出産」の壁を乗り越えられなかったようである。  わが国の25―54歳層の女性の有業率はM字谷と言われるもので30歳から35歳の数値が谷になる。これが、環境整備が整う海外ではゆるい山型でスウェーデンやオランダは特に顕著である。女性管理職比率も同様で日本は大きく立ち遅れているのだ。「ウーマノミクス」の言葉だけでなく取り急きの環境整備とキャリアを持ちながら活かせない、あきらめない時代を創りたいものである。
(平成23年3月23日 日刊工業新聞掲載)

中小企業会計基準のダブルスタンダード化

高まる情報開示の重要性/一層具現化の方向へ

岡部勝成(九州)

近年、国際会計基準のコンバージェンス(収束)やアドプション(採用)によるわが国の会計基準に関する議論は大企業に限らず、中小企業にも影響を及ぼしている。なぜならば、中小企業版の国際会計基準が2010年7月に公表されたことも起因しているといえよう。  とりわけ、わが国には約260万社(全法人の98.4%)の中小企業があり、その対象となる会計基準は中小企業の会計に関する指針(会計参与制度導入または導入可能等)と、それ以外の会計基準構想(「中小企業の会計に関する研究会」「非上場会社の会計基準に関する懇談会」「中小企業の会計に関する検討会」)」に分かれて議論が活発化し、中小企業会計基準のダブルスタンダード化の方向に舵をとっているように思われる。また、10年12月から11年1月にかけて経済産業省・中小企業庁は税理士に対して、「中小企業の会計処理・財務情報開示に関する税理士意識アンケート」を実施した。これは、中小企業を取り巻く環境が、金融環境や取引構造の大きな変化によるものであり、適正な会計処理に基づいた中小企業の情報開示の重要性が高まっているためである。それはステーク・ホルダーである取引先や金融機関から資金調達する上で有用性があるからである。さらに、中小企業の経営者には、財務諸表のデータに基づき経営状況を把握・分析し、効率的な経営判断を行っていくことも重要性を増している。現在、「中小企業の会計に関する研究会」や「非上場会社の会計基準に関する懇談会」、さらに「中小企業の会計に関する検討会」も設置され、経営者自ら会計処理を担えるようにする目的で、財務諸表などに盛り込むべき項目を減らし、言葉遣いも分かりやすくするとしている。05年8月に日本公認会計士協会などが作成した「中小企業の会計に関する指針」は、盛り込む内容が多岐にわたり、企業の利用が進んでいないという指摘もある。今後、経営者やステーク・ホルダーに受け入れられる中小企業会計基準が作成されることを鑑みると、中小企業会計基準のダブルスタンダード化は一層具現性を帯びるため、混乱が起きないことを望む。
(平成23年3月30日 日刊工業新聞掲載)

計画停電より総量規制を

企業と家庭に同等の負担/細かい配慮で国民の賛同

塚本裕宥(北関東支部)

大震災へのお見舞いを申し上げ本題に入りたい。電力会社実施の当座の計画停電はやむを得ぬことと賛成する。しかし計画停電は各方面の努力を認めない方法で、長期実施には適していない。賛成しない。富や雇用の源泉は企業が生み出すものであり、企業に工夫の余地がない計画停電は得策でない。
今回図らずも日本は世界の重要部品などの供給国であると分かった。省エネルギーは必要だが基幹産業などに無理な要請は不適だ。余談だが、重要部品を価格競争する必要がないことも分かったはず。
国難とも言える今、企業と家庭を同列とし、両者に同等の負担を強いてよいと考える。企業、家庭双方に総量規制するのが適切と考える。 ピーク時消費電力を考えれば、企業より一般家庭に重点を置き、以下を実施するのが適切とも言える。最近では7割が家庭用と聞くからだ。
東京電力、東北電力の顧客窓口には提唱済みであるが、両社などに改めて提案したい。一般家庭に向けに曖昧な「省エネの要請」でなく、強い調子で、例えば30アンペアのブレーカーを20アンペアに変更するよう要請すべきときである。暖房や冷房需要の少ない4、5月が本案実施の適期である。
家電メーカーにも提唱したい。温風ヒーターや掃除機は消費電力1000ワットでなく、600ワット程度で十分であると思う。消費を冷えさせず、電力会社のピーク時消費電力の低減に協力しようではないか。
電気料金については最低限の基本部分は値下げ、次の段階は従来同様、それ以上は高額料金にするなどの工夫が必要なのは当然だ。インセンティブが働くようにすることだ。
自家発電を持たぬ病院などについて総量規制しないのは当然だ。きめ細かい配慮があってこそ、多くの国民の賛同を得て本提言が生きる。企業に自家発電などの工夫を促すのも得策だ。
湿気が多く蒸し暑い日本の夏は、開襟シャツ、半ズボンで出勤するのが当然として、背広姿での通勤など従来の常識も変えたいものだ。
長期で根源的提言をしたいが、急を要する具体的な本提言を急いだ。政争に明け暮れる政治家には頼らず、国民が賢くなろう。
(平成23年4月6日 日刊工業新聞掲載)

グローバル化における企業の雇用能力の革新

若手に異文化の体験/個を生かす環境づくり急務

西 満幸(東京支部)

日本の貿易依存度はドイツの半分以下、直接投資残高対国内総生産(GDP)比は先進国の数分の一にすぎない。わが国の生産人口が減少する中でこれからの経済、社会を活力あるものにするためには、企業の雇用能力(エンプロイメンタビリティー)を革新し、貿易と内外直接投資を拡大する必要がある。
このためには、第一に、国内外の市場で勝つことに重点を置いた雇用能力の向上である。技術で勝ち、市場で負けてはいけない。組織社会の要である企業が先頭を切ってこの革新に取り組む必要がある。
第二に、若い20代社員の異文化での仕事・生活体験である。世界は小さくなったにもかかわらず、わが国では内外の異文化の中で活躍できる人材が絶対的に不足している。
歴史を振り返るまでもなく、異文化との意識的な接触があった後に日本は栄えてきた。隋・唐、明治の欧州、戦後の米国へ、若者たちが留学し、他の知と融合し、時々の新生日本を創ってきた。
この主役は常に若い20代である。異文化の中で仕事をし、世界のライバルたちと交わり、肌で感じ、それを暗黙知として吸収する。その中から世界が見えてくる。これは、羅針盤なき企業の成長戦略にも必須である。「かわいい子には旅をさせよ」ではないか。
第三に、多様な人材が個として働きやすい環境づくりである。異質との共生が求められる時代では、多様な文化や価値観を前提に、企業も個人も自立し、集団主義から個を生かす社会づくりへの変革が急務である。雇用、賃金、リカレント教育、退出障壁などは改善する必要がある。特に、わが国特有の一括新卒採用は、内外の留学生や既卒者らにはバリアーで撤廃すべきである。
ヒト・モノ・カネ・情報がグローバルに自由に移動する現在、企業の活躍の場は世界である。グローバル化のドラマは佳境を迎えており、企業はこれを、第二の黒船として捉え危機を機会にする。真のグローバル化を若者が暗黙知として捉え、「知行合一」を実践する。明るい未来を実現するためには企業も個人も痛みを覚悟して集団主義から日本らしい個の確立へ向けて、ルビコン川を渡る時代を迎えた。
(平成23年4月13日 日刊工業新聞掲載)

東日本大震災からのメッセージ

顧客視点の価値創出/求められる利他の精神

福島 光伸(埼玉支部)

3月11日に発生した東北関東大震災は、未曽有の被害をもたらし、今もなおその被害の全容さえつかめていない。被害にあわれた皆さまには改めてお見舞い申し上げる次第である。
今回の震災は大きな不幸をもたらしたとともに、今までわれわれが培ってきた利益至上主義、利己主義、倫理を忘れた経営、それらがもたらす軽薄な文化などを押し流したと考えるべきだ。
震災前、われわれは将来が見通せない閉塞感に悩んではいたが、その中でも何とかはなっていたし、経営においても「そうは言っても何とかなる」と考えていた。
震災に対する海外からのある記事で「日本は過去の2回の復興と同じように今回も立ち直ることができるか」というものがあった。その記事によれば過去の2回の復興とは明治維新と戦後復興のことであり、決してバブル崩壊やリーマン・ショックレベルのことではない。つまり、価値観が根本的に変わることに対して対応できるのかという意味を含んでのことであろう。
われわれにはいま、経営の原点に帰り、顧客視点の価値の提供に努め、その対価として利益を得るという活動が改めて求められている。利己ではなく利他が求められているのである。
そして二律背反する利他と利己の矛盾の中で利潤を上げ続けるという難易度の高い経営が求められている。
それができる企業は知恵の相乗効果が発揮できる企業であり、決して個人に依存する経営ではない。「知の化学反応」とも呼ぶべき議論の場を持っている企業である。
被災者の方々には大変お気の毒だが、今回の災害は「経営の原点に返って利他のために組織とシステムの経営を目差せ」という天からのメッセージととらえるべきである。
われわれは今こそ「企業のもつ価値観を変え、組織とシステムで顧客視点の価値創出の場を創る」ということに取り組むことが求められている。
そのためのスタートはまず経営者が、今回の災害が大きな見えざる力によって、世の中を変えようとしているということに気付くべきであろう。
それこそが経営の世界に生きるわれわれができる唯一の弔いではないだろうか。
(平成23年4月20日 日刊工業新聞掲載)

原発事故は想定外だったのか

希薄なリスクマネジメント/天災の教訓から学ぶ

青樹 道弘(東京支部)

東日本大震災による福島第一原子力発電所の放射能漏れの脅威が、日本中はおろか、世界中に降りかかっている。しかしながら、これは人災とも言えるのではないだろうか。確かに今回は400年に一度の地震であったであろうが、過去にもこれ以上の津波はあったのである。では、なぜマグニチュード9.0、高さ20メートル以上の津波を想定できなかったのかと言いたいのである。これから復興を図るにしても、これ以上の規模の地震と津波が襲っても影響がないような立地条件を守るべきであるだろう。
現在、日本では原子力発電は避けて通れない方法であるが、この原発事故は全世界の既存設備、新設予定に関しても見直しの問題を投げかけている。同時に放射能汚染問題が農産物・牛乳・魚介類を脅かしている。
特に魚介類に対しては、規制がなかったとの発表をしているが、大気汚染に続き汚染水の流失が分かった時点で、この問題は我々素人でも気になっていたことである。
これが想定できなかったから対応の基準値をこれから決めるという後付けの回答であった。
規制範囲内の農業・酪農業、畜産業、水産業、一般企業者は全て静観しているしかないものの、日々の生活は営まなければならない。「補償」という言葉で済む問題ではない。海外では日本産でくくられており、海外にある日本料理店の来訪者も激減しているそうだ。とんだ風評被害である。
さらには経済面においても世界中に影響を及ぼしている。震災後、一気に円高に進んだ為替も円安にストップがかからないような勢いもあった。この挙動は阪神・淡路大震災後の流れに類似しているが、ここから先の動きについては何とも言えない状況である。原発事故に収束の兆しが見えたなら為替はどのような挙動を示すのか、今からシュミレーションしておくべきであろう。
発端は全てリスクマネジメントの希薄さが今日の大きな問題となっているのである。今回の、地震・津波・原子力発電所トラブルのもたらした被害は、はたして全て天災だったのだろうか。まずはトラブルを最優先で解決した後で、もう一度この天災のもたらした教訓を再考すべきである。そして復興のためにも記念行事の自粛もよいが、どこかでケジメをつけて経済活性化を皆で実行することが必要であると考える。
(平成23年4月27日 日刊工業新聞掲載)

「なんとなく経営」から脱皮せよ!

個人商店的運営に成長なし/社員が変わる環境必要

山田 亮(東京支部)

中小企業の実態をみていると、あまり良い表現ではないが「なんとなく経営」が多いのが実情である。「なんとなく経営」とは、将来への不安は間違いなくあるものの、それまでと同じ「なんとなくそのままのやり方」で今をどうにか凌いでいるというものである。何を「なんとなくそのまま」にしているかというと組織運営の方法である。
多くの中小企業の組織運営の方法は「各個人が個人商店的にバラバラに頑張る」というものであり、その個人商店の集まりが一応組織ということになっている。その運営方法の中で必ずと言ってよいほど起きている現象は「できる人はできるができない人はできない」というもので、つまり「できる人」はわずかほんの一握りしかいないが、そのできる人に過度に依存するというものである。確かに現時点ではこの方法でも何とかやっているという企業もあるが、しかしこれから先もこの方法が通用し続けるとは考えにくい。
そもそも、この方法自体は景気が良かった時にあまり面倒なことを考えなくともそれなりに伸ばしていけたという過去のものであり、現在のような成熟経済の中でも同様に伸ばしていける可能性は限りなく低い。しかし多くの中小企業ではさまざまな個別事情を理由に、個人商店的運営方法から脱皮するような新たな組織運営方法を取り入れずに「なんとなくそのまま」を依然として続けている。
企業において何かを変えたいと考えた時、社員の活動が変わらない限り、何かが良い方向に変わることなどあり得ず、また「活動を変えたい」と考え「活動を変えなくては駄目だ」と経営陣が説いてみたところで、活動が変わるというのもまれである。
誰でも新たなことは取り入れずに、長年慣れ親しんだやり方を継続したい。それでも社員の活動が本当に変わるのは「本気で変わらざるを得ない環境に身を置かざるを得ない時」に変わるものである。
「組織は腐敗する」という古くからの言葉通り、「組織に必要な施策」を怠って「組織が良くなる」「社員の活動が変わる」ということは皆無に等しい。そのようなベーシックな組織運営のメカニズムを改めて見つめ直してみてはいかがだろうか。

(平成23年5月11日 日刊工業新聞掲載)

東日本大震災の教訓

最悪の事態を想定する/語り継ぎ風化させない

近藤 肇(中部支部)

3月11日、東北・関東地方を襲った地震と津波はかつてない規模で発生し、その被災状況も全容の把握にはまだ時間が掛かるだろう。死者・行方不明者数(2万人~3万人)は戦後最大といわれる。まさに地震国日本を象徴する出来事だ。
日本は今まで、地震予知システム、耐震設計・構造、避難マップや自衛組織の訓練、救援システム、各種の保険など震災に備えるため、ハード・ソフトの両面で対策を打ってきた。それらは各国の手本にもなっている。これまでにも何度も大規模な地震・津波に襲われてきたが、その都度被害を最小限に抑えることが出来たのは、それら非常時に備える日本社会の意識の賜物である。しかし、それにもかかわらず想定を超えた震災は襲ってくる。
科学技術の発展は多くの繁栄と利便性をもたらした。その結果、人間の自然に対する畏怖の念は、どこかへ消えてしまったかのようだ。しかし科学の発展は同時に人類に対する脅威にもなる。今回の大震災は、まさに人間の自然に対する無力感を思い知らされた。科学至上主義、経済至上主義への警告ともいえるであろう。
私は少年時代、名古屋に在住して1959年(昭34)の「伊勢湾台風」を体験した。
風速60メートルを超える台風の来襲時に深夜の満潮が重なり、堤防は決壊し多くの流木が住宅地に流れ込み、多数の死者が出た。堤防に打ち上げられた死体の数々は50年以上たった今でも私の記憶から消え去ることはない。水害の恐ろしさを身をもって体験した。
しかし年月が経過し災害に遭った地域にもいつしか住宅や工場が立ち並び、当時の被災地のイメージはどこかへ消え去って忘れ去られている。このたびの震災の報に接して、私は企業の心得として以下のことを提言する。
① 過去の物差しで未来を推し量ることは不可能である。最悪の事態を想定すること。
② 災害に備えて常に地域社会、協力工場や関係会社との緊密な関係を保つこと。
③ 災害に際して心に響く社会貢献を心がけること。「貧者の一灯」は信頼の回復につながる。
④ 災害の事実を語り継ぎ、風化させないこと。次世代に語り継ぐことによって自然に対する敬虔な気持ちを維持できる。

(平成23年5月18日 日刊工業新聞掲載)

6次産業化法の制定~儲かる農業の実現に向けて

生産・加工・販売を一体化/付加価値高め雇用創出

近藤 肇(中部支部)

6次産業化とは、農林漁業者がその生産事業(1次産業)だけでなく、2次産業(加工事業)や3次産業(販売事業)にも取り組み、農林漁業者が新事業の創出に積極的に関与して所得を増やす。儲かる農林水産事業を実現して、その結果、食料自給率の向上に寄与することを目的とする。
現在、日本の食料自給率は41%。そして農業に携わる人口は290万人であり、これは全労働人口の4%に過ぎない。そのうち61%は65歳以上の高齢者である。農業の将来を考えた場合、実に悲観的なデータと言わざるを得ない。
後継者が不足しているので耕作放棄地は全国で38万ヘクタールに及ぶ(農地全体の8%に相当する)。この状況を改善するためには農業を魅力のある職業にすることが必要だ。6次産業化とはまさに農業を多角化して農産物に付加価値を高めることである。
従来の農産物を加工して、ジャムや漬物を製造し売り上げ増加につなげる。景観を利用して、酪農体験、自然体験を促進するため、青少年の教育(教育ファーム)や民宿による観光収入に結び付けて経営の安定化を図ることが必要だ。
ドイツの農業従事者でも農業本来の収入は全体の半分程度であるといわれている。他は農家民宿、結婚式、誕生会、パーテイ―などのイベント、ショップ、レストラン事業といった兼業で収入の大半を賄っている。
とりわけドイツではグリーン・ツーリズムの意識が強く、BAG(協会)やDLGなど政府、自治体、産業界の支援制度が充実している。したがって農業者にもマネジメントのノウハウを吸収する機会が多く、その意識も高いといわれている。 今回、6次産業化法が成立した背景にはそのような日本の農業の抱える課題を解消することがあり、まさに政府・産業界を交えた国家的産業支援制度といえる。そこには農業を基盤とした諸処の地域資源を活用して儲かる農業を実現し、農業人口を増加しようとする姿勢がうかがえる。
また従来から取り組んでいる産地直売の普及、野菜の加工などにより、女性の特技を生かして雇用の拡大にもつなげられる。またこの制度は一定の手続きにより認定を受ければ、さまざまな支援を受けられる。
例えば①加工施設、直売施設などの費用の半分を国から補助が受けられる②輸出などの取り組みに当たって各セミナーや商談などに参加できる③融資面でのバックアップ。
最大2,000万円借り入れが可能な短期運転資金(スーパーS資金)の活用、農業改良資金(無利子)の特例適用-などがある。

(平成23年5月25日 日刊工業新聞掲載)

まちづくりと農商工連携

地域活性化の起爆剤に/努力と信念で危機克服

矢島英夫(東京支部)

3月11日の東日本大震災、津波被害には、目を覆うものがある。このような時にまちづくりと農商工連携は、どのように対処すればよいのか。三つの実例を踏まえ検証してみたい。
中堅の酒造会社である神戸酒心館(神戸市東灘区)は、1751年に醸造を始めた。戦争末期の1945年6月5日、空襲ですべての酒蔵を焼失。戦後近隣の蔵元を買い取り、生産再開にこぎつけた。
1995年1月の阪神・淡路大震災は灘地区に大きな打撃を与えた。震災復興では、19億円の融資活用により、免震構造の蔵に直売所、イベントホールを併設。年16万人が訪れる観光スポットとなっている。
 1875年創業の鏡山酒造(埼玉県川越市)は2000年9月に幕を閉じた。その跡地は10年10月に川越市産業観光館として観光の拠点施設に変わり、市民と観光客との交流を促進させ地域の活性化を図る場所となった。
06年に新たに設立された小江戸鏡山酒造は、08年9月に農商工連携の認定を受けた。酒造りに適した新酒米「さけ武蔵」を地元農家が量産化。新酒米の配合を高めた新味の生酒を製造、観光客が通年楽しめる体制を整えた。さらに、酒米の生産から製造までの体験ツアー企画を提供、観光の新しい視点を生み出した。
いろどり(徳島上勝町)は、料理のつまもの(葉っぱ)に使う材料を販売し、全国でも有数の地域活性型農商工連携のモデル町となっている。
81年2月に起きた寒波による主要産業の枯渇という未曾有の危機を乗り越え、葉っぱを中心に新しい地域資源を軸に地域ビジネスを展開し、20年近くにわたり農商工連携の取組みを町ぐるみで行っている。
東北地方の太平洋側では、地域社会は、今や壊滅状態にある。しかし、これら三つの事例にあるように日々の努力と信念による、地域発展、中小企業の生き残りのヒントがある。  まちづくり団体、NPO、コンサルなどの人々のコーデネートにより未曾有の災難を被った企業などを再生するために、あらゆるスキームを考えることで災害を乗り越えられるのではではないか。

(平成23年6月1日 日刊工業新聞掲載)

社員教育の仕方に工夫を

好奇心持たせ思考力養う/終業後の勉強会も効果

平山道雄(東京支部)

企業内において、部長職や課長職にある人の多くが部下の行動や教育に関して悩んでいるのを見たり聞いたりすることが少なからずある。
部下達は、技術系・事務系を問わず与えられた仕事に対する興味や関心はあるものの、またマニュアルや作業指導書を参照しながら仕事はするものの、扱う製品や仕事のやり方に対して好奇心を持たなかったり示さなかったりする傾向がある。これは就職前の生活(特に学生生活)が就職するために必要な知識修得のみに力を入れてきたためのように思われる。
また企業においては、経費節減の折、費用を節約した社内教育が従来にも増して重要である。企業内で自らが行う教育方法の一つは、日常の仕事を通じて行ういわゆるオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)教育であり、もう一つは集合教育の二つが考えられる。この二通りのそれぞれから、好奇心・探求心・観察力・思考力などが培養されるように職場に適した指導・教育方法を組み立てることが肝要である。
OJTにおいては本来の考え方に変化を加えて教えること以外に、目的を明示し確認しながら時間の許す限りにおいて一緒になって悩み考えることにより、部下に製品や仕事に関する好奇心を持たせ、合わせて思考力を養うように仕向ける指導が必要である。
集合教育においては業務上発生した問題解決の場においても目的を明確にし、疑問を投げかけながらブレーンストーミング方式で会議を進め、部下たちに花を持たせた形で解決に当たることで自信を持たせるようにする。
また、毎週一日を定時終業の日と決めている企業が多い今日、月に一日または二日、定期的に終業後2時間程度の勉強会を持つことをお勧めしたい。ここではWF分析法・動作経済の原則・事務工程分析等々科学的管理の基本を振り返ることによる基礎固め(温故知新)、また問題・課題を含んだケースを用いて全員で討議するケースメソッド方式による研究会は探求心・観察力・思考力の養成に大いに役立つものと考える。
日本経営士会ではケースメソッド方式を取り入れたMPP研究(経営士能力開発プログラム)を実施し会員の資質向上に効果をあげている。

(平成23年6月8日 日刊工業新聞掲載)

浮上するエシカル・マーケテイング

「つながり」と「社会貢献」/震災で高まる消費者意識

上野延城(埼玉支部)

東日本大震災の発生後、社会のために何ができるかといった「エシカル消費」が高っている。
 エシカル(ethical)とは「倫理的」「道徳的」という意味。エシカル消費とは、消費者が商品やサービスを選ぶ際に、社会規範に配慮したものを優先する行動を指している。
 エシカル消費の認知度が高まったきっかけは、売上に応じてアフリカに清潔な水を送るといった飲料メーカーのキャンペーンである。  内閣府が2010年に行った「社会意識に関する世論調査」によれば、日本人の65.2%が「日頃、社会の一員として社会のために役立ちたい」と考えている。この割合は10年前に60.7%、20年前は54.1%であった。
このように社会貢献に対する意識は高まっており、エシカル消費は従来以上に根付きやすくなっている。
エシカル消費のメリットは、自分に負担をかけずに、普段の消費行動のなかで自然に社会貢献ができるといった点が挙げられる。
「世の中のために良いことをしたい」「良いことをしている人を応援したい」という思いが、今後、企業や商品を選択する際のひとつの基準になっていく。
消費者のエシカルな意識にビジネスで応える企業も徐々に増えている。
博報堂の震災後の生活と消費の意識・行動に関する調査によると首都圏では「応援消費」が「買い控え」を上回っている。特に既婚女性では「応援消費」の傾向が全体よりも高い。
 エシカルはこうした消費者意識と企業活動や商品・サービスをつなぐキーワードとしての役割をもたらしている。
 エシカルの言葉の認知度が高まれば、企業の姿勢は今まで以上に消費者に訴えやすくなる可能がある。
 東京大学大学院の松原隆一教授は、つながりを重視する消費は、社会への貢献を重視する「エシカル」な方向へ向かうので、企業はビジネスとエシカルなことをセンスよく両立させ、さりげなくお金を使わせることが大事と述べている。
 商品やサービスの機能だけでなく、社会貢献を付加価値として提案しないと、消費者に受け入れられない難しい時代となっていく。

(平成23年6月15日 日刊工業新聞掲載)

中小企業は今こそBCPの策定を!(上)

緊急事態に備え/ステークホルダーとの信頼構築

小林祥三(東京支部)

東日本大震災で危機管理体制の重要性が強く認識された。筆者は中小企業に今こそBCPの本格的作成を提言したい。
BCP とは「事業継続計画」と呼ばれ、企業が自然災害、あるいは新型インフルエンザなどの集団感染などの緊急事態に遭遇した場合に、事業の損害を最小限にとどめて、事業の早期復旧を可能とするために、平常時に行っておくべき活動や、緊急時における事業継続のための方法・手段などを策定した計画書のことをいう。
  中小企業は、経営基盤の脆弱性のため、緊急事態が突発的に発生した際に、有効な対策を打てなければ、廃業に追い込まれる危険性や、事業を縮小し従業員を解雇しなければならない状況も考えられる。潤沢な経営資源により経営基盤が確立されている大企業よりも、むしろ中小企業にこそBCPの作成は不可欠と言っても過言ではない。
企業は顧客・仕入れ先などの取引先、株主・出資者、従業員、地域社会という四つのステークホルダーとの信頼関係によって成り立っていることは広くいわれていることである。BCPを策定する目的は、緊急事態に直面した場合に、まず従業員の安全を確保したうえで雇用を維持し、取引先との信用を守り、地域経済の活力を守ること、さらに緊急事態に対する中小企業の脆弱性について出資者の抱く懸念を解消させることである。
換言すれは、緊急事態に備えるBCPが策定されていない企業は、それを取り巻く四つのステークホルダーからの事業運営に対する信頼性を損なってしまうことになるといえよう。
現在BCPのひな型は経済産業省・中小企業庁をはじめとして、さまざまな機関から発表されている。筆者はステークホルダーとの信頼関係構築という観点から、特に中小企業に重要な事項は、①企業間の互助体制の確立によるサプライチェーンの確保②運転資金の確保③地域への貢献活動―の3点と考える。
経営コンサルティングを行う経営士は、この3項目を柱に、クライアント企業の業態の特性を勘案し、有効なBCPが作成できるように経営者に助言すべき役割がある。3項目の施策の骨子は、以下2回にわたって記述する。

(平成23年6月22日 日刊工業新聞掲載)

中小企業に今こそBCPの策定を!(中)

企業間の互助体制確立/平時から緊急時に備え活動を

小林祥三(東京支部)

前回、事業存続計画(BCP)策定に当たり、ステークホルダーとの信頼関係構築という視点から、特に中小企業に重要な事項は、①企業間の互助体制の確立によるサプライチェーンの確保②運転資金の確保③地域への貢献活動―の3点と述べた。今回は①の「企業間の互助体制の確立」について、施策の骨子を述べる。
今回の東日本大震災において、企業のサプライチェーンが寸断されるという大きな被害が発生した。大企業に比べ、自社において同一製品の生産拠点を複数持つことが少ない中小企業にとっては、緊急時において同業者間で、被害の少ない企業が被害の大きい企業を助けるという互助体制の確立がサプライチェーンの確保の見地から必要であるため、「企業間の互助体制の確立」はBCPの重要課題である。
このためには、緊急時に備え日頃から同業者団体を通じ、あるいは個別的に情報交換したりして、同業者と友好的な関係を築いておく必要がある。いったんBCPを作成すると、それを眠らせておくのでは意味がなく、平時から緊急時に備え、BCPに記載された事項の活動を行うことが肝要である。
「企業間の互助体制の確立」に関するBCPは、以下の3点に配慮して作成する必要がある。【代替生産先の確保】自社生産施設が被害を受けた場合に備え、代替生産の可能性のある同業者名と担当者リストをあらかじめ作成しておき、緊急事態が発生した場合に代替生産を要請する。自然災害の場合、同一地域にある同業者も同様な被害を受ける可能性場合があるため、遠隔地の同業者を加えることが望まれる。【代替外注先の確保】外注先企業が被害を受けた場合に備え、代替可能な外注先候補企業を事前に調査して、企業名と担当者リストをあらかじめ作成する。【代替生産品供給計画の伝達】顧客にはあらかじめ緊急事態に備えた代替生産品供給計画がある旨を伝えて、供給不安の解消を図り、緊急事態が発生した場合には被害状況と代替供給計画、復旧見通しを速やかに連絡する。自社の被害が軽微で、顧客の被害が大きい場合は、自社従業員を復旧支援のため顧客へ派遣すことも計画に加える。

(平成23年6月29日 日刊工業新聞掲載)

中小企業に今こそBCPの策定を!(下)

必要費用をあらかじめ算出/可能な限り地域支援

小林祥三(東京支部)

本項の最終回である今回は、中小企業に必要な事業継続計画(BCP)の重要3事項のうち、②の「運転資金の確保」と、③の「地域への貢献活動」についての骨子を述べる。
災害を受けた場合、施設の復旧や代替手配、さらに従業員の生活支援のため資金需要が急激に増加する。大企業に比べ財務基盤の弱い中小企業にとっては、必要な運転資金の確保が深刻な問題となるため、②は中小企業のBCPとして重要課題である。②に関して以下の3点を考慮しBCPを策定する。
(1)中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」に記載された「財務診断モデル」を活用して、被害程度に応じた必要費用をあらかじめ算出しておき、災害発生時には実際の被害状況の判定に基づき、不足資金を迅速に予測する。
(2)損害保険契約での補償範囲をあらかじめ明確にし、緊急事態が発生した場合には損保会社に速やかに連絡をして、支払いの早期実現を図る。
(3)被災した中小企業者向けに、公的金融機関による緊急時融資制度があるため、あらかじめこれらの制度が適用される要件及び特別相談窓口のリストを作成して、資金不足が生じた際には、「財務診断モデル」で算出した不足資金の融資を速やかに申請出来るようにしておく。
中小企業は、地域社会と伴に生きるという地域経済の活性化に密接な存在である。自社の事業継続とともに、可能な限り地域を支援することは、地域社会というステークホルダーとの信頼関係構築のために重要で、③は中小企業のBCPにとって忘れてはならない項目である。BCPには以下の3点に配慮する必要がある。
(1)自社事業所近隣で災害が発生した際に、人員の許す限り被災者の救出・応急救護に協力する。このためには、あらかじめ特定の従業員に救命救急訓練を受けさせておくことが望まれる。
(2)自社で災害用に備蓄した飲料水・保存食・防災具などを余裕のある限り地域に提供する。
(3)損傷した住宅の後片付け、救援物資の仕分けなどの活動に従業員の自主的なボランティア参加を企業として支援し、さらに必要に応じて、従業員に業務としてボランティア活動の参加も検討する。

(平成23年7月6日 日刊工業新聞掲載)

ロジカルシンキングを身につけよう

意思決定の精度高める/行動をスピードアップ

豊田賢治(埼玉支部)

政府は消費税増税の方針を打ち出しているが、国民の理解が十分得られているかといえば必ずしもそうではない。国民に対する説明責任が足りないのが原因だと言われている。しかし、ただ説明すればよいということではなく、わかってもらえる説明が必要である。
 企業においても根拠が曖昧なまま事業に取り組んで失敗したり、関係者の理解が不十分で十分な協力が得られないというケースが多い。これらは、論理的に考えたり伝えたりすることができていないためにうまくいかないのである。ロジカルシンキング(論理思考)がブームになったことがあったが、ビジネスでは基礎的に身につけるべき考え方であるにもかかわらず、いまだに定着していない。
 ロジカルシンキングの必要性は、①重要な論点を外さずに議論できる②周りにわかりやすく伝えられ、関係者の協力が得られる③グローバル化に対応し、外国人とも対等に議論できる―などにより、意思決定の精度を高め行動をスピードアップすることにある。
 ロジカルシンキングとは何かというと、「論点の全体構造とつながりを明らかにすること」である。人間はまず、主たる大きな考えを提示され、それからその大きな考えを構成する小さな考えや根拠を提示されると最も理解しやすいのである。これは、人に説明するときだけでなく、自分の考えを深めていくときにも同様であり、自分が何をどのように考えているかをはっきりと意識することになるのである。
 では、どのようにロジカルシンキングを身につけるのかというと、ロジカルシンキングの中心的な思考構造である、ピラミッド構造を構成する「ロジックツリー」を使いこなす訓練をすればよい。「ロジックツリー」とは問題や課題や項目を大項目、中項目、小項目と枝分かれして「全体構造とつながり」を図形化してわかりやすく表現するものである。
 具体的には、自分の仕事をロジックツリーで構造化する、新聞の社説をロジックツリーでまとめる、企画書や報告書などのビジネス文書の構想をロジックツリーで構成するなどを、日頃から実践すれば、論理的思考が身につき、わかりやすい説明ができ、周りの協力も得られるようになるのである。

(平成23年7月13日 日刊工業新聞掲載)

0歳児のマニフェストを作ろう!

全国民の衆知を結集/長期視点で着実な成長戦略

塚本裕宥(北関東支部)

国民と政治家や官僚に強く伝えたい。
 大震災の復興構想も大切だが、それ以前に0歳児のマニフェストを作る必要がある。躊躇している暇はなく、全国民の衆知を結集したい。
分かりやすく言う。1,000兆円近くの国債残高、0歳児にとっては生まれながら一人約1,000万円の負債を背負い、先送りはできない。国債元本を年間5兆円ずつ返済しても残高ゼロには200年間必要だ。利息分についても返済原資が必要、冷静にかつ厳粛に考えよう。
市民は自覚し、政争に明け暮れる政治家や官僚への監視を強めよう。今すぐ社会のありようを論じて、将来像を描こう。
 正確に言えば1~0歳児のマニフェストを作ろう。1世代(寿命)で100年間、2世代(寿命)で200年間等の長期の配慮が必要だ。
長期視点で政治、行政、経済、産業、金融、環境、教育、労働(雇用)、厚生、外交、文化、科学、技術……その他あらゆる分野を総体的に見直して策定する必要がある。国民を総動員する覚悟も必要だ。民主主義の原点から賛成は半分以上で十分だ。
夢物語の成長戦略でなく、100年間を見据えた着実な成長戦略を描こう。多くの識者が論じている成長戦略は具体性、着実性、実現性を欠くと見る。
 努力目標は必要でも人口減少社会にあって実現性に乏しい案は不適切だ。税と社会保障制度の一体改革等当然だ。歳出削減や増税等聖域を設けずに論じたい。
 国民は増税を嫌うが、無駄遣いの排除等は当然として、増税が必要なのは一目瞭然のようだ。
優先順位、重要度、緊急度等、短期視点でなく長期視点で論ずべく0歳児のマニフェスト作りを提言する。
高齢者への手厚い保護より、これから生まれる幼子への希望を託そうではないか。高齢者福祉は応分でよいと覚悟を決めよう。
マニフェスト作りには、将来を担い、将来に責任を持つ若い力が必要だ。若い人たちに任せ、高齢世代は彼らへの助言や支援に徹したい。

(平成23年7月20日 日刊工業新聞掲載)

サービス産業の販売力強化(上)

ESがCSを支える/「頑張ってるね」仕事の糧に

島影教子(東京支部)

総務省統計局が民間のシンクタンクを使って実施する「サービス産業動向調査」発表によると、2010年12月の売上高は24.9兆円である。これは昨年同月比2.0%の減少傾向にある。従事者数は昨年12月で2613万人あり、従業員数は前年比2.0%の減少である。それでも12月は年末需用があり若干持ち直して11月よりは0.4%増えている。
事業の内訳では医療・福祉サービスが増える傾向にある。今後は3月の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の影響で減少は免れないであろうが、それでもサービス産業は我が国を支える大きな産業であることは間違いない。これがわが国のサービス産業の現状である。
私自身、商業施設の販売員スキルアップ支援をメインに活動しているので、サービス業に従事する販売者の販売力強化について3回に渡って提言していきたい。
まず、初回のこの回では従業員満足度(ES)が顧客満足度(CS)を支える基本原理を考えてみる。そもそもサービスの言葉自体は「奉仕する(サーブする)」に由来し、有料のサーブと無料のサーブとに分かれる。基本は人が人にする行いで、評価そのものを判断するのはサーブされる側にある。
常にお客様評価が付く「お客さまありき」の商売である。今や飽和状態ともいえるサービス産業は、施設数の増加に伴い過剰なサービス競争を繰り返しているのが現状で、尽くせども尽くせども顧客はさらなる利便性を求める。できて当たり前の状況下でサービス従事者は疲弊している。
事実「私・・この仕事に向いてないのじゃないでしょうか?」などという相談も多く受ける。そんな時は自分に向いているかどうか決めるより、その仕事が好きか、その仕事をしていて楽しいかどうかを問うようにしている。 創意工夫で行う行動が認められた時、人はがぜん頑張れる。ホスピタリティー精神を嫌う人はいないはずで「ありがとう」のひとことがサービス提供者を支えるのである。つまりESがCSを支えているのである。お客様からの「ありがとう」だけでなく管理者からの「頑張っているね」の言葉を彼らは待っている。

(平成23年7月27日 日刊工業新聞掲載)

サービス産業の販売力強化(中)

「顧客」でなく「個客」をみる/要望しっかり受け止めて

島影教子(東京支部)

大切なお客様を「顧客」などと呼ぶこと自体、すでにお客様を意識しない姿勢が見える。お客様はさまざまなシーズやウォンツ、ニーズがあって私達の企業や施設を利用する。「顧客」でなく「個客」視点で向き合う必要がある。 ワン・ツー・ワンマーケティングの必要性が高いのがサービス業である。お客様が私たちに評価を下す原則下では一度でも不快な気持ちを持つと二度とその施設を利用することはない。選択の自由は利用者にある。しかし、それでは当然企業の存続に影響が出てくる。気づいたら利用者数が減っていたでは困る。
米国の顧客離れ調査によると1年間に25%のお客様が離れていく調査結果がある。さらに、その6割近くは繰り返し施設を利用しているのに何ら変わらないサービスに嫌気がさしている結果である。
 では、どうしたらお客様のニーズが分かるのか、答えは簡単である。要望を伝えてこないお客さま、また要望が明確でないお客さまにはこちらからお聞きするしかないのである。そのために販売者には会話力とカウンセリング力が必要になる。言わないならこちらから聞きに行く。
ただしこのタイミングが難しい。相手の懐に飛び込むのか、はたまた心開くように切り口を探し徐々に近づくのか、相手を見極めなければならない。お客様動向や言葉の端々に出てくる要望をしっかり受け止めて対応する必要がある。アプローチとニーズ確認が要である。
これは何も物販だけに限ったことではない。業種・業態にかかわらず無形商品を取り扱うサービスでも同じである。サービス全般に言えることである。自社が製造業でも事務職でもお客様は存在する。自分と対峙する人、全てがお客様と意識するとよい。取引先、エンドユーザーそのものがお客様である。
地方自治体でサービス研修をすると「私たちは窓口ではないので」と平気で言う人がいる。直接的か間接的かの違いだけで彼らも市民というお客様満足を提供する側である。お客様にしっかりと向きあうパーソナルサービスをしたい。
マネジメントの父ドラッカーは常に「顧客は誰か」を問いている。人、皆お客さまであり、お客さま(個人)をパーソナルに幸せにすることがサービス者の使命なのである。

(平成23年8月3日 日刊工業新聞掲載)

サービス産業の販売力強化(下)

ロールプレイングで自信/経営者こそお客様視点を

島影教子(東京支部)

この時期、商業施設は接客ロールプレイングコンテストに向けて研修と人選がクライマックスを迎えている。百貨店協会もショッピングセンター協会もこぞってロールプレイング大会を行う。自社内でコンテストを行う企業も数多く見かける。
その目的は販売者を競い合わせることでも、自社の名前を残すためのものでもなく、ロールプレイングを通して販売者のスキルを上げることにある。根底にあるのは、日々悩み続ける彼らに自信をつけてもらうための有効な手段なのである。
「役割演技法」の名の通り、演技が先に立ちパフォーマンスの高い発表が目に付く傾向があるのは否めないが、それでいいと思う。自分ではやり過ぎぐらいでちょうどいい。2割増しで表現するくらいで相手に届く分かりやすい印象に残る対応になる。自分が思うほど実際には表現できていないのがほとんどだ。お客様は買い物をする楽しみや、元気を求めて我々の所にやってくる。大阪弁でいうところの「辛気臭い」顔など誰も見たくない。真顔の待機や応対に楽しさがあろうはずがない。
 もうひとつ、企業としてはお客様視点でサービス評価をする必要性がある。いわゆる覆面調査(ミステリーショッパー)の実施である。自分はできている「はず」「つもり」のサービス行動もお客様からすれば不足ということが多い。不満足であるなら大いに反省し改善しなければならない。経営者こそお客様視点を重視する必要認識を高めて欲しい。
企業運営に重要業績評価指標(KPI)は必要不可欠である。ただし一度だけでは意味がない。同月同時期での比較とセルフチェック、管理者の日常判断も含めて判断することが重要である。そのための予算配分が必要である。結果から導きだされた問題点に気づけるのか、問題として認識できているのか、その問題をどのように解決するのか、解決に具体性があるのか、誰にでも分かりやすく実行できるようにブレークダウンされているのか、問題解決は実行されてこそ意味のあるものになる。
ぜひ、思うだけでなく実践されたサービススキルの向上に向けて努力を惜しまず強いサービス企業として継続経営をしてほしい。

(平成23年8月10日 日刊工業新聞掲載)

企業発展の糧「社会的責任」

ISO26000の知識習得/全社員対象に倫理観培養

平山道雄(東京支部)

団体・組織体における社会的責任の重要性・必要性は昨今の不祥事ニュースを聞くたびに感じられる。
2010年11月1日にISO26000の規格(社会的責任)が発行された。この規格の目的は、企業・団体などの組織体を長期的に持続し発展することを可能なものにすることにある。この規格は認証目的を意図していないし、またこれを推進するためには無形物への投資となることから、企業内ではいささか疎遠にされてきている傾向が感じられる。
社会的責任には①倫理的責任②法的責任③経済的責任④社会貢献的責任の四つに加えて⑤生産的責任の五つがある。この責任を組織体全体で果たしていく仕組みづくりの規格を示したのがISO26000であると解釈すればよいであろう。 規格に示されている七つの原則、すなわち①説明責任②透明性③倫理的な行動④ステークホルダーの利害の尊重⑤法の支配の尊重⑥国際行動規範の尊重⑦人権の尊重-を念頭に置き重視しながら、七つの中核主題として①組織統治②人権③労働慣行④環境⑤公正な事業慣行⑥消費者課題⑦コミュニティーへの参加およびコミュニティーの発展-があり、それぞれに課題が設けられている。
この社会的責任を推進していく仕組みを創り、全員が一丸となって実践し社会的信頼を増大させながら、永続的発展を可能な状態にしなければならない。
ISO26000の推進には企業・組織体が内外に持つ「人・もの・金・情報」など各要素が複雑に関係し合うことが予測される。だから、トップの方が強い関心を持ち担当者を兼任でもよいから2名任命し、ISO26000に関する知識を修得させると同時に、全社員を対象に、論理的思考力と倫理観の培養を図り、推進し得る土壌・体質を創っておくことが第一である。
手順良く考える思考力を養うには平面幾何などの証明問題を活用するとよい。また倫理感覚の培養は日常の生活・行動などから話題を見出し毎日の朝礼話材とする。倫理的行動は自然に法令順守に繋がるものである。
ISO26000は日本的経営の蘇生に貢献し産業社会と個々の企業・団体の活動・発展に寄与すると同時に広範囲の活動に役立つものと考える。

(平成23年8月17日 日刊工業新聞掲載)

節電対策と環境マネジメントシステム

良いスパイラル構築/経営全体の見渡し企業価値向上

土橋留美子(東京支部)

経済産業省の電力需給対策により、消費電力削減に苦戦している企業も多いのではなかろうか。安易に照明や室温から手をつけがちだが、弊害も大きい。
 実際に中堅の印刷工場において室温を28度Cにする節電対策を実施したところ、インク塗料の乾きの遅れから、断裁製本までの時間が伸び、休日出勤をやむなくされた。結果、人件費の増加、社員の体調にまで影響を及ぼす悪化スパイラルを招いた実例もある。
多くの生産ラインでは生産性や品質について日頃から監視システムを構築しているはずであるが、環境の激変に対応しきれない企業も少なからずある。輸出企業が円高不況にあえぐ中、どれだけの企業が節電に費用をかけられるのか疑問が残る。
大手企業では新技術による対策も積極的だ。自動車工場では、車体塗装方式を、新塗料で車体全体を漬け込む形で塗装する設備導入し、大きく電力とコストの軽減を図っている。
デマンド監視やラインのモニター、発光ダイオード(LED)照明など、ある程度の設備投資は必要だ。夜間・休日への生産シフトは節電実績が上がっている。
さらにアナログ的な節電対策は、同時間帯に複数の設備・機器の電源を一度入れると必要以上の電力負荷となるため、時間を20分程度ずらして入れていく。空調機によしずをかけるなどの工夫も案外有効だ。
 節電のために生産性や品質低下、原価高、そして業績悪化になったのでは元も子もない。環境を考える今こそ環境マネージメントシステム〈EMS〉の導入を考える必要がある。
日本経営士会では簡易でエコノミーなコンパクトエコシステムを推進している。前者が悪化スパイラルなのに対し、EMSはどこまでも良いスパイラルを構築していく。節電への取り組みはもとより、経営全体を見渡すことで、企業価値そのものや業績を上げていく。
 自社生産品をどのように生かしていくか、目的転換も必要な時期である。個々のエンドユーザーへ向けての開発・供給を、社会インフラ構築のための製品へ視点移行していくのも生き残りの秘訣だ。

(平成23年8月24日 日刊工業新聞掲載)

企業と事業承継(上)

震災に見る絆の大切さ/全国的な連携の仕組み重要

西 満幸(東京支部)

東北地方の自動車と電子部品の出荷額のシェアは、国内総生産(GDP)の倍以上のシェアである。これは、この地域に先端技術中心の一大産業クラスター形成を意味する。東北の豊富な労働力、土地や水資源、高速交通網の発達、東北大学をはじめとする教育機関の充実に支えられ、1990年代から発展した。東日本大地震を契機に企業は国内外における生産拠点の分散や調達先の多角化、戦略在庫などの手を打っている。大災害から学ぶ企業の事業承継のヒントは何であろうか。
(1)普段の絆
日本企業の強さは部品、素材、製造装置と完成品メーカーとの連携である。今回被害に遭ったハイテク系中小企業は高台にあったものが多い。建物や機械の倒壊などの被害に遭っているが、津波流失は少なかった。
震災後、「精密機械を貸してくれませんか」のメールに応え、普段の中小企業交流をもとに「近くの異業種」が支援した例、被災した部品メーカーが完成品メーカーの工場の一部を借りて震災後数日後には生産再開した例など普段の絆の大切さを痛感させられる。
企業としては建物の耐震化を進めると同時に、絆というソフト対策が重要である。危機管理の基本は平時における危機の認識と事前の準備にある。いざという時にどのような体制をとるか、それを日頃訓練し絆の醸成につなげる。
これから中小企業には、下請けメーカーから標準部品メーカーへ、成長求め海外に挑むことが期待される。産業クラスターは地域の集中生産による技術やコスト競争力、生産効率化などに有効であり、その強みと弱みを再考し強化すべきである。
(2)広域連携
前述の精密機械の例で全国中小企業団体が震災後いち早く支援した例や、物的被害のない菓子メーカーが物流途絶により生産不可となり、鹿児島の同業者が生産依頼に応じた例など、遠くの同業種による支援がある。
普段から全国中小企業の設備状況のデータベースを整備しこれを災害時や国の開発援助に活用する。「遠い親戚より近くの他人」といわれるが、今回の広域災害をみて全国的な連携の仕組みづくりの重要さが痛感させられる。

(平成23年8月31日 日刊工業新聞掲載)

企業と事業承継(下)

災害に強い街づくりに貢献/原発事故の教訓生かそう

西 満幸(東京支部)

(1)街づくりと企業
100年間に4回もの大津波が来るような地域では、工場や住居の立地は標高と命が密接な関係にある。これは東日本大震災1ヶ月後の東北3県の死者の92%が溺死からもわかる。明治の三陸海岸の石碑が語るように「子孫が幸せに繁栄していくためにはこれより下に絶対に家を建てるな」を順守すべきである。生活の不便さはあるが、交通、ITで十分補完できる。
企業は建物の耐震化を一層進め、災害に強い街づくりを目指して土地利用制限、集団移転制度、都市機能の集積などあらゆるメニューを活用し地元と協力しながら、内外観光客が安心して訪れる新しい街づくりに貢献すべきである。
(2)一次産業と事業承継
グローバル化の中では世界で通用する農林水産業に脱皮しなければならない。減り続ける専業農家、進まぬ規模拡大、高齢化、伸びない農業法人数など課題は多い。
 今後、農漁村の雇用確保には規模経営を追求する経営が必要であり、法人化や統廃合などは避けて通れない。
 われわれは近代以降、工場や職場と住む場所を変えてきた。一次産業においても職場と住居を分離する通勤の時代を迎えたのではないか。これは、かつての海女、ニシン漁などの番屋の現代版である。
わが国の一次産業は農商工連携などによる第六次産業化を強力に進め、高品質を生かし輸出に活路を求めれば魅力ある一次産業に再生でき、地域の雇用を守り、雇用創出が可能となる。
寺田寅彦は「災害は忘れたころにやってくる」といった。「今や自然や経済危機などの災害は忘れないうちにやってくる」のである。自然の脅威に対してなすすべもなかった近代までは、日本人は涙を流すことで災害の悲しみを忘れ、再出発を図ってきた。
現代はこれだけでは2万余の鎮魂に対して済まないと思う。また、原子力発電についても現実を冷徹に見つめる時期である。地球温暖化や国際的な電力醸成を見ると今回の事故経験を生かし、これをわが国の事業機会として捉え平和利用面で国際貢献すべきではないだろうか。

(平成23年9月7日 日刊工業新聞掲載)

中小企業の復興と特別貸付制度

経営改善への意欲高める/間接被害も制度活用を

新見健司(千葉支部)

政府は東日本大震災と原発事故によりダメージを受けた中小企業に対してさまざまな資金繰り支援を行っている。また震災前の2010年12月、金融庁は「中小企業金融円滑化法を一年間延長し、12年3月末までとする」ことを公表している。この保証制度は85万社の中小企業に利用され、公的金融機関の貸し付け条件の変更実績は120万件に上っている。
 被災から半年が経過したこの時期、中小企業が倒産や従業員の失業を防ぐ上で、まず求められるのは、経営者の経営改善に対する意欲と経営実態の把握ではないだろうか。経営者は金融機関との間で資金繰り計画を策定することで、経営マインドを改善できる。
 経営者が目を向けるべき制度として、5月の11年度第1次補正予算で成立した「東日本大震災復興特別貸付」(政府系金融機関)融資制度がある。融資は一定の条件があるにしても「自分の工場は直接の影響はなかったが、納入先企業が地震に遭い、代金回収のめどが付かない。当面の運転資金の導入を考えたい」などという中小企業は風評被害を含めた間接被害者として本件に該当する。
次に注目するのは信用保証協会が創設した融資額100%を保証する「東日本大震災復興緊急保証」制度となろう。セーフティーネット保証と災害関係保証と合わせた保証を組むことが可能なのだ。
 また政府は7月に総額2兆円の11年度第2次補正予算案を閣議にて決定した。中小企業の二重ローン問題対策債権買取支援に31億円を拠出するほか、原子力賠償支援機構設立、仮設店舗整備事業、施設復旧支援など重点を置いている。今後は本格的な震災復興対策を盛り込んだ第3次補正予算案も編成され、引き続き中小企業支援を強化するもようだ。
 日本政策金融公庫は震災被害でいったん廃業した中小企業が新たに事業を開始するとき、低利で長期な貸し付け条件を適用し支援している。そのほか「マル経融資」、再生支援協議会の利子補給を行う支援措置がある。
税務については4月の税制改正法成立に伴い、義援金・取引先の被災・被災企業の損失等々の税務上の支援措置が行われている。特別貸付制度は専門家に相談していただき、早期の活用を期待したい。

(平成23年9月21日 日刊工業新聞掲載)

困難な時代-ニーチェに学ぶ

自分自身の内的な「力」創像/形而上学的な目標持て

近藤 肇(中部支部)

大学生の就職が厳しい情勢である。7月時点で内定率は65%といわれているが、大学によっては30%程度と聞く。世界の経済が不安定で、日本の多くの企業は円高で業績不振にあえいでいる。この先、若者に十分な雇用が確保されるのか極めて不透明だ。
スペインでは失業率が21%と聞く。英国では財政難で福祉予算の圧縮のため暴動が発生している。米国ではデフォルト(債務不履行)の危機がささやかれている。日本政府は900兆円の国債残高を抱え、さらに東日本の震災復興のため財源を増税に頼らざるを得ない状況である。
自殺はこの数年間、3万人を超えている。日本人は宗教的な基盤が薄く、自由な生き方ができる半面、厳しい状況に陥った場合、人々に心のよりどころがなくなり、孤独にさいなまれる。「自分がなんのために生きているのか?」「何のために苦しんでいるのか?」。
若者が面接で理不尽な扱いに憤りを感じて、社会の矛盾に耐えがたきニヒリズムを感じざるを得ない。人生は失恋、嫉妬、怨恨、不満、それらを抱えて生きている(ルサンチマン)。
それがこの世界の通常の姿であると認識すべきであろう。
人間の世界は矛盾に満ちている。凡庸な人間はそれがひとつの「生」への深い了解であると認識すべきであろう。「それにもかかわらず、人は生きねばならない」
ニーチェの思想は「いずこの時代においても永遠に繰り返して生きているのが現実である」。世界はただ無限の時の中を意味もなく、ぐるぐると回帰しているだけである。
自然界でも深い雪や氷の世界が溶けて水になり、大きな海になる。大海の水は蒸発して雲となり雨となる。それは恵みの雨であるが、場合によっては洪水ともなる災害をもたらす。自然界のサイクル(おきて)でもあり、この循環を繰り返すのみである。この永遠回帰の中で人間は生きているのである。いかに生きるかを自分自身で選択することである。
自分自身の中のルサンチマンを克服するためには、この世界の「あるがまま」を是認して、世界に立ち向かう自分自身の内的な「力」を創造することだ。いつか大きな夢と希望を実現するであろう(超人となる)。
それには世界に立ち向かう「形而上学的な目標」を持つことが重要である。それが「生」の価値である、とニーチェは言う。

(平成23年9月28日 日刊工業新聞掲載)

国際ガイドラインからSR活動を考える

地域貢献活動の充実を/新たな視点で検討すべき時

小林 祥三(東京支部)

企業の社会的責任はCSRと従来から呼ばれてきたが、社会的責任は、なにも企業に限らず、NPOや公共団体も含む幅広い組織に求められる。このため、企業を意味するCorporateという文言を外して、現在ではSR活動と呼ばれるようになってきた。
2010年11月に、SR活動の国際ガイドラインとしてISO 26000が公表された。ISO 26000は、①組織統治②人権③労働慣行④環境⑤公正な事業慣行⑥消費者課題⑦地域社会への参画―7項目の中核主題とそれにかかわる課題を掲げている。
 中小企業にとって、これだけ広範囲の主題に取り組むとなれば、相当の負担が生じるから、優先順位を検討する必要がある。7項目の中で①は、他のすべての項目の基盤となるため、まず考慮すべき項目である。これは内部統制の構築によるコーポレートガバナンス(企業統治)の充実に相当する。中小企業に求められる内部統制については、本紙の08年11月12日から3回にわたって「経営士の提言」に発表したため、それを参照されたい。
次に考慮すべき項目は⑦と考える。なぜなら、中小企業は、顧客が地域住民であったり、経営者や従業員も地域住民である場合が多く、地域社会とともに生きる中小企業としては、⑦の「地域社会への参画」を新しい視点から考える必要があるからである。ISO 26000には⑦に係る課題として、(1)コミュニティーへの参画(2)教育・文化(3)雇用創出・技能開発(4)技術の開発とアクセス(5)富および所得の創出(6)健康(7)社会的投資-が掲げられている。
日本政策金融公庫の08年の調査によれば、中小企業の地域貢献活動は、地域の祭り、伝統行事の開催・維持や商店街の活性化に関するものが中心となっている。これらは地域社会にとって意義ある活動ではあるが、ISO 26000の公表を機に、中小企業経営者は、新しい観点からの地域貢献活動の充実を検討すべき時だと考える。
例えば、地域の学生・生徒の職場体験の提供やインターンシップの受け入れは(2)に、高齢者の雇用・就業支援は(3)に、地域内企業と共同での技術開発は(4)に、今まで蓄積したノウハウを生かして地域の起業を支援するのは(5)につながる新しい地域貢献活動の課題に合致するものと考えられる。

(平成23年10月5日 日刊工業新聞掲載)

中小企業も積極的に海外進出を(上)

「超円高」前提に対策を/生き残りへ実行の時

長谷川 正博(東京支部)

本年8月19日、1ドル=75円95銭と円が戦後最高値のレベルとなった。輸出を手がける企業は、収益悪化要因である円の動向に神経をとがらせており、早急に「超円高」に終止符を打つよう政府に期待してはいるが、今回の円高は日本経済の実力の反映ではなく、消去法で円が買われていることは周知の通りである。政府・日銀は円が77円台となった8月4日に4.5兆円を使い「円売り」介入を実施したが、すぐに円高に戻ったことは記憶に新しい。
米欧とも「他人のことにはかまっておられぬ」状況下にあり、共に「内向き」姿勢であることを念頭に入れる必要がある。このような事態では、「円安」方向にはいかず、逆に、再び円高になる可能性の方が高いとの観測があり、企業経営者としてはこれを前提に、対策を練ることが求められる。
この円高に加え、高い法人税率、電力不足、貿易自由化の遅れ(というよりは「背を向けている」)他、企業にとっては国際競争力低下となる多くの要因に取り巻かれているのが現実である。経営者は、いかに自社の行き残りを図り安定した経営を保つか、またさらなる発展を実現させるかを真剣に考え、実行に移さなければならない時にきていると言える。
経済産業省が8月下旬に大企業製造業61社、中小企業93社(うち製造業83社)を対象に行った調査では、今後半年以上現在の円高水準が継続する場合、46%の企業が「生産工場や研究開発施設の海外移転」で対応すると回答している。
大企業が生産拠点を海外に移したり、部品・部材の海外調達を増やしたりすれば、中小でも海外生産を増やしそれに対処しなければならなくなる。現に上記調査で、中小企業の対応策として、「海外生産比率を増やす」が28%、「生産や開発拠点を海外移転する」が17%であった。
アジア諸国からは円高や電力不足等に苦しむ日本の中小企業を自国に誘致し、高度な技術の移転を基に自国産業の底上げを図ろうと、日本の技術力を下支えしている中小企業の誘致に力を入れている。前述の経産省の調査では、大企業の18%、中小企業の13%が、中国その他アジア諸国から海外進出の誘致を受けたと回答している。

(平成23年10月12日 日刊工業新聞掲載)

中小企業も積極的に海外進出を(中)

台湾を足がかりに中国進出/合弁方式でリスク軽減

長谷川 正博(東京支部)

日本企業が海外進出を図る際、最も重視するのが、市場規模が大きく、拡大が期待される巨大市場「中国」であろう。しかしながら、初めの段階から、政治体制、法律・ルールよりは人脈等といわれているようなビジネス慣行が日本と全く異なり、対日感情(中国政府の教育)もいま一つである中国に直接出ていくことは、中小企業としてはリスクが高すぎると言える。この中国をターゲットとする場合、台湾に生産拠点を設置することがリスクを軽減する手段の一つとなろう。
本年8月末、台湾は、日本企業の進出を促す「誘致団」を日本に派遣し投資セミナーを開催、台湾当局が日本の中小企業向けの工業団地を整備する方針を伝えたと報道された。台湾は法人課税の実効税率が17%と日本の4割ほど、賃金も日本の半分以下であり、製造コストの圧縮が見込める。加えて、中国との事実上の自由貿易協定に当たる中台経済協力枠組み協定(ECFA)を結んでおり、巨大な中国市場への足がかりも得やすいというメリットがある。
台湾は2008年春、馬政権発足以後、中台経済関係は急速に深まってきた。長年の懸案だった「3通」(直接の通商、通航、通信)が実現し、金融市場の相互開放でも合意ができた。人口2316万人の台湾は、外貨準備高は世界第4位、対外貿易総額は世界第16位である(10年時点)。貨物船では台湾の高雄から上海まで20時間、航空便も台北から上海までは80分程度である。
日本企業が生産拠点を分散するため台湾に投資する動きも広がっており、10年の日本の投資は前年比、金額で67.6%増の4億50万ドル、件数で27.8%増(340件)であった。
海外進出に当たっては、プランニングの段階で、進出が本当に必要かどうかを十分見極めること。資金力、人材面でも無理のききにくい中小企業の場合、この点を特に慎重にする必要がある。直接進出の場合は、単独か合弁かの選択になる。経営資源面で制約のある中小企業の場合、単独で進出するよりは、適格なパートナーと組んだ合弁方式の方がリスクを少なくできよう。パートナー側が持っている中国市場と中国でのビジネス慣行の知識、人脈、販売ルートなど活用できる有利さもある。
(参考;台北駐日経済文化代表処ウェブは、http://www.japandesk.com.tw/)

(平成23年10月19日 日刊工業新聞掲載)

中小企業も積極的に海外進出を(下)

パートナー選定は慎重に/進出先の情報把握が重要

長谷川 正博(東京支部)

合弁方式を採る場合、パートナーの選定が重要であり、能力が高く、信頼できるパートナー企業を見つけ出す必要がある。また、パートナー企業との信頼関係を構築し、合弁会社設立後も、相互の信頼関係を高める努力を継続していくことが重要である。
選定前の合弁相手(候補)先の信用調査を徹底して行うことは言うまでもない。また、日本側も最終決定権者である社長が出向いて相手の「人となり」を見極めることも必要である。
台湾企業と合弁で企業経営を進めるときの注意点は、①パートナーとの役割分担を明確にすること②現地に即した事業計画をシビアに作成すること③戦略的にマイノリティー出資よりはマジョリティーの方が思ったことができるので、できれば、リスクは伴うが過半数出資をした方が良い―などが挙げられる。
対中国との仕事遂行に関しては、台湾人は言葉の障害がなく、いろいろなかかわり合いや人脈を含めて、日本側としてはメリットは大きい。ただし「文化の違い」があることは十分認識した上で、異文化下での企業経営の進め方を事前に十分理解する必要もある。
台湾企業と手を組み、台湾本体はもちろんのこと、香港やマカオも含む巨大中国市場でビジネス展開をしながら、ここを足掛かりとしてシンガポール、マレーシア、インドネシアなどの華僑(華人)との結び付きも狙い、「中華圏マーケット」進出の可能性を探る方法もあろう。中小企業も、積極的に広い海外に目を向け、自己変革も図りながら成長策を講じることが望まれる。
また、単独・合弁にかかわらず、テストマーケットとして台湾でまず事業展開し、経営ノウハウを蓄えてから、将来的に中国もしくはアジアへの事業展開を図るというステップを踏む選択肢もあろう。
進出形態の選択は、進出後の事業展開や自社の経営資源に対して極めて重要な影響を及ぼすため、計画する海外事業内容に活用できる自社の経営資源を十分に見極め、各事業形態のメリット・デメリットを把握し、最適な形態を選択していく必要がある。
特に、進出先の法律や優遇政策についての情報を把握するとともに、先行事例などの情報に基づいてそれらの運用の実情についても理解することが重要である。

(平成23年10月26日 日刊工業新聞掲載)

論理的思考のすすめ

目的の明確化と倫理・道徳観/組織体の課題解決に重要

平山 道雄(東京支部)

最近は、マニュアル人間が多過ぎるように思われる。これは、自分に与えられた仕事に忠実であるように見えるが、その作業の「目的」や「次工程はお客さま」ということを忘れているからであろう。
しかし、図面・仕様書等を渡されて「これをつくれ」と指示された人は、自分で工夫し努力してできた時は、本人の歓びにはひとしおのものがあり、何年たってもこの歓びは忘れていない。これは自分の持てる思考力を十二分に生かしたことによる賜であり、仕事をする上で思考力がいかに重要かを知り得たことになる。
ただ論理的な面については無意識的に働いているようである。日常生活においても知らず知らずのうちに論理的思考力を働かせている。例えば「明日は日曜日だから紅葉を見に行こう」と思い立った時、自分一人であればその工程は即座に決まるが、他に仲間のいる場合には意見が異なり調整が必要となってくる。この時、皆が納得できる案を出すために論理的思考が役立つ。
組織体における各種の課題解決に対しては、検討に必要な条件(人・物・金・情報等)や外部関連との状況を勘案しながら、いろいろな意見が出され討議される。その結果、最良な案が採用されることになる。
「論理的思考」を「現在から近未来の状況を鑑みて経営に関する事案の解決方法を理にかなって考え続けること」と解する。事案の大小に関系なく最良とされる案は、各種条件を満たしながら物事を手順良く論理的に組み立てて、関係者を「説得」するのではなく「了解」してもらう。そのためには、目的の明確化と同時に倫理・道徳観を重んずる。集団的思考技法の思想を加味して検討することがもちろん重要である。
また第三者の意見も重要な要素となることをも念頭に置く必要がある。特に倫理・道徳観を失っていると利害関係者との間で不都合の生じる懸念があるから注意を要する。
この「論理的思考能力」は定義・公理・定理などを駆使して解を得たり証明する代数・幾何を学ぶことで手順良く真理を追究することから身につく。これらが組織体の重要な経営課題解決に向けた論理的思考による科学的な見方に役立つ。

(平成23年11月2日 日刊工業新聞掲載)

中小のメンタルヘルスケア対策

精神疾患、5大疾患に指定/経営者はリスク管理を 

新見健司(千葉支部)

厚生労働省が本年7月に精神疾患を国民の5大疾病の一つに指定したことをご存じだろうか。従来のがん、脳卒中、心臓病、糖尿病と並ぶ重点対策を必要とする疾病に方針決定された。メンタルヘルスケアラインコース資格者の立場から中小企業の取るべき心得と課題を考えてみたいと思う。
 同省の2008年の調査では、精神疾患の患者は323万人になり糖尿病(237万人)、がん(152万人)を含む4大疾病を大幅に上回っている。また労働者健康状況調査では、一般従業員の約6割が自分の仕事や働く日々に強い不安、悩みやストレスがあり、メンタルヘルス不調による休職者がいる企業は6割に達している。
メンタルヘルスで休職者が1人発生した場合、職場にかかる経済的負担は400万円を超えるともいわれている。
一方、精神疾患のために生じる医療費や労働力損失等の社会的コストが年間11兆円にのぼり、中小企業にとっても非常に大きなリスクとなっている。うつ病や統合失調症などの精神疾患の患者数は今般の大震災と原発事故などからさらに増加傾向にあることが顕在化している。       
 メンタルヘルスケアは経営資源の限られた中小企業にとって、重い課題であるが避けては通れない。職場で従業員は業務範囲が広く、間接人員も少なく、特に管理職はプレーイングマネージャーとして仕事に忙殺されているケースが多い。
メンタルヘルスケアは「自分自身のセルフケア」「上司・管理職のラインケア」「職場の産業保健スタッフ・産業医によるケア」「医療機関・EPAなど職場外からのケア」の段階があり、まず自分をみつめセルフケアすることが基本となる。
メンタルヘルスの対策としては未然に防ぐ職場づくりと発生(途中経過も)した場合の対応に分けて考える必要がある。普段から準備しておくことは、①管理職クラスがストレスをためない職場づくりと初期対処の基本を認識すること②過重労働の防止と安全衛生に沿った職場の最低限のルールづくり③万一、従業員に異変があった際に会社が取るべき適切な対応方法と不調者の受診命令や報告義務、休職、復職などのルールづくり―など。未病、予防は国の方針であることから経営者はリスク管理の一環として念頭におかなければならない。
(平成23年12月7日 日刊工業新聞掲載)

営業にソーシャルメディア活用を

ITの口コミで情報発信/信頼力やブランド向上

阿部 満(南関東支部)

筆者が日頃から経営コンサルタント(経営士業)として活動する中で、中小企業経営者の皆さまと話をすると「ウチの会社は営業力やマーケティング力がない」「だから良い物やサービスをつくっても案件もなかなかでない」「景気も悪く売れないで困っている」といった声をよく聞く。
実際に、よくよくお聞きすると営業活動を行っているのは社長だけという場合が多々ある。
そんな中小企業でもITという道具をうまく使えば、何倍も成果が上がるのである。その際に、経営の原則である、顧客数×顧客単価×再購買=売り上げ、という公式を忠実に実践するかが重要である。それもITを活用してだ。  では成果が上がるITはどんなものがあるのか。最近、特に注目を浴びているのがツイッターとフェイスブックの二つ。近年情報が膨大に膨れ上がり、企業や個人がどの情報を信じてモノを購入したり、会社を選んだりすればよいか悩んでいる。
 そこで誰を信じていくかと考えた時に最も信頼度が高いのが、家族、友人・知人、会社同僚、同年代の同姓などの口コミなどである。例えば、アマゾンのカスタマーレビューや大手旅行会社のネットサイトの口コミだ。
 中小企業の場合は、自社のお客様であるターゲットに対して意図した形で口コミを発生させるのがツイッターやフェイスブックのビジネス活用方法となる。
それ以外にツイッターやフェイスブックは、もともと運用している自社のホームページ(HP)やブログと連携してアクセス数アップを図ったり、ターゲットとなるお客様とのコミュニケーションを徐々に広げていき、信頼力やブランドを向上させるなどの活用方法がある。
 このように従前の自社のHPやブログなどにツイッターやフェイスブックを加えて相乗効果を生み出すビジネス活用方法を「ソーシャルメディアマーケティング」と呼ぶ。また、ツイッターやフェイスブックは単独の活用でも効果的だ。
例えばお店を経営していれば集客に効果的で、ネット販売であれば宣伝効果も高い。さらに営業担当者が活動する際も、営業担当個人のプロフィルや趣味、お客様との関係(企業機密情報漏洩にならない範囲)などをツイッターやフェイスブックを活用して公開する。 
   お客様からの信頼度を高め、親近感を与えてから営業現場で商談を仕掛けることが可能となる。
ぜひ本記事を参考に、ツイッターやフェイスブックを活用し、自社のHPやブログとの連携により、ソーシャルメディアマーケティングを実践して成果を上げていただければ幸いである。

(平成23年11月16日 日刊工業新聞掲載)

農業とCSR~ISO26000の取り組み

農業通じ食や自然環境学ぶ/社会貢献への意識向上

近藤 肇(中部支部)

食育基本法には、「自然の恩恵や食に関わる人々の様々な活動への理解を深めること等を目的とし、家庭・学校・地域等を中心として教育ファームを効果的に進める」とある。
このことは青少年の食事のあり方に問題があることを示している。現代社会は「個」の時代と言われている。核家族、少子化、高齢者の一人住まい、それらが引き起こす現象として「こ食」すなわち「孤食」「個食」「固食」「粉食」「小食」が現実の食事風景である。
孤独な生活は、鬱やノイローゼの原因にもなっている。企業でもメンタルヘルスやカウンセリングに取り組まざるを得ない。放置すれば労災認定にもつながる。結局のところ企業は家庭との関わりを無視できない。
① ワークライフバランス…仕事と家庭のバランスが企業経営によって重要である。
② 職場のメンタルヘルスケア…職場のストレスや鬱に対する取り組みが労災防止対策。
③ ダイバーシティ―…個々人の多様な働き方の支援。
④ 教育ファームへの積極的な参加…食の安心、安全を学ぶ。
農業は食育を通じて、社会的な役割を果たしている。家族間のコミュニケーション、青少年に対して生産の喜びや学習環境を与える。また地球温暖化への抑制を図るため、二酸化炭素(CO2)削減、生態系の確保など、農業は多くの可能性を秘めている。
ある食品メーカーは企業の社会的責任(CSR)活動として、食の原点である農業(田畑)を通じて、食や自然環境の大切さを双方の視点から関連付けて学ぶことで人材の育成を図っている。
社員がボランティアとして農業に参加し、社会貢献活動への参画意識を高めている。農業による自然の恵みへの感謝、食卓を通じて家族間のコミュニケーションを図ることが基本的な柱となっている。
企業は社会的な責任を期待され、株主や消費者のみならず地域のコミュニティーにも影響を与える存在となっている。
ISO26000はCSRを規格化して実行可能なものにすることを目的としている。具体的には、①人権 ②労働慣行 ③環境 ④公正な事業慣行 ⑤消費者に関する課題
⑥コミュニティー参画、開発 ⑦組織、統治―と中核的な課題が明記されている。今後、ISO26000はCSRのメルクマールとなるだろう。

(平成23年11月23日 日刊工業新聞掲載)

理性的・論理的に考えよう

成長戦略に具体策を/日本再生問われる実行力

塚本裕宥(北関東支部)

1.以前からの傾向だが、日本人は理性的・論理的思考を忘れたようだ。
特に東日本大震災以後、各種報道・著作などについても、顕著な傾向だ。
国家破綻したとも言えるギリシャ等を含む欧州の国民も同様かも知れない。
私はさまざまな機会に、文の修飾や修飾語は不要、情緒的・感情的でなく、冷静に理性的・論理的に考えようと提唱しており、改めて本紙面でも提唱する。
2.具体的に理性的・論理的に考える必要のあることを例示する。
東京電力福島第一原子力発電所は6-9か月で冷温停止を目指した。この数字は、初期段階の見通しで、製品や構造設計に関わった者なら常識的に、1ケタや2ケタの安全率が必要で、国民に対し安全宣言できるのは、60-90か月(5-7.5年間)、600~900か月(50-75年間)必要と考えるのが妥当と言いたい。
国の借金返済(国債償還)は、10%や20%の無駄を省く経費削減で容易に捻出できると言った、国民に向けた甘い囁きなどもその典型例だ。
成長戦略を採れば日本経済を復活でき、税源をそこに求めるという主張があるが、部分的高成長は可能だが、単なる成長戦略では実現不可能である。
3.わが国は人口減少社会に入り、この1年間で、人口が10万人減少した。話題になったので読者はご存じのはずだ。
人口統計は正確に推計できる統計の一つ、2017年以降は年間50万人以上減少する。
減少する人口とは逆に成長するには、人口減少の速度以上に、一人当たり付加価値(単純に言えば稼ぎ)などを増やす必要があり、解決策は頭脳を遣い海外から富を招く方法が合理的だ。それらの具体策を主張する声が見当たらない。
4.「強い意志と不断の努力で立ち上がれ」や「世界は我が民族の叡智」を求めている、などと日本国民に対する情緒的・感情的な見方があるが、理性的・論理的な具体策を決めたいものだ。
実哲也氏は4月24日『日本経済新聞』中外時評で「世界が試す日本の再生力、内にこもれば信頼喪失」と理性的・論理的な主張をしておる。熟読吟味してほしい。
これからの日本再生のために、考えて考え抜き、理性的・論理的に企画・実行できる人の活躍に期待する。

(平成23年11月30日 日刊工業新聞掲載)

中小のメンタルヘルスケア対策

精神疾患、5大疾患に指定/経営者はリスク管理を 

新見健司(千葉支部)

厚生労働省が本年7月に精神疾患を国民の5大疾病の一つに指定したことをご存じだろうか。従来のがん、脳卒中、心臓病、糖尿病と並ぶ重点対策を必要とする疾病に方針決定された。メンタルヘルスケアラインコース資格者の立場から中小企業の取るべき心得と課題を考えてみたいと思う。
 同省の2008年の調査では、精神疾患の患者は323万人になり糖尿病(237万人)、がん(152万人)を含む4大疾病を大幅に上回っている。また労働者健康状況調査では、一般従業員の約6割が自分の仕事や働く日々に強い不安、悩みやストレスがあり、メンタルヘルス不調による休職者がいる企業は6割に達している。
メンタルヘルスで休職者が1人発生した場合、職場にかかる経済的負担は400万円を超えるともいわれている。
一方、精神疾患のために生じる医療費や労働力損失等の社会的コストが年間11兆円にのぼり、中小企業にとっても非常に大きなリスクとなっている。うつ病や統合失調症などの精神疾患の患者数は今般の大震災と原発事故などからさらに増加傾向にあることが顕在化している。       
 メンタルヘルスケアは経営資源の限られた中小企業にとって、重い課題であるが避けては通れない。職場で従業員は業務範囲が広く、間接人員も少なく、特に管理職はプレーイングマネージャーとして仕事に忙殺されているケースが多い。
メンタルヘルスケアは「自分自身のセルフケア」「上司・管理職のラインケア」「職場の産業保健スタッフ・産業医によるケア」「医療機関・EPAなど職場外からのケア」の段階があり、まず自分をみつめセルフケアすることが基本となる。
メンタルヘルスの対策としては未然に防ぐ職場づくりと発生(途中経過も)した場合の対応に分けて考える必要がある。普段から準備しておくことは、①管理職クラスがストレスをためない職場づくりと初期対処の基本を認識すること②過重労働の防止と安全衛生に沿った職場の最低限のルールづくり③万一、従業員に異変があった際に会社が取るべき適切な対応方法と不調者の受診命令や報告義務、休職、復職などのルールづくり―など。未病、予防は国の方針であることから経営者はリスク管理の一環として念頭におかなければならない。

(平成23年12月7日 日刊工業新聞掲載)

群れたがらない新入社員

役割使い分ける子供たち/ストレス発散の場が必要

島影教子(東京支部)

先日、経営士会とは別に長年会員として活動している日本交流分析協会の年次総会が大阪で開催され出かけてきた。「交流分析」とは文字通り人と人とのやりとりを分析し理解し自分の行動の修正をはかる心理学である。
今年は7年ぶりに交流分析の生みの親でもあるエリックバーンの一番弟子のクロード・シュタイナー博士が来日し基調講演があるというので勇んで出かけた。交流分析士には、人材育成コンサルタントや、ビジネスマナー講師、学校教師や保育士、看護師などが多く所属している。
「交流分析と教育」のテーマで行われたワークショップでは「最近の子供達は学校と家庭で自分自身の役割を使い分けている」という発表があった。エゴグラムというアセスメントシートを用いた自己分析手法によると、最近の子共は学校では元気なわんぱく坊主だが家庭では柔順な親に気を使う良い子であるというのだ。演じているわけでもなく自然とそれを使い分けているという。
本来、内弁慶なる言葉があるくらい家では自由奔放であり多少の我儘(わがまま)も親になら出せるものと思うが、どうも時代は変わってきているらしい。仕事を持つ親に気を使い遠慮して育った優しい子供達ゆとり教育で育っている。彼らは家でも気を使い、会社でも気を使う。また、ゲーム世代の彼らは会社に対する既存意識も低く群れることをしない。そこで、危惧されるのはそのはざまで精神的なバランスを崩してしまう若者が増えていることである。     つまり精神障害を引き起こし易くやがて「うつ」になる状況にあるのである。現在の親はほとんどが戦後世代で子供を叱ることやしつけを厳しくすることが少なくなっている。
叱られずに育った子供は打たれ弱い。過度の期待や、僅かな言葉のとげに敏感である。そのはざまでの悩みを家族にも友人にも打ち明けられないまま「うつ」になる。
では、どうすればよいのか。今更、過去には戻れないが、せめて悩みを聞く、ストレスを発散させる、リフレッシュの場を設ける、そんな努力が企業にも家庭にも、もちろん本人自身にも必要なのだろうと思う。

(平成23年12月14日 日刊工業新聞掲載) 

中小企業の危機管理

まずは日々の基本的習慣/危機的状態イメージを

豊田賢治(埼玉支部)

東日本大震災後に、埼玉産業人クラブの協力で会員企業の危機管理についてアンケートと訪問ヒアリングを行った。アンケートでは関心の高いリスクについて調査し、何らかの危機管理対策を実施している企業と特に実施していない企業で顕著な違いが出た項目があった。
自然災害、火災、労災等についてはどちらも関心度は高いが、コンピュータデータ、ネットワークシステムや情報漏えいについては、対策実施企業の関心度は高く、そうでない企業は低いという結果であった。危機意識の高い企業は目に見えるものだけでなく、情報など目に見えないものの価値も重視していることがうかがえる。
埼玉県内で訪問した対策実施企業については、幸いにも甚大な被害を受けた企業はなかった。それらの企業は事業継続計画(BCP)の作成まではしていなくても、安全衛生委員会を設置して日々の作業における社員の安全確保、定期的な消防訓練、朝礼での注意喚起などを行っている。
また、工場・職場の床を色分けして通路と作業する場を明確化したり、消火器の位置がどこからでもわかるように表示を工夫したりして見える化を徹底している。
社員との連絡手段も、携帯電話だけでは災害時に不通になることも考慮して、震災時にも通じたPHSも用意している企業もあった。
原子力発電所事故の影響については、輸出の際に放射線量測定を求められた企業も多いが、顧客との信頼関係が深く、工場と原発との位置関係を説明しただけで何も要求されなかったという企業もあった。
取引関係の深さにもよるが、日頃から頻繁に情報交換しているとか、トップ同士で積極的に交流することで対応が相当違ってくるのである。
 訪問した企業は一様に基本が徹底されており、5S(整理、整頓、掃除、清潔、しつけ)の推進、安全衛生に関する日頃の習慣、見える化、取引先との信頼関係構築に力を入れており、形だけの計画ではなく地道な活動をしている。
また、危機的状態をイメージしておくことが心構えとして重要で、危機的状態になった場合「どうなるのか」「まずどうしたらよいのか」をイメージしておくことも的確な対応につながるのである。

(平成23年12月21日 日刊工業新聞掲載)

震災に学ぶ「絆」マーケティング

「家族愛」意識より緊密に/環境と人、つながり再考

上野延城(埼玉支部)

昨年の世相を1字で表す「漢字」が「絆(きずな)」に決まった。
電通総研は11年の6月に「震災をきっかけとした人間関係の変化」について調査した。東日本大震災は、家族や友人との「絆」意識を顕在化させ、また「震災婚」という言葉にもみられるように結婚を決めたカップルも多い。震災により「絆」を見直し、自分にとって本当に大切な人はだれなのかを問い直すきっかけとなった。
人々は東日本大震災などの大規模災害で、家族や仲間との絆の大切さをあらためて知った。絆は人間が集団の中で生きて行くためには不可欠な要素である。
絆をコンセプトにしたマーケティングには「地域との絆」「仲間との絆」「家族との絆」がある。地域との絆を創出する地域住民間の共通の目的である「郷土愛」に関する伝統的な祭りや催事が震災後、各地で多くなった。
 また、買い物を通じて復興への協力意識が消費者にひろがった。「創業の事業スタート」のありかたを「事業モデル」ではなく「仲間との絆」に重点をおいて成功した企業もある。
 また、仕事で落ち込んだ時には仲間との絆が役立つことが多い。大学生に震災後の友人・仲間との付き合い方を聞いたところ、大学生の51.9%が「狭く深く付き合いたい」と回答した。10年度から10ポイント以上も増加した。震災以前は、ソーシャルメディア等で広く深く付き合おうとしていた大学生の仲間意識が震災によって変化し、より身近な友人と深く付き合うことにシフトした。地域内で何かを通じて友達づきあいをする相互間の「仲間愛」が深まった。
 震災は「家族との絆」をより強くした。「大切にしようと思った」相手は「親」が54%と最多。次いで「配偶者」47%「子供」47%「兄弟姉妹」46%となっている。家族の相互間の共通の目的である「家族愛」への意識がより緊密になった。
 消費者の節約志向は根強いが、家族や気の合う仲間同士の絆が見直されており、気軽に、自宅でプチ贅沢を楽しみたいと考える人も多い。震災は消費者が環境と人のつながりを考えるきっかけとなった。「絆」をキーワードにしたマーケティングがこれからの潮流になるものと予測される。 

(平成24年1月11日 日刊工業新聞掲載)

地熱・地下熱の利用促進を!

環境破壊なく安定出力/普及促進へ助成必要

塚本裕宥(北関東支部)

日本での自然エルギー利用とは、風力や太陽光発電を指すようだ。報道等を継続的に観察すると、それが顕著で、地熱や地下熱利用をなぜ考えないのか疑問だ。1999年に運転開始の東京電力八丈島地熱発電所を最後に、新規着工や計画を聞かない。電力不足の折なぜだ、どういうことだ。日本は火山国、潜在エネルギー量の豊富な地熱の利用促進が急務だ。
 地熱は出力面で不安定な風力や夜間は発電できない太陽光より優れている。自然エネルギー利用の中で、地熱利用は初期投資大でも経済的なはず。地球環境の破壊もほぼゼロ。
 太陽光による発電は産業用には不向きな低品質で、高コストであり、これへの優先的で大きな助成は疑問だ。
 地熱の利用可能な場所は国立公園が多く、法律が阻害している様子。人が作った法律で人を縛るのは、無意味で滑稽だ。必要により、改めるのが適切、環境破壊や景観保全に配慮することは当然で容易なはず。主観的だが風力発電は景観を損なうとの見方もでき、風車が林立する様子は、すっきりした自然景観を損なうと感ずる。環境や景観保全を主張する方の意見も聞きたい。世界情勢で価格変動する石油依存からも転換したい。
 地熱を利用すると温泉に依存している観光地に打撃を与えるという。これも配慮は容易なはず。過去からの利権絡みと思え、温泉への影響評価をしながら地熱利用を進めればよい。
 地下熱利用も促進したい。昨夏、青函トンネルを見学して地下熱利用が夏冬の空調エネルギー需要に好適なことを実感した。地表からわずかな地下に熱交換器を設置すれば、十分効果を期待できる。
 土木や建築業界では研究が進んでいると聞く。今こそ採用段階と思う。
 利用促進の政策を願い期待する。太陽光利用に補助金をつける以上の普及促進を図ってよい。昼夜を問わず利用でき、太陽光より優れているはずだ。
 地下熱利用を配慮した土地取引にはその分を上乗せすればよい。経済性を考慮した取引ができるはず。地熱発電を含め企業の本格進出を切望する。
 風力や太陽光発電より、地熱発電や地下熱利用にこそ大きな助成をすべきだ。

(平成24年1月18日 日刊工業新聞掲載)

米国から見る日本の労働環境㊤

業績盛り返す車メーカー/インドにマンパワー求め

森田喜芳(東京支部)

今年も昨年と同じ日に同じホテルに泊まって、今回の最大の目的であるデトロイトオートショーの見学にやってきた。昨年と今年は、日本から出かけてきたので、久しぶりに左ハンドルのレンタカー車を運転して空港からホテルまでやってきた。部屋に行くために、エレベーターに乗ったら懐かしいインド風の家庭料理の臭いがした。ホテルの大部分の部屋は、インド人の単身者や家族持ちの人たちが泊っている。 
このホテルには、インドから約4ヶ月の長期出張で多くの若い男女のインド人が宿泊している。朝8時前後に、ミニバンが迎えに来て、5~6人の人たちが乗り込んでいく。ミニバンは2台、3台とやってきてかなりの人たちを乗せて出勤していく。 帰宅はおよそ17時30分すぎから、朝出かけていったミニバンが続々と帰ってくる。
ここに長期滞在しているインド人たちの働き先は、ホテルにいちばん近いクライスラー社が多く、デルファイという元GMの部品事業部門にも通勤しているらしい。
その辺の事情をアメリカ人の友人が話してくれた。この現象はGMやフォード、そして大手の部品メーカーやさらには銀行までにも拡大しているとのことである。
インド人が米国に何をしに来ているのだろうと不思議に思って聞いてみたら、ほとんどが技術者でコンピューターのエンジニアであった。
クライスラーを例にとってみると、一度会社更生法で窮地に陥ったときに多くの人員整理を行った中には、多くのエンジニアも含まれていた。最近はかなり業績が盛り返してきたので、設計などのエンジニアが再度必要となってきた。しかし、以前に整理したエンジニアを再雇用するのではなくて、そのマンパワーをインドの市場に求めているのであった。インドの若いエンジニアを米国本土に呼び寄せて仕事をしてもらっているということである。
これらの現象を見ると、いま日本で行われようとしている海外への移転の話とはいささか異なった現象が現実として米国に存在している。米国の事情が日本と違うのであろうか。それとも、現在米国で行われている現象と同じことが、いずれ日本にもやってくるのであろうか。

(平成24年2月1日 日刊工業新聞掲載)

米国から見る日本の労働環境㊥

時差を利用し海外で事務/高齢化日本も人材確保を

森田喜芳(東京支部)

私は6年ほど前に米国で、インド人が長期滞在して仕事している職場を見ている。今から10年前に米国の大手自動車部品メーカーに籍を置き、デトロイトの本社に勤務していた時の事である。
米国人は17時に仕事が終わると一斉に帰宅する。私の場合は、日本との連絡事項などがあり、直接打ち合わせをする機会などのために、常に退社時間は20時ごろであった。私の近くにはコピー機とFAX機があり、毎日私が帰りかけるときにFAXの機械が動きだした。
どうしてこんな遅くにFAXを使う人がいるのだろうと思って見たらなんとインド人女性が使っていた。しかも、手書きの数字を羅列した何十枚もFAXをしていたのである。私も毎日顔を合わせるので、あいさつに始まって仕事の内容などを聞いたところ、インドの勤めている会社にFAXをして時差を利用して計算をして翌朝はこちらでまとめるというシステムで経理関係の仕事をしているとのことであった。
現在、日本のコールセンターなども、中国などの日本以外の国で行われているのも同様の考え方で、日本国以外で仕事をしているというのが、日本ではあまり大きく取り上げられていないのが実態である。
このように、日本や米国の本社と海外をつないで、時差を利用した仕事は特に事務関係の仕事には適している。日本の生産の現場などは、リーマン・ショック以前にブラジル人などが多く働いていた。
現実に、英国やフランス、そしてドイツなどはすでに10年以上も前からこの課題に取り組んで、現在は定着している。
米国は英語圏であるインドから、英仏では自国の言葉を話すかつての植民地から、独では独語を話すポーランドから、それぞれ人材を受け入れ、コミュニケーションは問題ない。
はたして日本では、今後欧米のような考えで生産現場やエンジニアリングの人材を外国から集められるだろうか。
日本は2011年に31年ぶりの貿易赤字となった。厚生労働省の発表によると、少子高齢化が世界でも類を見ないスピードで進み、60年の人口は現在の40%減、65歳以上の高齢者が人口に占める比率は40%となる。この状態で日本のモノづくりを今後も守るために労働人口は確保できるだろうか。

(平成24年2月8日 日刊工業新聞掲載)

米国から見る日本の労働環境㊦

人口減で変わる生産環境/語学など自己研さん必要

森田喜芳(東京支部)

果たして、日本では日本語を話す外国人を多数受け入れて仕事をしてもらえるだろうか。答えはイエスとは言いきれない。現在も看護関係で、フィリピンやインドネシアから研修生を受け入れ、日本語教育に始まって実務研修をしているが、日本の国家検定試験は新聞によれば、100人に1人ぐらいの合格率と読んだことがある。
難しい日本語にルビをふり、試験方法も改善しているが、いまだに合格率は低い。そのため3年間の研修を終えて、帰国する例が圧倒的に多いとのことである。
これからは、日本人が日本で英語を話して仕事をするか、または外国人を受け入れて日本語をもっとやさしい言語にして、外国人と共存して働けようにするかのどちらかであろう。その答えは、まだ出ていない。幸いにして、教育面では最近東京大学が秋入学を検討していると報道された。国際化に一歩踏みだし、今後の留学生の受け入れなどに有利になり外国の優秀な人材が日本に残ってくれる事が期待される。優秀な人材が日本に残ってリーズナブルな賃金体系であれば外国人もどんどん日本企業で働くようになるだろう。日常のコミュニケーションは日本語で、意思決定などで議論が白熱した場合は英語または双方の母国語以外の第三外国語で話すようなことが近い将来起きることが想定される。すなわち、日本の生産現場やエンジニアリング部門、経営部門では、日本人は上司の外国人に使われる事が起きて来るだろう。クライスラーの例を見てみると経営者、中間管理職、エンジニアリングなどにも外国人が入り込み、そのことが当然のように会社のオペレーションが行われている。その結果、2009年の経営破綻後、11年に初の黒字となった。
日本の人口減で、国内の生産環境も厳しくなっている。為替や収益の問題から、工場を海外移転する日本空洞化現象が現実の問題となっている。今後、日本で生産と輸出で稼ぐ時代は終わり、M&A、海外投資などを経営戦略に変化し、配当や利益還元で稼ぐ時代になるであろう。
そのためには、今後は我々自身が外国人とコミニュケーション出来るように今から自己研さんしていく必要があると考えている。

(平成24年2月15日 日刊工業新聞掲載)

中小企業だからできる「CSR経営」の勧め㊤

"4ない障害"の中小企業/全員参画で目的達成

上田 隆一(埼玉支部)

企業の社会的責任(CSR)というと「ISO26000」。企業活動を経済だけでなく、環境と社会の側面からも評価する「トリプルボトムライン」の代名詞といわれて久しい。中小規模企業の経営支援を主眼としている経営士の立場としては、事業体の特性や悩みを乗り越えて、そのCSR経営を有効に発揮していただくための方策を考案し実践することが重要である。そこで、中小規模事業の「強み・弱み」を含めた特性を考察してみたい。
 第1に、マンパワーが少ないことである。当たり前といえばそれまでだが、組織の対応力不足の面と、トップの意思決定や周知の迅速性という強みに反映する。
 第2に、マネジメントに関する情報の収集、分析、応用の面で、量、質の不足が生じやすい。そういう機会や受入れの窓口が見えにくい。
 第3に、CSR経営のためには、準備から仕組みづくり、運用と改善などのために時間がとられるが、そのような時間的な余裕がなく、できればやりたくないと考える。
 第4に、仕組みづくりや運営、維持のために外部からの支援を受けたり、勉強したりするための内部費用や経費支出の余裕がなく、「ない袖は・・・」となる。
 このような状況を端的にいうと、「人・情報・時間・資金」がないすなわち"4ない障害"といい、ついに"やらない"につながってしまう。
 このような状況をクリアして、本来の目的を達成するための手法が「全員参画型」の取り組みという。これは「トータルで推進する」といわれるやり方だが、ここでは単にトップの指示で参加するのではなく、準備、企画から構築、運営、維持、改善まですべての実行行為に参画するということである。
この場合の推進方法は、担当別ではなく、すべての内部情報やデータ、外部からの意見や要望などが横割り型で共有される。内部、外部のコミュニケーションの高度化により、いわゆる「PDCAサイクル」に近い形が実現される。その上で互いに信頼かつ責任を持つ関係を構築する。このタイプの経営システムは、企業におけるいろいろな課題への取り組みに有効になり、相乗効果が期待できる。

(平成24年2月29日 日刊工業新聞掲載)

中小企業だからできる「CSR経営」の勧め-㊥

「全員会議」で状況共有/"連番状"が組織風土に

上田 隆一(埼玉支部)

前回の記事で説明したように、一口に"全員で取り組む"といっても、中小規模組織の場合には、手分けや役割分担には限度があり、実際には困難である。そんな中で最も効果的なのは、「一人二役、三役」ということになるが、これとても単純なやり方では個人の仕事への負荷が増えるだけになる。重ねていうと、そこで考えられて実行されているのが、仕事だけでなく、情報のシェアと共有をシステマティックに行う方法を考案する必要がでてくる。
 こんな事例がある。環境経営活動が課題となった、従業員数人規模の技術サービス企業では、社内の活性化と新しい企業風土を構築したいと考え、社長が一人ひとりの社員と面談して「一人複数役」を説いたところ、社員側から逆提案が出された。それは、社長がわかりやすい理念や方針を作成して、徹底させると同時に、全社員が理念・方針に基づく活動を各自の仕事で実行する。必要な教育、訓練を受けたり、相互啓発をしたりすること、毎月定期的に「全員会議」を開催して、各自の分担について報告し、全員が状況を共有する。担当者ごとに顧客先や取引先からのオファーや申し入れなどについて、全員が日常見ることができるようにボードに記載し、必要あれば直ちに関係者の打合せができるようにすることなどを"連番状"にしようということになった。
この提案を社長は快く承認し、このようなアイデアが率直に出てきたことをうれしく思った。そして、この方式は、最も身近な者が先生役、情報発信者になると同時に、全員が生徒でもあり、教材集めも行うオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)の実践者になる。中小規模組織の内部研修制度としては最適であり、その上で社員の目標とする力量表と到達年限などをトップが示せばこれに勝るものはないが、この仕組みの解説や提言は別の機会にしたい。
なお、この連番状は相互の負荷低減の手段ともなり、「カンパニーアジェンダ」としゃれたネーミングになって毎年更新され、同社の組織風土になっている。また、このユニークなシステムや成果をホームページでアピールしたところ、思わぬところからの引き合いや受注につながったということである。

(平成24年3月7日 日刊工業新聞掲載)

中小だからできる「CSR経営」の勧め㊦

全社員がSR自己評価/定期的チェックで進展実感

上田 隆一(埼玉支部)

ここで提言する[SR-Selfシステム]は、CSR経営の重要性を理解し、中小規模組織といえどもCSR経営の例外にはならないことを十分に認識されている中小規模組織の"4ない障害"をカバーし、より効果的なCSR経営活動を行うために考案したものだ。端的には「全員参画型SR(社会貢献・企業倫理)体質の自己評価の仕組み」といえよう。自己評価という以上、チェックシートや評価点制度も準備しているが、ここではその仕組みの骨格に当たる事項について説明し、本提言の基盤を認識していただきたい。ここで提言する[SR経営システム]は、トリプルボトムライン+ワンの形態をとっている。
第1は、企業倫理、社会貢献、組織統治、法令順守などと解説される「コンプライアンス&ガバナンス」を「中核事項」に置いている。そして、コンプライアンスとは、組織として守るべきことは守り、やってはならないことはやらないことであり、ガバナンスとは、やるべきこと、やってはいけないことをわかりやすい表現にして全組織内に周知徹底することと提言する。第2は、組織の経済活動が健全かつ安定することの大切さを認識し、決算上のボトムラインの優良性維持を求める。
第3は、環境経営活動の妥当性と社会的効果を追求するために、幅広いステークホルダー、環境要素への良い影響を拡大することを提言する。第4は、社会の安心・安全を追求し、社会全般にわたる「満足の連鎖」による"新三方よし"の実現を提言する。
 チェックシートは5段階評価で、それぞれの段階の中間に、上位の段階に向かうための諸対策の実例を示して、ステップアップを支援する。チェック者は、当然全社員であり、定期的チェックすることによりSR体質の進展を実感できる。この仕組みを図示したのが下記の「SR-Self式トリプルボトムライン・モデル」である。

(平成24年3月14日 日刊工業新聞掲載)

中小企業にとっての経営責任者

現状把握、問題クリアに/効率よく・効果的に・幸せに 

釜澤直美(南関東支部)

2011年の暮れ、日本経営士会主催の経営士育成講座で、経済産業省発行「産業構造ビジョン2010」、中小企業庁発行「中小企業施策利用ガイドブック」等を教材に、日本企業の現状と課題解決に向けた行政のビジョン、特に中小企業の課題解決に向けて企業、行政の諸施策について関係機関のキーパーソン諸氏から、客観的資料を基に講義を受け、改めてその現実に驚愕した。
しかし、どのような規模の企業だろうと、現状把握、抱える問題を正確かつクリアーにすることで、規模の大小にかかわらず、解決に向けた方法、手段、支援のアプローチは見つかるのである。多くの場合、抱える問題・課題が何なのか、具体的でない。つまり、「抽象企業」になっていることが多いのである。
私の40年の企業勤務経験から、元気のない会社、仕事の忙しい割に労働対価に満足していない会社が、中小企業に限らず見受けられるのである。確かに、企業を取り巻く環境は容易でないことも承知している。現行の諸税制など、諸外国と比べ負担が大きいことも周知の事実である。
しかしながら、私は多くの中小企業と仕事をする中で、社長=経営者に疑問を抱く現実も見てきた。例えば、社長という経営責任を負う立場にあっても、①社員(例えば、どんな能力を持っているのか)②生産設備(例えば、設備の故障、稼働状況)③品質保証・生産管理などの諸システム④財務(例えば、資金の現状、負債状況、助成、支援策)-など、いわゆる経営資源に関する理解と認識が低いのである。
08年4月21日、日本の大学生とのテレビ討論番組に出演した韓国の李博明大統領が学生から「政治についてどのように考えますか」との質問を受けた。李大統領は「国家は統治ではなく、経営です。力で治めるのではなく、国を効率よく、効果的に運営する。そして、すべての国民が幸せになることです」と答えた。
私は、会社経営とは、この様な考え方に立った経営が必要であり、経営者は経営に関してもっと関心を持たなければならないのではいか。未来への希望がないと言われる経営者には、会社がどの方向に向かおうといった目標がないだけのように私は思う。

(平成24年3月21日 日刊工業新聞掲載)

女性管理者が増えない原因

登用に消極的な女性たち/女性自身の意識変革を 

島影教子(東京支部)

内閣府が打ち出すアクションプラン「202030(ニゼロニイマルサンマル)運動」=「2020年には女性管理者を30%までに増やす運動」の影響か、最近女性管理者(リーダー)を育成する教育プログラムをよく見かけるようになった。
日本で欧米並みに女性管理者が活躍する時代はまだまだ遠いと思われるが、自治体も民間企業も努力をしていることがうかがえる。むしろ、管理者採用に消極的なのは男性より女性ではないかと思う。
「私には無理」「そこまで望んではいない」「家庭が第一」「子育て優先」「無理はしたくない」などさまざまな理由を並べる女性が多く残念だ。
また、女性管理者の欠点も挙げられる。思いつき優先で突っ走る勘違い女性を多く見かける。望ましいのは知識と経験と行動がバランスよく保たれた女性管理者だ。
さらに言及すれば知識も意欲も高いが、周りが見えないヒステリックな女性管理者の下にいる男性社員が一番気の毒だ。暴走女性管理者を見るとハラハラする。これには男女関係なく自らの「発見」と「気づき」が必要である。
行動を阻む家事や子育ての軽減がなされても、女性自信のモチベーションが低ければ女性管理者は増えない。仕組みの不足だけでなく女性自身の意識変革をしなければ202030は成り立たない。女性自身の潔さが望まれる。これを、私は「ウーマンイノベーション」と呼んでいる。無駄に片意地張るのではなく周りを見渡せ、先を読める行動力を持つ賢い女性を増やすことが必要である。謙虚な国民性と長い間の男性社会が弊害となっていたが、これからは男女の差なく家事や子育て分担をする未来創造型が増えるであろう。少なくとも今の30歳以降の世代はそれが定着・浸透しつつあるように思える。
今年2月には経営士会に女性の会が再発足した。名称は「NJK」(日本経営士会女性部会)である。会では女性管理者育成に力を注いている。変革ある育成にモデルとなる女性経営士が指導・支援するという。秋の経営士全国研究会議でも研究シンポジウムを予定しているので今後の活動に多いに期待したい。

(平成24年3月28日 日刊工業新聞掲載)

再度、地熱・地下熱の利用促進を

太陽光・風力より安定的/景観配慮し垂直堀りを

(北関東支部 塚本裕宥)

筆者は2012年1月18日本欄で「地熱・地下熱の利用促進」を提言した。
それへの電話連絡を頂戴たり、展示会で趣旨に賛同いただいたりした。エネルギー
問題に関心ある方々の円卓会議でも提起、前向きさも感じた。
 日本経済新聞「経済教室」の「新・エネルギー戦略」など、識者の主張にも注目したが、化石エネルギー関連が主体で、再生可能エネルギーに目を向けていないのが実態、地熱や地下熱に関する提言などはわずかで、配慮不足を感じた。
 政府は国立公園等での地熱発電の規制緩和を検討の様子だ。地上から斜めに掘り、規制地域の地熱利用を認める方向だ。これで本当に地熱発電の拡大が見込めるだろうか?
 斜め掘りは妥協の産物だ。低費用の垂直掘りを認め、景観を損ねたら地表部を横引き、景観に影響ないようにすればよい。
硬直的考え方を脱し、柔軟な発想で試掘したい。試掘しやすくすれば開発への意欲が湧くはずだ。
 規制緩和の動きが出てきた様子、思い切った更なる規制緩和を求めたい。
 井戸水で程よい夏の冷たさ、冬の暖かさを体験の方は多いはず。
 地下熱利用はこれと同様の原理、体を動かす環境では冷却不足、暖め不足の程よい冷暖房が、健康的で省エネである。
通常の空調設備ではまろやかな冷暖房になりにくく、夏は全体的な冷やし過ぎ、冬は暖め過ぎになりやすい。
 地下熱利用は、夏冬の省エネ効果もピーク電力の低減にも寄与できる一石二鳥のエネルギー利用である。地下熱利用の先進事例を見て痛感した。
 地熱や地下熱利用は太陽光や風力発電と違い、安定的なエネルギー利用だ。
助成も太陽光や風力発電より、地熱や地下熱利用に厚くしてよいはずだ。
 この夏や今後のエネルギーをどうするか心配だ。企業に無理な省エネを強いたら、更に海外に逃げる。国内産業が更に空洞化してから、突然の停電があってからの対応では遅い。
 日本の地熱資源は約2000万kw、原子力発電所約20基分に相当、米国、インドネシアに次ぐ世界3位。地熱と地下熱利用につき英知を絞ろう。

(平成24年4月4日 日刊工業新聞掲載)

経営に役立つIT導入法

経営者自ら関与/導入時に体制とビジョン

阿部 満(南関東支部)

日頃、経営コンサルタントとして数多くのクライアントに対し、IT選定、調達、導入の支援を行っていると、IT導入を成功させて経営改革につながっている企業と、反対にIT導入を行っても一向に経営改革につながらず、ITコストばかりが負担になっている企業の2通りがあることに気づかされる。
この違いは果たしてどこで生まれてくるのだろうか。
筆者は、経済産業省の中小企業IT経営力大賞などで数多くの企業を認定と優秀賞企業に導いてきた経験則から次のような違いがあると考えている。
(1)経営者がITに無関心でITプロジェクトなどの社内組織に関与していない。
(2)外部専門家などは活用せずに、ベンダー各社の見積書と提案書のみで自社独自評価でベンダーとITツールを最終的に決定してしまっている。
(3)社内の情報部門に任せきりで他の組織がまったく関与していない。
(4)ITの教育などは特に行われておらず、各自がマニュアルなどを見ながら、場合により口頭で使い方を学ぶ程度になっている。
(5)IT導入後の改善について現場主導で行われてしまいIT改修などのコストが掛かる事について経営者が関与せずに現場主導になってしまっている。
このようにIT導入を行っても一向に経営改革につながらず、ITコストばかりが負担になっている企業の大半は、ITツールそのものもの問題というよりも社内の人と組織に関係しているのである。
では、ITで経営改革を行うためのIT導入ではどのようなことを行えばよいのか?
結論から先にいえば「IT導入時はきちんとプロジェクト体制を構築してから対応すること」ことである。
その際に、必ず経営者自らが関与し、IT導入による経営改革のビジョンや目標を掲げることである。この目標を掲げるか?掲げないか?でその先の結果に大きな差がでてくる。
また、世の中に数限りないITツールとベンダーを選定し、ITで経営改革を行うには、第三者の筆者のような存在も是非、ご活用していただきたい。
自社だけで解決するよりも結果的にローコストでIT導入による経営革新につながるケースが多いのも事実である。そして、IT導入による経営改革のビジョンや目標に対して、全員で共有化し、万が一、IT化の際に多少の失敗となった場合でも犯人を作らない組織体制を作ることである。
このような組織体制で導入したITは必ずや企業の経営改革につながり経営力を強化していくことだろう。

(平成24年4月11日 日刊工業新聞掲載)

毎年3万人自殺者止めよう

経営者の死は国家的損失/連帯保証人制度見直しを

佐藤 富夫(南関東支部)

10年程前の同じ提言を思い出した。自殺者は年々増えつづけ、14年以上にわたり毎年3万人以上である。多民族国家と違い、日本人ほど、連帯感と生活力、前向きな生き方など、民度の高い民族はないと思っていたが、自分さえよければよいとの考え方が増えてきたようだ。
万単位の死はあまりにも多く、その中の4割強が中小企業の経営者と言われている。それは、国家的なマイナス要因と考える。
私は長年、ベトナムホーチミン市にて仕事をしていたが、そこは自殺者が少なく、自殺者の事が新聞紙上に掲載されると聞き大変驚いた。
ベトナムの国民性のよい点は、くよくよしない、悩まない、他人を干渉しないなど、南国特有のおおらかさを持っていることである。
日本の少子化プラス自殺者の多さは、全国民が関心を持つ問題で、他人事と考えず対応していく必要があり、地域連帯の欠落も原因の一つではないかと考える。
特に、経営者の方々には従業員の健康管理など、自殺者ストップ運動の意識改革をお願いしたい。
自殺の話題はタブー視することが多く、思いやりの心をオープンに生活内部に取りいれるシステム作りが求められている。それには年配者及び職場の上司の意識革命が必要だ。
特に中小企業経営者の自殺を防ぐには、意識革命が不可欠。大手企業も含め、480万社中の99%、就労人口の75%は中小企業であり、現在の経営状態は、販売力の低下が原因で業績が低迷している。
経営者は今後、一段と資金繰りに困窮することになる。
日本で一番不人気な悪法は、連帯保証である。この法律のため、経営者の負担が大きく、なり手が少なくなっているではないか。
近々、日本の活性化は一部の大手企業のみに絞られ、大手も中小企業に支えられていることを再認識することが必要だ。

(平成24年4月18日 日刊工業新聞掲載)

禍から学んだ製品開発

身近なニーズに着眼/混乱教訓にシステム開発 

小林祥三(東京支部)

2011年11月9日の本欄に、「身近なニーズをくみ上げよう」と題して、中小企業ならではの方法で新製品開発に取り組むべきことを事例を挙げて論じたが、もう一つの事例を挙げて中小企業の製品開発のあり方を再度論じてみたい。
あの未曾有の被害をもたらした東日本大震災の発生からはや1年が経過した。小生の知る東京台東区に本社がある中堅企業は、その禍から学んだ教訓を生かして新製品を開発した。同社は主要顧客向けにEDI(電子データ交換)サービスを、24時間・365日行っているが、そのサービス拠点となっている福島県いわき市の事業所が、大地震と原発事故の影響で一時閉鎖を余儀なくされたため、その事業所の業務と従業員を台東区の本社へ緊急移転することとなった。
同社には、災害を想定した事業継続計画(BCP)は作成されており、かねてより訓練も行ってきたが、今回の地震はいわきと東京の2拠点同時発生のため、EDIサービスの手動切り替えにより混乱をきたした。同社は、この教訓を踏まえ、緊急地震速報の受信に合わせて、拠点間のサービス停止と移転を自動で行う必要性を痛感し、早速そのための新システム開発に着手した。
東京都台東区には、先駆的な新しい製品や技術を開発する場合に、その活動に要する経費の一部を助成する「新製品新技術開発支援事業助成金」制度があるが、同社のこの「緊急地震速報の受信に合わせたEDIサービス自動切替システム」の開発計画に対して、同制度に基づく助成金の交付が決定された。
冒頭に、中小企業に求められる製品開発の重要な要素の一つが、身近なニーズに着眼し、そのニーズに応える製品を速やかに開発していくことであると述べた。
同社が東日本大震災の教訓からニーズを認識し、早速「緊急地震速報の受信に合わせたEDIサービス自動切替システム」の開発に着手したという経緯は、まさに製品開発の重要な要素の一つを実行したことを物語っている。

(平成24年4月25日 日刊工業新聞掲載)

PDCA組み換え経営のすすめ㊤  

事業の狙いと特性把握/状況に応じて手順変更

吉岡 聡(南関東支部)

経営幹部会議や職場会議では "PDCA(計画、実施、評価、改善)をちゃんと回しているのか"という言葉が必ずと言っていいほど飛びだす。経営者、管理者、末端の社員に至るまで、経営の管理の基本といえばPDCAという概念が頭に浸透している。
PDCAとは、「計画を立て、実行し、その結果を評価し、その改めるべき点を明確にし、改善し、次の計画に反映させること」と一元的に理解している。
経営者・管理者にとっては響きのよい便利なキーワードであり、管理の概念的拠り所として形式的に回しているのが現実でしょう。
結果として、特に中小企業においては 「現場の状況は一向に変わらない、経営指標には上向いている様子は見られない」と首をかしげる経営者も少なくない。
何の根拠もない希望的な、時には指示的な目標・計画、あるいは大した努力しなくても達成容易な目標でお茶を濁すなど、"マンネリマネジメント"を延々と繰り返しているケースが多い。
これでは、打つ手がないために定番型PDCA手法を人並みに"行っている"だけの"PDCA呪縛経営"から脱却できない。
例えば、一つの事業を運営する場合「全体のPDCAだけではなく、どの段階でも、どの階層でも、そして各個人のレベルでも、常にPDCAを踏まえて管理を行う。しかもそれは、ワンサイクルだけではなく、終わりのない継続的なフィードバックの連鎖」である。
そんなことは当たり前だと誰でも言う。このように「PDCAを回す」と一括りのキーワードを口にした瞬間、全員が「PDCA は"Plan"から始まる」という魔法にかかったように定番化してしまう。
しかし、実際には、不良対策においては現状がどうなっているかを知らないと手が打てないので現場に出かけて、現物の現実を見て、そこから問題点を特定し、その原因を究明し対策案を考える。"PDCA"の順序じゃなくて、"CPDA"になる。
また、ISO9001等のマネジメントシステムの枠組みに、計画の前に予備調査(C)のステップが盛り込まれていないが、何事も計画するにはまず実態を知る必要がある。
マネジメントを効果的にすすめるには、事業の狙いとそれぞれのステップの特性を踏まえ、条件・状況によって定型的な"PDCA"を「P・D・C・A」とバラして因数分解したり、入れ替えたり、柔軟に考えたい。

(平成24年5月9日 日刊工業新聞掲載)

PDCA組み換え経営のすすめ㊥

各レベルで中身を具体化/展開して多面的効果追求

吉岡 聡(南関東支部)

「PDCA」を細分解し個人の意味を再考してみる。
企業組織のマネジメントは、階層や個人の各レベルにおいて"P・D・C・A"の中身を具体化し、さらに踏み込んで回してこそ多面的効果が表れる。
まず、"C"には、そもそも「マネジメントシステムの果たす役割は何か、それはできているか」を客観的に見つめる基本機能がある。また、その機能は人的能力の評価の分野でも次のように展開できる。
Plan力は、役割・環境・条件及び自己スキル分析のもとでの全体と部分の整合のとれた目標達成計画になっていること。Do力は、"Plan"を達成するための業務を行っていること。Check力は、実行が計画に沿っているかどうか定期的に確認分析をしていること。Act力は、"Check"に基づき行動及び計画の適切性への修正・改善をしていること。
さらに、"C"の機能には管理と経営の2つの側面もある。管理の側面は「自社の枠組み(基準、標準、計画)に対する実行・達成度合い」「活動があるべき枠組みを満たす方向に向かっているか」の評価。経営の側面は「経営の考え方や方向、活動の方向はこれでよいか」「自社の枠組みそのものが適切か」など全体を見直す問いかけ、問い直しである。これを使い分けるのが大事であるが容易ではない。
マネジメントシステムを柔軟に変えていくといわゆる「常に不完全なシステム経営」の概念に陥る。そこで、PDCAを「D及びC、A及びP」2つの領域に分ける。D及びCは「数値・標準を管理」する"システム範囲" 、A及びPは「システム概念や課題をどう設定し、どう実現させるかの議論や学習・アイデア創出」などの活動を具体化する"人の思考範囲"と位置づける。
まず、"D"では、それぞれの立場で内容が違う。管理者のそれは「部下が実行する動機づけや教育・指導・助言」等が主で、部下は「自己管理を高めつつ、管理者の助言を得ながら業務計画・目標達成計画を実践する」が主である。
"A" では、経営面と管理面で内容が違ってくる。経営面は「経営資源等の再構築やパラダイム・方針・戦略の転換等の改革的な処置」、第一線の管理面は「日常的な業務の改善、不具合面の是正処置、予想される課題解決処置」などが挙げられる。"P"では、経営理念・目的・目標づくりの合意形成まで拡大する。A及びP領域では組織コミュニケーションが特に重要となる。

(平成24年5月16日 日刊工業新聞掲載)

PDCA組み換え経営のすすめ㊦

現場状況を常時把握/成長度合いで順位変更

吉岡 聡(南関東支部)

PDCAの使い方は、組織の意志決定のしくみ、事業の規模、ライフサイクル、緊急性、情報手段の変化などで最適な組織形態が変わり"DCAP"や"CPDA"の場合もある。
例えば、新製品を売り出す時「立派な計画を立てて(P)、さあ売るぞ(D)、実績データを評価して(C)、さてどんな手を打つか(A)」ということはしない。
常時、現場の状況を聞いて計画とのズレを把握し、対策を検討し、緊急度合いを判断し必要なことは即手を打つ。
また、プロジェクト活動では、PDCAの"P"の中にもPDCAがあり、"D"の中にもPDCAがある。また、経営主導型の定型的PDCAサイクル戦略では次のような問題も生じる。
「環境変化への適応能力の喪失」「現場適応能力の低下」「変化が激しい業界では実行困難」「数値設定の計画・実行では本来の戦略意図から外れる」。
その場合、例えば、創生時(DCAP)⇒成長への移行期(CPDA)⇒成熟への移行期(APDC)⇒改革への移行期(CPDA)⇒再生への移行期(APDC)、危機管理対策(CPDA)など、事業年齢、企業外部環境等の転換時に管理サイクルを"戦略的PDCAサイクル"に組み換えることで実践的に活かすことができる。

(平成24年5月23日 日刊工業新聞掲載)

電力源ベストミックスの再考を

電力参入の自由化推進/技術検証し原発再稼動を

樋口藤太郎(南関東支部)

2011年3月11日の東日本震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故から一年経過し、脱原発とすべきという世論が高まりつつある。野田政権や電力会社の本音の意向を代弁するつもりはないが個人として提言したい。
3.11事故以前までのわが国の電源エネルギーの構成は、原発54基の有効稼働で3割をベースに、その他化石燃料の火力・水力電源の組合せにより、環境保全と経済の効率を満たすベストミックスだった。
 逆に脱原発で化石燃料を主体とする火力発電に代替、ピーク需要時は節電で対応する状況に移っている。化石燃料費の高騰により、現在電力企業の独占的総括原価方式を採る電気料金は、すでに世界的異例の高値に加え、17%もの値上げ要求となり、国内生産企業には経済的な打撃を与える。更に円高、震災、原発災害復旧が加わり、大企業には海外への移転を促し、容易に移転できない中小企業は壊滅的状況を及ぼす。これでは次世代に縮小経済規模や膨大な借金と放射性廃棄物を含むゴミの山を残す恥ずべき事態となる。
 3.11災害復旧期間は、統制的総括原価方式の電力料金の規制撤廃と、未完の原発技術の見直をする千歳一隅の機会と考えるべきだ。その対策として、経産省検討中の独立系統運用機関(ISO)付の「送電分離システム」の導入と、電力会社以外の企業の自家発の売電や再生可能エネルギー電力参入の自由化を進めるべき。現有の全原発を順次、安全性と災害事故対策を徹底的に技術検証しての再稼働を行う。環境保全と電力量・料金の安定を前提としたベストミックスを再構成し、継続すべきである。
 3.11以来、脱原発政策を発表したドイツを除く、各国や近隣の中国・韓国・新興国などが原発推進で増設している。米国も事故以来34年ぶりに、わが国の東芝と子会社のウェスティングハウスに4基の発注やベトナム・トルコ等からの引合いがある。
国内では、事故後学生の原子力関連分野への進学や産業への就職が減る傾向がある。しかし、原発推進の場合には、運転管理の遠隔化および輸出部門の炉本体や機器製造のニーズがある。脱原発推進の場合には、廃炉や放射性廃棄物の跡始末などのいずれも、長期の高度技術知識が必須であって今後とも若い人材養成は重要な課題で政府の適切な施策が重要となる。

(平成24年5月30日 日刊工業新聞掲載)

中小企業、海外進出のポイント㊤

経営資源を客観的に把握/進出の目的・目標明確化  

長谷川正博(東京支部)

2012年3月2日、中小企業の事業計画の策定などによる経営力強化及び中小企業の海外子会社の資金調達の円滑化を狙いとした「中小企業経営力強化支援法案」が閣議決定された。同法案の究極の狙いは、内需が減退(国内市場の縮小)する中で、中小企業の生き残り・経営力強化のため、海外展開の拡大・促進をより積極的に進めることにある。
日本は急速な人口減少と高齢化に直面している。その環境下で企業が存続するためには、急成長するアジアなどの新興国の「内需」を取り込み、いままで以上に「新規市場開拓・深耕」を目指し、事業展開をすることが求められている。
経済産業省によると、手取り収入が1世帯当たり年5000ドル(約40万円)以上、3万5000ドル(約280万円)未満の中間層は、アジア新興11カ国・地域で00年の2億.4000人から10年に14憶6000万人となり、20年には23.憶1000万人に達する見通し。一方で、アジア市場では3万5000ドル以上の「富裕層」も拡大している。日本の近隣に位置するアジアの市場、その成長をいかに取り込むかが自社の生き残りのカギを握るといえる。
一つの例が、従来内需型産業の代表とされるコンビニエンスストア業界である。同業界の大手企業は海外店舗拡大に力を入れており、大手コンビニの海外店舗数が12年度末で5万を超え、国内の店舗数4万8000店(11年度末)を上回るとみられており、アジアを中心とした新興国の経済成長=消費市場拡大をうまく取り込んでいる。
経営資源がある程度限られている中小企業が、海外進出を進めるに当っては、自社の置かれた経営環境と自社が保有する経営資源を客観的に把握する。合わせて、海外進出の目的・目標を明確化し、その目標に対し最適な行動をいかに進めていくか、進めるにあたって要素がそろっているかなどを十分検討することがまず重要である。このように自社の状況を客観的に把握・認識した上で、構想の具体化する。それに沿った予備調査を行い、進出先を決めてから当該市場での事業化調査(フィージビリティースタディー)を徹底的に行うというステップを踏むことになる。

(平成24年6月6日 日刊工業新聞掲載)

中小企業、海外進出のポイント㊥

情勢把握し最適国選定/自分の足で情報収集 

長谷川正博(東京支部)

海外進出の構想の具体化の次ステップは、予備調査段階となる。この段階は各種データの収集・分析であり、進出先候補国を含め3、4カ国の調査をする。例えば、タイへの進出を計画する場合でも、マレーシア、インドネシア、ベトナムなど周辺国を含め、各国のインフラ、法律・税制等投資環境、経済一般状況、国民性、政治情勢、労働事情などを調べ、最適であると思われる国を選定することが必要だ。
データ収集先としては、自社の取引先銀行、取引先企業、日本貿易振興機構(ジェトロ)や商工会議所、進出先国の在日大使館などがあろう。もちろん、自社の製品が対象国内で市場性を持っているか、改良すべき点はどこかなどをあらかじめ把握することは当然必要だ。
進出先の絞り込みができた段階で、次の最も重要なステップは事業化調査(F/S)である。F/Sの調査項目は大略次の通りである。(1)政治の安定性や方向、政府の政策(特に対外資)、(2)経済情勢、経済の見通し、産業政策、(3)社会情勢、宗教、教育水準、歴史、対日感情、(4)市場の規模とその変化、市場の特性、流通経路、商習慣、知的財産に関する制度、競合状況、広告・宣伝・販売促進手段の状況など市場関連、(5)人的資源、設備・原材料、部品・部材の調達、インフラストラクチャー等生産諸条件、(6)資金調達、金融制度、為替変動などに関する情報、(7)会社設立手続き、派遣社員環境などである。
これらの現地調査は派遣候補社員に実際に現地に行かせ、自分の足で収集・把握させることがポイントとなる。収集先として、対象国内日本人商工会議所、同ジェトロ支店、取引先銀行の出先店、取引先企業の拠点、当該国内日本大使館、自社の当該国内販売代理店、進出先国政府機関等が挙げられる。また、会社設立手続きを依頼する現地側会計事務所などからもデータ収集が可能である。
対象国や製品によって異なるものの、1か月ほどを上記現地調査に当て、操業後1、2年は赤字となることを考慮に入れ、5年程度の事業計画を作成、本社にて検討・討議のうえ「ゴーサイン」又は修正・再調査ということになる。この事業計画作成、経営支援や現地側での資金調達支援などが、冒頭述べた法案成立後は認定機関や日本政策金融公庫などから受けることができる。

(平成24年6月13日 日刊工業新聞掲載)

中小企業、海外進出のポイント㊦

人材育成に中長期的戦略/外国人雇用は注意必要 

長谷川正博(東京支部)

経済産業省の企業向けアンケートによると、海外拠点の設置・運営に当たっての一番の課題に「グローバル化を推進する国内人材の確保・育成」が挙げられている。つまり、海外展開のカギは"人材"ということである。
事業化調査(F/S)を進出候補先国で実行する場合も、少なくとも語学力、特に英語能力がない人では務まらないことになる。社内にそのような能力を持った社員がいない場合、新たにリクルートするなり、予備調査またはその前の構想の具体化段階から候補者を絞り、英語学校に通わせるなどして体制構築に努力すべきである。
 企業経営者として考えるべき事柄は、現在の環境下にあって、自社が急いで強化すべき能力は何か。短期的(2、3年)に対応するために必要とする能力は何か。何をやっておくべきか。中期的(3-5年)には何をやっておくべきか。長期的(5年以上)にはどうか、そのためには今から何をやっておくべきかなどを踏まえた企業戦略に基づく人材育成の設計図や具体的な諸方策によって、計画的に進めなければならない。
 グローバル人材として在日外国人を雇用するケースもあるが、この場合は次のような点を認識する必要がある。①仕事の指示等伝えたい内容はシンプルに漏れなく表現する。日本人同士の「以心伝心」は通用しない②議論での意見対立は「健全」と受け止め衝突を恐れない、③彼(彼女)が疎外感を感じないようコミュニケーションは積極的にとる④会議で議論した内容はメモにして確認し、何がどこまで決まったのかを明確にする⑤仕事以外の場面でも、気後れせずコミュ二ケーションを図る。なお、外国人を採用する際には、しっかりした労働契約書や就業規則など書類面の整備と、職務の詳細な内容等を明確に英文で作成し、双方で確認・納得の上サインし、双方で保管しておくことが重要となる。また職務記述書も明確にしておくことも重要である。
日本→人口減少→経済の停滞・縮小→企業のダウンサイジングではなく、アジア人口の増加→経済の活性化・内需拡大→事業機会の増大という積極的な認識を持って対処すべきであろう。

(平成24年6月20日 日刊工業新聞掲載)

公平・平等・対等について㊤

80年代に米国進出/採用ルールの違い実感

森田 喜芳(東京支部

「貴方は、このままの状態で採用を続ければEEOC(米国雇用機会平等委員)に訴えられますよ!」。私は突然、総務担当SVP(米国人上級副社長)に呼ばれて言われた。
私は、最初は何を言われているのかさっぱり理解できなかったが、どうやら我々の部門責任者である私の指示で米国人の採用をしていた結果の問題であることが分かった。前週に上記のEEOCメンバーが調査にやってきた結果、我々の部門が問題であると指摘してされたとの事である。
貴方の部門は、"学卒、若年層、白人、男性、しかも経験者のみの採用に偏り過ぎている"との指摘であった。今後は"女性、高齢者、有色人種"を増やしてください!との要求であった。しかも具体的に○○%増やしてください!と指示された。
当時(1980年)私は日系の現地自動車会社創業時のメンバーとして、我々の部門(調達部門)の課題である自動車部品を日本輸入から現地調達に切り替えるために現地人を約300人採用するさなかの出来事であった。そこで改めて、雇用機会均等法の勉強をさせられた。
アメリカの採用では筆記試験はなく、1次面接を採用担当と採用部門の係長が行い、2次面接に課長と日本人の私が行いほとんどの場合は、毎日の採用面接を行って当日2回の面接で採否の決定をしていた。
また、特徴的なのは職場の上司やかつての先輩などが本人の推薦人となって履歴書に記載されていた点である。したがって事前調査の段階では、その情報網を大いに活用しある程度の事前情報を整理したものである。
アメリカの履歴書には写真は貼っていない。また、面接時には、性別、年齢、人種、肌の色、宗教、国籍、出身国、家族、身体障害などに関する質問はしてはいけないことになっており、それらの情報を履歴書に書く事もない。唯一、年齢だけはアメリカの高校までは義務教育であり、高校の卒業年度で推察できる。
 そのため、面接当日までは上記に関する情報は全く無く、面接に多くの時間を費やして、本人から自発的に上記の情報を話してもらうようにするのに苦労した。当時はこれが米国での、公平、平等、対等なのであろうと知り、日本との違いを痛感させられた。

(平成24年6月27日 日刊工業新聞掲載)

公平・平等・対等について㊥

努力報われる学歴社会/大学移っても単位取得

森田 喜芳(東京支部)

私は、2002年に転職した。その会社は、前年まで米GMの部品事業部が分離独立した会社であり所在地はデトロイトの郊外にあり、5階建ての大きなビルがコの字型に3棟あり、世界本社も兼ねた本社機構の本部であった。
転職の際に履歴書を提出して、本社へ初出勤日に事前に内示されていた年俸やタイトルについて部門長と総務担当の女性2人と最終打ち合わせを行った。しかし、私はその時には気にしていなかった学歴が役職、昇格に連動していることがその後に分かった。
すなわち、この会社の場合はディレクター(部門長)で取締役になるには、例外を除いて、修士課程終了以上が条件であった。もちろん、この条件はGMの社内規定をスライドさせたものである。私の職場のナンバー2で、GMからの生え抜きの男性は博士号の肩書きを名刺にプリントしてあった。
その後、職場に慣れてきて、回りの人たちと親しくなり、その人達の経歴や会社での仕組みを聞いてみると、高卒で入社してGMの大学を卒業し、更に会社と連携しているいくつかの大学院で仕事をしながら修了し資格を得ている管理職も見られた。
高卒で入社した時は、全米にあるGMの工場勤務であった人たちがデトロイトの本社勤務でマネージャー(課長職)やディレクター(部門長)で仕事をしている人が私の周りには多く見られた。
アメリカの大学の場合は、取得した単位はどの大学に移っても問題なく、修了単位を得れば学位を与えられるようなシステムである。
従って、転勤が多くても勉強して学位を得られるような環境が整っている。また、修了年限がないために何年掛かっても修了単位を取得すれば学位は与えられる。
本人の努力しだいで学位を得て昇進、昇給する機会は、公平、平等、対等、に与えられており、努力すればその結果は報われる制度が学位となって証明されるということである。
すなわち、アメリカは学歴社会ではなく、人々は機会を均等に与えられてそれをクリアした人たちに、よりレベルの高い仕事とそれに見合う報酬が得られる仕組みになっている。努力すれば報われる分かりやすい仕組みが学歴として表現されるのが一般的である。
日本の場合は大学の単位は単一の大学内であれば適用されるが多くの場合は大学を移った場合は取得済みの単位は全て適用されない。
また、学習年限もあり学位は生涯学習の対象となりにくいのが現状である。

(平成24年7月4日 日刊工業新聞掲載)

公平・平等・対等について㊦

日常的な仕事と大学両立/日本社会も環境構築を

森田 喜芳(東京支部)

人口減少が進む中、子供を持つ女性が働きやすい社会にする必要がある。私がデトロイトで働いていた職場では、秘書の女性がある日、部門内異動により日本で呼ばれている総合職の仕事をしていた。確認をしてみたら彼女は最近、大学卒業の単位を取得し学士の資格を得たので総合職に移動したとの事であった。その女性は以前に軍隊(Military)から一般企業に移ってきて、部長職の秘書をしていた。
また、私の秘書をしていた女性の母親も高卒で銀行に入社して、仕事と育児を両立させながら勉強して、大学を卒業し最終的には定年退職時は銀行の課長職であったとの事である。同様に、私の秘書をしていた女性は今でも毎年、継続してコミニュティー・カレッジで学んで単位を取得している。
同じようにフォードの役員秘書をしていた女性が、大学そして修士を修了して、私が以前勤めていた自動車会社では、我々の部門に管理職待遇で50歳代の黒人女性を採用した例もある。このような例はアメリカでは数多く日常的である。すなわち昇進の最低条件は、平等、公平、対等に与えられた学歴であった。
日本では、少子化、高学歴女性も多くなり働く場所や管理職の登用などもっとフレキシブルで努力が報われる雇用機会の均等を進めて行きたい。特に幼児の育児を安心して長時間任せられる施設などの充実は、後期高齢者の施設の対応と同時に必要性は多く、早急な対策を要求されているのが現状である。
日本の高校義務教育化や授業料の無償化などの学校教育、制度は国民が受けたい教育を受けられる環境にすることも長期的な施策として取り組み、生涯学習の制度構築をしていきたい。
また、いずれ日本でも外国人の受け入れが活発になっていくことは必然的な現象であると考えられ、日本人だけでの単一民族を保つことは不可能に近くなっている。これらの人々と地球全体の枠組みから考えて、日本の社会全体が誰にでも、公平、平等、対等であるような環境を早く構築していくような努力が必要であると考える。

(平成24年7月11日 日刊工業新聞掲載)

原子力発電所の事故の脅威㊤

国会事故調「事故は人災」/胎児・幼児の健康第一に

青樹道弘(東京支部)

2012年7月5日、国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会が「今回の事故は自然災害ではなく、あきらかに人災だ」と結論づける報告書を衆参両院の議長に提出した。これは昨年から私がこの「経営士の提言」(2011年.4月23日)で疑問を投げかけていたものであるが、まさにそのように断定された。くしくも、政府が総理大臣の責任で再稼働を断行した大飯原発の送電開始と同じ日であった。この原子力発電所の事故による被害を地球上にもたらした一日本国民として、今、意見を述べなくてはならないと考えた。
わが国の原子力発電は、イギリスの原子炉を導入して東海村において実用運転を開始したのが最初であるが、イギリスの保険会社ロイズ社は日本が地震大国である事、原子力が確立された技術ではないと言う事で、原発の保険を引き受ける事を拒否した。このため国は万が一原子力発電所の事故が起きた時は電力会社が負担しきれない部分を国(国民)が負担すると言う、原子力産業保護のための「原子力損害賠償法」の制定に向けて、事故による損害額の試算を当時の科学技術庁に委託していた。最悪の場合、当時(1960年)の国家予算の2.2倍の損害が生じると言う、それこそ想定外の結果が出たそうである。
今回の事故による放射能が環境中に拡散される中、政府や専門家により『ただちに健康には被害はない』と言われているが、胎児や幼児の将来にわたる健康を真剣に考えての発言なのだろうか。内部被曝によって後から生じる晩発生影響が問題で、外部被曝とは異なり、長期間人体を損傷し続けるのである。
実際に測定されている放射線はガンマ線のみで、アルファ線、ベータ線の測定は行われて居ないのである。いったん体内に取り込まれるとより非常に危険な放射線の内部被曝は計測出来ないと言うのである。知っておくべき資料として、一冊の本が紹介されている。ラルフ・グロイブ、アーネスト・スタ-ングラス 著、肥田舜太郎、竹ノ内真理 訳 「人間と環境への低レベル放射能の脅威-福島原発放射能汚染を考えるために-」(あけび書房)で、原題は『The Petkau Effect:The Devastating Effect of Nuclear Radiation on Human Health and the Environmentt』 いわゆるぺトカウ効果(「液体の中に置かれた細胞は、高線量放射線による頻回の反復照射より、低線量放射線を長時間、照射することによって容易に細胞膜を破壊することができる」という現象が、カナダの医師アブラム・ぺトカウ博士によって証明された)について書かれており、初の邦訳出版となった。低線量放射線による生体レベル、細胞レベル、分子レベルでの影響を発見・かつ詳細に紹介。原爆・核実験。原子力発電所がもたらす様々な放射線被害、今日に至る政府当局による放射線防護基準の欠陥を指摘している。

(平成24年7月18日 日刊工業新聞掲載)

原子力発電所の事故の脅威㊦

大飯原発再稼動に疑問/安心して生活できる国に

青樹道弘(東京支部)

ある若者が「私は今、福島原発4号炉のことが一番気になっており、万が一の地震などが起きた際いち早く国外に脱出できるよう、家族も含めいつでもパスポートを身につけている。」と言った。
現在のこの事態がどれだけ大変な状況であるかを熟知した上での言葉である。彼は日常、熊本県の信頼のおける農家から肉・野菜や水を取り寄せており、外食は殆んどしていないらしい。そんな彼に対して、被災者を応援するという意味で使われている「エシカル」について質問したところ、それぞれの世代にはそれぞれの役割があるという答えが返ってきた。
そのようなともすれば神経質すぎるように見える行為をすべき世代、つまりこれから子供を育てていく世代、とその心配をしなくてもいい世代、を指して言っていたのだろう。
さらにある方には、「高齢者は自分自身に将来への何の憂いもないからと言って、何でも食べても良いのだろうか疑問に思っている。たとえ微量であっても体の中に放射性物質が蓄積され、いずれは火葬されて骨となり埋葬される。その時点で、空気中や土の中に浸透し、まためぐり巡って来るのでは・・・」と問いかけられた。
現在の政府関係者、当該研究者たちは、遠い将来のことまで本当に考えて、考えて大飯原子力発電所の再稼働を決定したのであろうか、甚だ疑問である。
毎金曜日に総理官邸前で反対運動を繰り広げている市民団体は、それを一番心配しているのではないだろうか。
国の原子力発電技術や海外への設置権など、大きな国家事業である事は間違いない。
しかし、それらと、安心して生活できる健全な国家建設とを天秤にかければ、どちらが大切かは考えなくても分かるだろう。少なくとも『ぺトカウ効果』をできるだけ多くの人に知って貰うよう活動したい。

(平成24年7月25日 日刊工業新聞掲載)

操縦室から見る財務管理

機長と経営者に共通点/計器と景気見ながら操縦

山下恭司(千葉支部)

財務管理の文字を「財務」と「管理」に分けて「会計」の文字を組み合わせると、「財務会計」と「管理会計」となる。「財務会計」は社外のステークホルダー(利害関係者)への説明責任を果たすために使用される「管理会計」は、社内関係者への説明責任を果たすために使用される。
財務管理に使用される会計用語の機能は、私が過去に在籍した航空会社の操縦席の計器に酷似している。パイロットは、優れた知識・技能を持って操縦室内の計器を確認、窓外に起こる自然現象の様子を見ながら操縦する。操縦技を駆使するがゆえに、顧客は安心してその飛行機に搭乗しフライトを楽しむことができる。 
経営者は、操縦席の機長と似たところがある。会社経営の優れた知識・技能を持って、財務諸表に示されたデータと社外の景気動向を見ながら、会社のマネジメントを司る。経営者への信頼があるがゆえに、ステークホルダーは安心してその会社に資金を委ねる。
資金計画は、飛行機の燃料計算に等しい。たとえ瞬時でも資金が途絶えてしまえば、会社は倒産に追い込まれる。飛行機に例えれば燃料を失っての墜落である。
利益計画は、経営者の思いを具現化する、飛行機でいう飛行計画である。目的地に向けた飛行計画書はさまざまな観点から作成される。
例えば、成田空港から太平洋を越えてアメリカ西海岸まで飛行する場合、追い風のジェットストリームに乗り、太平洋を真東に飛ぶ飛行ルートを選ぶか、大圏ルート(最短距離)でアリューシャン列島上空を飛ぶ飛行ルートを選ぶかは、当日の大気の状況を見極めて判断される。その日の外的要因であるジェットストリームの位置、高度、風速の強さ、ルート上で予想される急激な気温変化などから、最も効率的、かつ安全で快適な飛行ルートが選択され実行されるのである。
経営に例えれば、会社の現状のみに心を奪われることなく、そこから予測される諸状況を計画に盛り込んで、周りの外的要因に対処していく。計画によっては、到着地までの所要時間が1時間以上も違う飛行状況がある。それだけ出発前の判断は重要であり、燃費(=資金)にかかる経費の節約も大切な課題と例えられよう。経営者には、綿密な計画書の作成と、適正な「変化のマネジメント」をお奨めしたい。 

(平成24年8月1日 日刊工業新聞掲載)

思考・規則の壁を破ろう

少子化ふまえ学校統合/組織の理念見直す機会に

塚本裕宥(北関東支部)

私たちは頭の中で、自ら思考・規制の壁を作り、できない理由を考えがち、人が作った法律なのに、役所の基準や省庁間の壁があるという理由で、改革などを諦めている例が多い。本筋を忘れ、枝葉末節に捉われている例も多い。
人口減少社会になり、先行的にそれに見合う施設数や内容にする必要があるのは当然だ。それには施設の統廃合が必要。それで財源の有効活用や施設の充実も可能である。私たちの身近な例を示す。
断っておく、私の基本は「我らの子孫と我らのために」である。
幼稚園、保育園、小学校、中学校、高等学校の統合などを考えたい。
これら学校などは、大幅に過疎化が進んだ地域以外、かつての第二次ベビーブーム時と変わらぬ教室数の例が多い。小学校の場合1学年、各2学級程度の学校が多く、通常教室として、計12教室必要。これに理科、音楽、工作室などが必要で、実態は余剰教室を物置同然に使用の例が多い。是非、身近な学校で確かめてほしい。贅沢に使っているのが実態だ。
そこで私は幼稚園+小学校、保育園+小学校、小学校+中学校、あるいは、中学校+高等学校の如く統合などを考えることを提唱したい。
幼子が通うものは、合理的な通学距離として現状と同程度の便利さとしたい。
小~高等学校や幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省の管轄などと縄張り争いをしないこと。できる方策を考えるのが適切だ。
あいた幼稚園などは地域の施設として、放課後、幼老混在の見守り施設にするなど、地域ビジネスを活用、衆知を集め有効活用を図りたい。幼子を大切にして、雇用を生み出すことが大切だ。次も考え方で似たような例である。
農家・商店を支援するために組織が農協・商工会議所であるはずなのに、農協・商工会議所を守るため、農家・商店が会費で支えていると見える。
私の穿った見方だろうか。設立の基本に立ち返り、組織の存在の必要性や組織の理念を含め見直す機会だ。他の組織も理念に立ち返りたい。組織は頭から腐る。組織の寿命30年ともいう。肝に銘じたいものだ。

(平成24年8月8日 日刊工業新聞掲載)

教育施設の合理的統廃合を

行政の縄張り意識やめよう/地域ビジネス活用も大切

塚本裕宥(北関東支部)

筆者は思考・規制の壁を破ろうと提言し、例として人口減少社会を見据えて教育施設の統廃合が必要と提言した。ホームページや実地で確認してあり、具体的理由を例示してみる。
A小学校:800の戸建て造成を期に、1971年4月開校、19学級733名。78年度、団地開発に伴いピーク時、42学級1633名に達した。
79年度、隣接小学校開校で一部移籍、31学級1259名に減少したが、隣接の団地造成で、82年度、35学級1357名に増、以後は減少傾向。
11年度現在、普通14学級444名、支援3学級16名。教室概数32。当校は歴史が分かり、本提言を裏付けやすい情報開示である。
B小学校:79年4月開校、普通26学級、支援1学級。
11年度現在、普通13学級409名、支援3学級14名。教室概数28。
隣県の高層団地隣接C小学校:11年度現在、普通6学級112名、支援2学級11名。教室概数36。
教室数は不変なのに、児童数などは、ピーク時から2分の1から3(4)の1に減少した実態、年間出生数が約100万人に減少が如実である。
幼稚園+小学校、保育園+小学校、小学校+中学校の如く統合などするのが適切、1つの敷地で複合施設にすれば、設備費や管理費の低減が可能である。
校舎・体育館・運動場・プール・給食・図書・保健・音楽や工作の特別室の維持管理など、諸経費の合理化が可能で、余剰教職員も生ずる。
経費を節減、教育内容などを充実するのが得策だ。冷房設備が不十分な実態なら、それを充実するのもよい。理科・情報室などの充実もよい。つじつま合わせのため、空き教室を物置同然にしていたり、たまにしか使わぬ特別室にしておくなど不適切だ。意味あるよう利用価値を上げたい。
柔軟な発想や必要により地域ビジネスを活用することも大切だ。夜間不在である学校に、デイケアセンターを併設するなどの柔軟な発想も大切だ。
基本は「我らの子孫と我らのために」である。行政の縄張り意識はやめ、次代を担う子供は社会の宝、ゆとりある児童数で、慈しんで育てよう。

(平成24年8月22日日刊工業新聞掲載)

中小企業にとっての管理・監督者

自律型風土の「職場力」/目標共有やる気引き出す

釜澤直美(南関東支部)

近年のビジネス環境をみると、ちまたにあふれる企業分析に基づく、自社の強み、弱みの分析、更には経営資源の効果的な投入により、新しいビジネスモデルの構築こそ勝ち組への道だと言う風潮があるように思う。
しかし、一方で新しいビジネスモデルはアッと言う間に真似され、寿命は益々短くなっている現実もある。この様に変化とスピードの激しい現代、何が中小企業の強み、競争力となるのでしょうか。それはズバリ「職場力」です。
ビジネスモデルを軸にしつつも、企業の差別化は、いちいち上司からの指示がなくても社員が自ら考え、工夫し、具現化できる自律型風土であり、この風土で育まれた「職場力」が、差別化されたビジネスモデルを継続的に造り出す企業体質を作る事ができる。それでは一体、自律型風土の「職場力」とはどのようなものか。
実際に自律型風土の「職場力」により、閉園の危機を救った自律型組織の事例を紹介したい。
北海道の旭山動物園は標高292mの旭山の麓に位置する日本でも有数の寒冷地、ましてパンダの様に広く知られた人気者の動物もいない動物園は1990年代には入園者数の減少で閉園の危機に陥る。
そこで当時係長の職にあった現名誉園長が、当時10人の飼育スタッフ達と取った行動は、自分達は「何をしたいのか=目標」、「何をすべきか=手段」を全員が共有する事から始めた。①動物園の存在意義②閉園危機の切迫感の共有③動物園の在り方のアンケート調査によるポジティブ・フィード・バックなどから出た結論は、動物園とは生き物を見せる処、単なる動物の姿、形を見せる事に価値はない。「動物の行動展示」で付加価値を持たせ、動物の本当の魅力を「伝えること」だった。
ダグラス・マクレガーのⅩ・Y理論における管理・監督者とは、①個人の欲求や目標が企業の目標につながるように調和を取ること②従業員の知的能力を最大限に活かすこと、とも言う。
社員は、会社にとって最大の資産であるが、しかし活かさなければ意味が無い。近年社会人の仲間入りを果した「ゆとり教育世代」の社員を含め、いかに社員のやる気を引き出し、強みを業務へ活かすかを真剣に考え、実践する能力を身に付けた現代版管理・監督者の登場を期待したい。

(平成24年8月29日 日刊工業新聞掲載)

ES経営とCS経営

まず従業員が仕事に満足/仕事理解で高いサービス

石倉憲治(東京支部)

「CS経営」に対して、「ES経営」という言葉がある。ES経営のES(Employee Satisfaction)とは従業員満足である。それを志向した経営がES経営と呼ばれている。
ESなくしてCS経営の実現は難しい。なぜならCS経営の目標である「顧客の期待することを叶え、満足を提供する」直接的な行為者は、従業員に他ならないからである。従業員が自分の仕事自体に満足していないCS経営は、掛け声倒れとなり絵に描いた餅に帰することは自明である。ES経営とCS経営とは密接につながっており、一心同体のものだと言える。
基礎的な人的サービスはルーティンワークであり、もれをなくすことがポイントになる。そしてその徹底はマニュアル教育が必要不可欠である。しかし、このようなサービスからは十分な顧客満足は提供できない。顧客満足につながる高いレベルの人的サービスは、従業員が仕事を理解して、仕事に満足している結果から生まれるものだ。自分の仕事の意義、その重要性、自分の果たすべき役割などを徹底理解することで仕事の面白さを深く知った上での顧客対応が、高いレベルの人的サービスを生むのだと言える。
ESを考えるとき、外してはならない事項がある。仕事の報酬のこと、賃金のことだ。
アメリカの心理学者で経営学者であったハーズバーグ博士は『動機付け-衛生理論』で「衛生要因(不満足要因)である賃金、職場環境などの向上は不満足の解消にはなるが動機付け(満足要因)にはならない。動機付けは仕事の満足から得られるものである」と言っている。賃金の向上は従業員の不満の解消にはなるが、それが動機付けとなり仕事の満足までにはつながらない、と言うのだ。
賃金は業界平均よりは少し高めにして従業員の不満足は解消して、仕事そのもので満足を与える。これがES経営の要諦のようだ。

(平成24年9月5日 日刊工業新聞掲載)

身近に見るCS経営

本屋さんの立ち読み奨励/接客態度・技術が向上 

石倉憲治(東京支部)

CS(CustomerSatisfaction)とは1980年代にアメリカで言われ出した経営理念で「顧客満足」と訳される。組織や経営のすべてを顧客中心に展開し、顧客の期待することを叶え、満足を提供する。
品質はもちろんのこと、サービスをも徹底的に見直すことにより顧客の満足を高め、さらにより良い企業として発展を遂げようとする経営姿勢である。
最近、私は本屋さんでこの「CS経営」という思想を実感している。以前本屋さんでは「立ち読みお断り」とのPOPが貼ってあったりした。また、立ち読みをしていると、従業員がハタキをあてたり、急に本の整理などをしだしたりして顧客に近付き、無言の圧力を感じさせ立読みをしづらくしたものだ。その圧力に耐え切れず店外に出て行った経験をお持ちの方は多いと思われる。
その状況が最近は様変わりしている。椅子が陳列棚の端に用意されていて、「立ってお読みいただくのは辛いでしょうから、どうぞお座りいただいてゆっくりお読みください!」と言わんばかりなのである。以前のような立ち読みに対しての嫌悪感を払拭して、逆に立読み大歓迎の姿勢を示し、十分納得の上で満足をされ図書の購入をしていただきたいとしているのである。
立ち読みからの図書購入の購買形態はインパルスバイング(衝動購買)のカテゴリーに入ると思う。そのときたまたま手にした図書が衝動的に興味を持ち購買へと至るのであるから、「衝動的に興味を持つ」ための内容理解が必要になる。そのためにはある程度の読書時間を取らなければならない。そうしなければインパルスバイングにつながらないし、満足した購買とはならないはずである。
だから「顧客の期待することを叶え、満足を提供する」本屋さんの販売形態は、このように椅子を用意した販売形態となるのであろう。
このような本屋さんは一様に従業員の接客態度が良い。従来の本屋さんのイメージはそこにはなく以前よりはるかに接客技術が向上していて、さらなる顧客満足を得ようとする姿勢がみなぎっているようにも見える。
まさに「CS経営」そのものだと思える。

(平成24年9月12日日刊工業新聞掲載)

教育施設の統廃合は聖域か

教育施設は過剰状態/適正配置、喫緊の課題

塚本裕宥(北関東支部)

筆者は思考・規制の壁を破ろうと提言、例として人口減少社会を見据えて教育施設の統廃合が必要と提言した。あらためて提言を補足する。その統廃合は聖域か。否聖域ではないはず。行うべきは、その適正配置や教育内容の充実のはず。
読者もホームページや実で確認して、各地で声を上げて欲しい。この指摘は行政の管轄とも関係あり、各地で声を上げるのが効果的だ。さらに、公共施設という観点への拡大も必要だ。
3小学校の事例を紹介した。実態確認のため、近くの幼稚園や小中学校に足を運べば、少子化を実感、読者の身近にも非効率が多いはず。現在の教育施設の規模は、第2次ベビーブームを基準にしており、多くの教育施設が過剰な状態になっており、放任状態とも言える。
1000兆円に上る財政赤字(国債残高)、身近な無駄遣いから脱却して、財政の有効活用を図りたい。その一つとして教育施設の合理的統廃合を提言しており、幼児や学童の遠距離通学を強いないが、学校などの適正配置は喫緊の課題だ。財政破綻して1市各1小中学校の例は誰も望まぬと思う。
各学校などは地域の便利なところにあり、統合による空き施設を作り、放課後校(アフター・キッズスクール)、幼老混在の見守り施設(デイケアセンター)、情報・ふれあい交流センターや食事などの家事支援センターに変え、ビジネス感覚で雇用の場としたい。省庁間の管轄に捉われぬ、柔軟な発想を生かし、衆知を集め優れた実行計画としたい。
この提言を実施すると、当市ではこういう事例がある、という情報交換も進むはず。
意識改革のできる運営者に任せるのも大切だ。もちろん、非効率な再利用を予想のときは、空き施設を廃止するのが適切だ。
行うべきは適正配置や教育内容の充実のはずだ。校区の境界居住の児童は、いずれに
しろ存在する。ある市の例は望まず、小異を捨てて大道に付きたい。
基本は「我らの子孫と我らのために」行政の縄張り意識はやめ、次代を担う子供は
社会の宝、慈しんで育てよう。

(平成24年9月19日日刊工業新聞掲載)

やめる・戻る勇気を持とう

財政健全化は喫緊の課題/新幹線以外で活性化を

塚本裕宥(北関東支部)

日本の国債発行残高1000兆円、これ以上後世負担を積み増さぬ勇気を持とうと提唱する。その例として北海道新幹線を採り上げる。今なら遅くない。北海道新幹線函館~札幌間延伸をやめようと提唱する。完成予定は2035年度末。今でも財政状況の悪い北海道、更に悪化を招くだろう。
市内に小中学校が各1校だけ、この悲惨な例がある夕張市、北海道のお膝元の例だ。将来ある若者に悲惨を強いている北海道、財政負担を招く新幹線を延伸するのは、正気の沙汰とは思えず、私の予想の外れを祈る。航空機(LCC)との競争激化を予想、在来線存続の大きな負担等を考えたら、引き返すのは今だ。
狭い日本に新幹線網を張り巡らして、何になるか?人口減少の経済や海外からの観光の活性化は新幹線以外で考えたい。日本の政策や投資等は、一度決めた(まった)ことだからと、まっしぐらに突き進む例が多い。悲惨な例だが、先の戦争はその典型例だ。
思いとどまる、覆す勇気を持ちたいもの。これまで投資が無駄になる、努力が報われぬ、面子が立たぬなどの理由から突き進み、残ったのは、役立つことの少ない道路、ダム、その他、多くのプロジェクトがあり、今の国債残高を積み増したのだ。その反省がなく、教訓にしたい。
是非この辺で、やめる・戻る勇気を持ちたいものだ。企業の新規事業開発や選択と集中をし過ぎ、結果的に企業存続さえ危うくした例も、思い起こしたいものだ。身近に多くの例があるはず、教訓にしたい。
筆者はビジネスを社内の面子で進めて失敗、私の主張が正しかった経験を改めて思い出す。道に迷ったときは、「来た道を戻るのが鉄則」を思い起こそう。面子などというつまらぬ意地の張り合いは無意味。
原発の即時停止等は主張しないが、原子力村と揶揄の事例を教訓にしたい。
われらの子孫とわれらのために、他の公共投資を含め、財政の健全化は喫緊の課題だ。
あらためて、やめる・戻る勇気を持とう!と提唱する。

(平成24年9月26日日刊工業新聞掲載)

重要性増すリスクマネジメント㊤

与信管理マニュアル作成/営業部門は情報共有化を

近藤肇(中部支部)

企業のリスクにはさまざまな要因(形態)が挙げられます。大別すると震災や洪水、異常気象等の自然要因と事故、伝染病、民族紛争等の社会環境の変化によるリスクがあります。日本のように食糧自給率が低く(39%)多くを輸入に頼っている状況下では、自然災害やカントリーリスクは日本の企業や消費者に多大な影響を及ぼします。
さらに経済的要因として金融危機、為替の変動、PL(製造物責任)等があります。特に製造業や輸出企業にとって製品のクレームによるPLは日本よりも欧米の基準が厳しく、日本企業も多額の賠償金を支払う事例が出ています。PL訴訟は商品のイメージを損なうことにもなり、損害は計り知れないものがあります。また取引先の倒産も企業にとっては大きなリスク要因です。
金融業や商社は取引先への与信管理としてマニュアル化されています。
中小企業の多くは取引先の調査は調査会社への信用調査程度で間に合わせているのが実情です。経済状況の変化の速い今日では調査会社のデータだけでは不足でしょう。倒産情報が流れた時点では、いわゆる一般債権の保証は無きに等しいのです。抵当権等の担保権の設定があるか車両等の所有権が留保されていなければ債権の確保はできません。
取引先の与信管理は自社でマニュアルを作成することが重要です。管理部門は、支払いの遅延や手形取引の変更等のチェック、取引先の役員や本社、資本金の変更、合併等のチェックを怠らないことが必要です。
営業部門は取引先の変更や幹部社員の動向を営業日報等で速やかに上司や幹部に報告して情報の共有化(ナレッジマネジメント)することです。
とくに社内事情に精通している総務や経理部門の管理職の退職は危険の予知情報として注意が必要です。
それらを総合して危険と判断した場合は確定日付による支払いの督促、公正証書の作成を求め自社の債権の優先弁済権を確保することが重要です。
このようにリスクマネジメントは近年企業の存続にとって重要性が認識されています。
事業継続計画(BCP)は、ISO22301として国際規格化されています。

(平成24年10月3日日刊工業新聞掲載)

重要性増すリスクマネジメント㊦

情報漏えいや不正防止/相互チュエック機能を確立

近藤肇(中部支部)

企業経営にとってのリスクはここ数年内部による不正の増加です。社内の不正による情報の漏えいや金銭や商品(部品)の横領、不正使用は事務部門の少数精鋭化やITの活用のため、上司や会社幹部が気付くのが遅く発覚するまでに時間が掛かっているのが現実である。
従って気付いた時はその被害が極めて大きく、会社の経営基盤をも揺るがす事態に陥っていることがあるのです。
ここに不正経理の事例を挙げます。経理課長Mは大手企業の経理事務職を経て某中小企業に転職して5年になります。会社幹部は経歴書のみでMを信頼して前職の職務経歴や生活態度まで調査することを怠っていたのです。
担当役員は経営者の家族の世話に時間をとられ、事務は任せきりになり職場にも週に1度か2度出社するという状態で、金庫の鍵も預けたままでした。
総務部長は着任して日が浅く業務の実態を把握していませんでした。
Mは60歳を過ぎて独身であり、外食が多く競馬、宝くじに熱中して金銭に無頓着な性格でした。給料のみでは足らずやがて会社の経費に手をつけることになるのです。
取引先を利用して個人の飲食やガソリンの付け回しをし、取引先と共謀して架空の修理伝票を計上して経費を私的に流用する行為が日常化していきます。さらにパソコンの経理ソフトも経理課長Mに任せ、経理ソフトの修正をして帳簿の改ざんをし、上司はそのチェックもしないままで数年が経過していきます。気付いた時は3000万円を超える使い込みが発覚したのです。
このような不正を防ぐにためには、日常業務のルールやマニュアルを具体化して相互のチェック機能を確立することです。多くの中小企業に見受けられる特徴として社内の決済基準がなく(あっても曖昧であり)特定の社員を信用しすぎることです。
職務権限規定、稟議規定、物品購入規定、新規取引規定などで予算や職務権限を役職別、個人別に設定することが望まれます。経営者といえども例外を認めないことです。
一定額を超える交際費や物品の購入などは事前に申請して決裁を得ることが原則であり、事後の報告にも白紙の領収書は禁止です。
また、管理職とりわけ総務職や経理職の社員を採用する場合は経歴書をうのみにするのではなく必ず前職の人事担当者に確認を取り、適性検査などで職務の適性を客観的に判断するような採用基準を就業規則で明記することです。

(平成24年10月10日 日刊工業新聞掲載)

人材育成に倫理・道徳教育を

講話や職場で意見交換/総意反映し業務円滑化

平山道雄 (東京支部)

多くの企業・団体においてはISO26000(社会的責任)の導入のために、組織化して活動している。しかし、内部では、社員による金銭着服事件の発生や、職位を利用して既事業と整合性の採り難い仕事を立案実行して他部門に迷惑をかけているのを見かける。
また、外部との関係においては贈収賄・不法取引などさまざまな事件が発生している。これらは全て企業・団体の規模の大小を問わず経営に関する要素である"人""物""技術""情報""金"の五要素の中で、最も重要な "人"の行動から発生しているものである。どこの企業・団体においても不祥事発生の危険性は潜んでいるものであり、いかに倫理的責任・法的責任が欠如しているかがうかがえる。
近年、小学校から大学に至るまで倫理道徳教育が貧弱になっている傾向があることを思うと、企業・団体において「倫理的責任・法的責任」を人財育成の中心課題として採り入れる必要がある。これを進めるにあたっては、それぞれで規定化してある倫理規定を基に、「倫理とは何か」「道徳とは何か」など主たる語句の定義・実施目的・期待効果(狙い)を平易な言葉で説明し、社内報や講話などを通じて全員が統一した解をだせることが肝要である。
話材には論語や言志四錄などを活用するのも良いが、日常においては「倫理とは、人倫のみちである、また道徳とは、人のふみ行うべき道であり、善悪を判断する基準である」ということを踏まえて、社内のみならず一般社会生活の場において、見聞きした身近な事柄から取り上げて、「人間はいかにあるべきか」を皆で考え相互に意見交換が出来る場(雰囲気)づくりを、朝礼や会議の終了時に少しの時間を割いて実施してみてはいかがなものか。
また、一方通行的な話以外に職場内で討議を行い、適時に職場間で発表し合ったら良いであろう。全員が倫理・道徳感覚を身につけて行動することが、日常業務における「報・連・相」も順調に進むようになり総意を結集することを可能にする。これによって、職場観境が良くなり、仕事・作業の効果も上がり、社会からの信頼を勝ち取ることが出来る。

(平成24年10月17日 日刊工業新聞掲載)

本来の品質への回帰

技術に拘り過剰機能/顧客の要求を製品に

金子昌夫(千葉支部)

中小企業の製造業においては「本来の品質」重視のモノづくりに回帰することである。製品の外観・形状や寸法精度などを向上させることも「品質」だが、顧客へ満足する製品を提供するのが「本来の品質」である。自社の技術力やモノづくりへのこだわりから過剰な仕様(高機能や外観品質)で、使い勝手の悪い不必要な製品を作り上げている。その結果、コスト面で有利な海外製品に負ける場合もある。だからこそ、顧客(市場)の要求を製品化する「本来の品質」へ回帰することが重要である。
顧客が自社の商品を購入するのはなぜか。どのように使っているか。商品を使う時に困っていることは何か。最終的に選択するときに最も重視する機能は何かなどについて、QC手法(新QC7つ道具の連関図、系統図、マトリックス図など)を使い整理し、求められ「品質」とは何かを明らかにすることだ。顧客(市場)が要求する「品質」から製品仕様を明確にすることで、今まで過剰であった仕様から要求外の品質・機能を省き、部品コストを大幅に削減できる。
これからは、国内市場だけではなく、新興国市場にも目を向けていかなければ継続的な成長は期待できない。しかし、顧客(市場)の要求を明確にすることで、市場にマッチした品質を作り上げることができる。新興国市場においては、現地のニーズにマッチした製品仕様による適正品質の構築、機能と品質と価格のバランス化であり、飽和化した国内市場においては、製品を使って得る付加価値が必要である。
顧客(市場)の要求する「品質」を明確にし、製品化をすること。それには、モノづくり側の品質力を向上させなければならない。開発・生産準備段階では、作りやすい設計構造・設備とした上で、生産部門が標準に基づき作業を行うこと。
品質を確保することを基本に、機能、性能、安全にかかわる重要な品質特性については、開発段階から図面、設備、製造方法、工程管理面から確保する取組みを行い、品質の維持・向上を進める。一方、外観や異音などの官能特性については、発生要因を明確にし、対策の検討を行い、日々の改善をすること。また、顧客のさまざまな使い方を試みて、意地悪テストの実施などを行い、顧客の視点で品質を再確認することも重要である。

(平成24年10月24日 日刊工業新聞掲載) 

「中小会計要領」の課題と展望

普及率向上に使命感/信頼性ある決算書が必要

岡部勝成(九州支部)

現在,わが国の中小企業の会計ルールには、2005年8月に「中小企業の会計に関する指針」(中小会計指針)が公表された。それとは別に12年2月に「中小企業の会計に関する基本要領」(中小会計要領)、さらに同年3月に「中小企業の会計に関する検討会報告書」がそれぞれ公表され、中小会計要領の普及・活用をめぐる議論が最重要視されている。
中小会計指針が日本税理士会連合会・日本公認会計士協会・日本商工会議所・企業会計基準委員会の4団体から公表されて以来7年が経過しているにもかかわらず、その普及率は260万社あるといわれている中小企業全体のわずか10%台にしか至っていない。この現状を勘案し、さまざまな議論の末、公表された「中小会計要領」に対する期待感や役割、とくに普及・活用の向上をめざすべく実施するという絶対的使命観のようなものを感じ得る。
こうした中、08年9月のリーマン・ショックからの回復基調が軌道に乗ろうとしていた矢先、11年3月11日に発生した東日本大震災は、わが国経済に大きな打撃を及ぼし、復興に向け動いてはいるものの、その傷跡は今尚色濃く、混迷を続けていることは周知のとおりである。また、海外に目を向けると欧州不安や米国経済の減速、さらには中国経済の先行き不透明感の台頭など、国内外の影響は中小企業に大きな影を落としている。
中小企業政策において、13年3月末に終了する中小企業金融円滑化法は、過去延長までされ、中小企業を支援してきた。その効果は、過去3年の倒産減少基調からも明白であろう。現在、各金融機関は金融庁から出口戦略をどうするのか提出するよう指示されているところである。
今後、一層の複雑化・多様化する経済・経営環境の下、中小企業がゴーイング・コンサーン(事業の継続性)を実践していくためには,信頼性のある決算書は不可欠だ。そのためにも「中小会計要領」に基づいた決算書の作成は経営状況の早期把握やステークホルダー(金融機関や取引先など)への説明能力や説明責任の向上を進めるうえで、有用性があると考えられる。「中小会計要領」が市場に受け入れられるのか、普及・活用は中小会計指針のように低調で推移しないのか動向に注視していくことが必要であろう。
最後に、12年8月30日に施行された中小企業経営力強化支援法は、「中小会計要領」との連関で中小企業の経営力・資金調達力強化に寄与するといわれているため期待したい。

(平成24年10月31日 日刊工業新聞掲載)

MMによる商品企画10のステップ㊤

ネット時代の変化に対応/市場や顧客、理解し活動

小塩稲之(埼玉支部)

マーケティングを単機能としてではなく、あらゆる取り組みにおいて先行する全社的な概念として捉え実行し適応すること。私は、これを「マネジメントマーケティング」(MM)と呼んでいます。
MMの考え方は、川下から川上を見つめ、経営全体、経営の根幹までを含めて『市場の視点』から構築するものです。さらに、インターネット時代に入り、消費行動パターン、マーケティングの理論は、AIDMAからAISASになったといわれています。Attention、Interestは同じ。
しかし、次の段階のDesire、Memory、Actionと行く過程が、現在はDesireがSearch(あるいはResearch)となり「調べる、下見」をするというものも含めて事前の確認がされます。ネットができたことで、リアルタイムに顧客が情報を適時に知るということ。そしてもっと重要なのが、Actionした後にその購買の情報、あるいは感覚を顧客同士で瞬時に"Share"してしまうことです。
今回紹介するMMの商品企画は、そのような時代に対応し、従来の「ひらめきや勘だけに頼る企画開発や、技術シーズ中心の商品企画」を廃して、継続的な商品企画が望めるようになるシステムです。それが、商品企画の「10のステップ」です。これは次のようなステップにより、市場や顧客を理解した活動を行うことです。
①マーケティング環境分析、②3C調査 セグメンテーション(市場の細分化)とターゲティング(市場の絞り込み)、③アイデア発想・アイデア選択評価、④ポジショニング分析、⑤商品設計、⑥製品評価、⑦SWOT分析、⑧マーケティング・ミックス(4P)による分析と戦略立案、⑨構造化ダイアグラム(アクションの優先順位付)、⑩ロードマップ作成(中長期計画)。最初のテーマの設定は、しっかり慎重にやること。営業も生産部門も、社内の意思統一を図ることが重要です。アイデア出しが、商品企画担当者の腕の見せ所。経験を積み、アイデアをストックしておくことがポイントです。
テーマの設定とアイデア出し、そのためにさまざまな調査と分析を実施します。「他より付加価値の高い商品を作れるか」が、商品開発者の任務といっても過言ではありません。次回は、アイデア発想とポジショニング分析について紹介します。

(平成24年11月7日 日刊工業新聞掲載)

MMによる商品企画10のステップ㊥

仮説立てチームに明示/市場調査でニーズ明確化

小塩稲之(埼玉支部)

商品企画の「10のステップ」の手順の最初はまず「仮説を立てる」ことです。経営資源やミクロ・マクロの外部環境与件を有効に活用するため、経営者がたてた仮説は、経営者の頭の中にしまわず、チームに明示することが望まれます。組織の大きな課題である「共通目標・貢献意欲・コミュニケーション」の3点を醸成するのに効果的だからです。
また、自社のメリットより、顧客のメリットを想定して顧客からヒアリングをしやすくすることも重要です。市場の声を社内フィードバックできるような体制も常に準備しておかねばなりません。『市場の視点』に立ってマーケティングを考えれば、不確定な要素や問題点を早く明示することで、つくってしまってから市場に受け入れられずに不良在庫になることもないでしょう。
次に、市場ニーズにマッチした商品開発かどうかの検証です。市場調査の実施を通じて、対象市場の市場環境や、市場ニーズを明確化する。これにより市場ニーズにマッチしない商品開発や、成長性が乏しい、あるいは予想していたより市場規模が小さいマーケットへの新製品の市場投入を防ぐことができます。
アイデア発想ですが、当社が新商品を開発するとすれば、こんなものをやるべきというイメージを持っている人は多いものです。そこで、その商品を使う側からの検証が重要です。そのためのアイデア収集、分析を行います。
ただ、アイデア発想法をいかに理解したとしても、そのメンバーに商品知識が欠けていたり、理想論ばかりではなかなか着地しません。いくら目新しくても、経験や歴史、商品知識、技術などを理解していない素人集団では、そのアイデアや発想は失敗します。
実際、商品知識がある人のアイデア発想が必要です。よく、「センミツ(1000回トライして、二つか三つしか成功しない)」といわれますが、素人の発想では継続的なアイデアは得られません。次のポジショニングは見込み客に商品やブランドのイメージをどのように位置づけるかということです。ポジショニングの設定は、「ひとこと」で言い表せることも重要な要素です。「ひとこと」で言い表せることは、一つの効用(べネフィット)に絞り込んで訴えるということであり、ブランドの特性が明確になります。
ポジショニングの例として、ボルボは「最も安全な車」、BMWは「究極のドライビング・マシン」、ポルシェは「世界最高の小型スポーツカー」という位置づけをしています。

(平成24年11月14日 日刊工業新聞掲載)

MMによる商品企画10のステップ㊦

商品コンセプト明確に/SWOT分析で問題点発見

小塩稲之(埼玉支部)

今回は、商品企画の中でも、商品コンセプト、デザインコンセプトを決める一番の柱となる「商品設計」です。モノを理解するには、『モノ』よりも『コト』に注目することが重要です。モノにとらわれると、モノ自体の分析ばかりに目が向いてしまうことが多くあります。
「あなたの会社の商品と他の商品との効用の違い、またはその商品の考え方(商品コンセプト)は、何ですか」という問いが重要になります。実は、これが明確にされていないと「商品」としての情報発信はできません。そして、いつまでたっても、売れない「製品」というレッテルを貼られることになります。「製品」と「商品」には、大きな川が流れています。「製品」はつくっただけのモノであり、「商品」は商いになるモノ、売れるようにしたモノです。そこで、製品か、商品かの判断材料となるのが、製品評価です。
次の3つに細分化して評価することが重要です。それは、(1)新規性(2)優秀性(3)市場性です。次のステップであるSWOT分析では、自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)、ビジネス上の機会(Opportunity)と脅威(Threat)を明らかにすることですが、SWOT分析で導きだした課題を重要度、効果性、実現性、経営資源の制約を考慮し絞り込み、その因果関係を分析しながら、真の問題点を導き出す手法が構造化ダイヤグラムで、これに落とし込むことが重要です。その時「なぜ、それが起きたのか」「その原因は何か」を繰り返し、真の問題点を導き出す「なぜなぜ5回」は欠かせない思考回路です。このダイアグラムにおいて真の課題を抽出し終えたら、現在の状況、課題解決策を実施後の1~2年後(短中期目標)、3~5年後(長期目標又はあるべき姿)の課題が解決した状態の道筋を具体化、立案するのがロードマップです。ここまでが商品企画10のステップで、ここで、いよいよ、完成前のプロトタイプ(試作品)の製造になりますが、プロトタイプでは、「プロトタイプ調査」の視点が重要です。特に技術製品については『市場の視点』からみるとプロトタイプ、あるいは原理モデルに相当するものをときどきみかけます。量産化前のプロトタイプの段階で、対象市場の市場環境(市場規模や成長性)、競合環境、市場ニーズなどについて分析を行い、プロトタイプを顧客に持ち込むことでその市場調査を実施することは極めて重要になります。この市場調査の実施を通じて、事業アイデアの市場可能性も同時に検証でき、 また市場調査の結果を踏まえて、市場ニーズにマッチした商品化の課題を抽出することも可能となります。

(平成24年11月21日 日刊工業新聞掲載)

開発資産の活用㊤

海外展開で分業も拡大/過去に学んで情報共有

渡辺智宏(南関東支部)

最近の製造業、特にエレクトロニクス業界において、米アップルや韓国サムスンなど海外勢は快進撃の一方、ソニーやパナソニック、シャープなど日本企業ではあまり明るくない話をよく耳にするようになった。
日本のモノづくりはどうすべきか?という議論が沸く中、開発部門では新興国への拠点展開の動きが活発化している。
新興国市場への事業拡大を狙ったマーケティング強化や、生産工場との密な連携による効率化、コスト削減、取引企業からの要望などが主な理由である。開発拠点の海外展開には部門全体の方針検討や、開発拠点の役割見直しなど多くの課題がある。
本連載ではその中で、開発資産の活用に焦点を当てる。
開発部門はこれまでも効率化やコスト削減を狙って分業を進めてきたが、開発拠点の海外展開の拡大とともに、分業はさらに複雑に拡がっていくものと予想される。
私は製造業やIT業界などの開発部門のマネジメント改革を支援しており、その中で分業による弊害も色々と見てきた。
特に、分業した業務の統合時に重要問題が顕在化する場合が多い。
例えば、製品開発の役割分担が曖昧で実装すべき機能が抜けていたや、機能単体で最適化を図ったが結合すると不整合が発生したなど、統合化、横断化の考慮不足による問題をよく見受ける。
役割分担が進むと、担当範囲の業務完遂に終始し、ビジネスや製品全体を捉えたアイデアの検討がおろそかになるケースもある。ステークホルダーも増えるためコミュニケーションが複雑化し、情報共有が不足するといった問題も発生しやすくなる。
分業自体は効率的な考え方であるため、その良さを十分発揮できるよう、これらの対策を考えていく必要があるが、基本的なアプローチとして、まず過去の教訓から学ぶということがある。
これまで分業を進めてきた開発部門であれば、過去に発生した問題とその対策が蓄積されていると思う。それらを振り返り、今後の海外展開に活用していくのである。
過去の経験を今後活用していく上で、「キュレーション」という概念を紹介したい。次回はキュレーションの説明と、この概念を開発部門にどのように活用できるのかを述べていきたい。   

(平成24年11月28日 日刊工業新聞掲載)

開発資産の活用㊥

必要な情報、収集・分類/つなぎ合わせて価値創出

渡辺智宏(南関東支部)

前回は、開発拠点の海外展開について、課題の1つである開発資産活用という観点で、拡大する分業とその弊害、1つの解決策としてキュレーションというキーワードを述べた。今回はキュレーションの説明と、開発部門へのアナロジーについて述べていきたい。
キュレーションとは、無数の情報から必要なものを収集・分類し、つなぎ合わせ、新たな価値として提供する概念である。美術館や博物館で、企画や展示を担当する専門職のキュレーターに由来する。キュレーターは既存の作品、資料の意味や価値を問い直し、コンテンツを選択して絞り込み、それらを結びつけて新しい価値を生み出すように展示方法などを工夫することが役割である。最近、インターネットの世界では氾濫する情報を整理し、新たな価値を創造する仕組みが構築されてきている。
例えば、東日本大震災では災害関連情報にツイッターなどのソーシャルネットワークが活躍したが、情報が錯綜する中、被害状況や行方不明者など、必要とされる特定のテーマに基づいて情報を整理、発信する「まとめサイト」が被害の拡大防止に大きく貢献したといわれている。
このように、既存の情報を整理することで新たな価値を生み出すことがキュレーションという考え方であり、これは開発部門にもアナロジーできる。
開発部門には、過去の開発で検討した商品企画案や技術・設計資料、評価項目、障害情報、リスク・課題情報などさまざまな情報の蓄積があるが、多くの開発部門では目先の忙しさで、過去の開発の蓄積情報を整理して、開発資産として活用するところまで手が回っていない。今後、海外の開発拠点が増えれば、情報の散在、非共有が今まで以上に広がり、過去の開発情報がさらに死蔵する恐れもある。
そこで、過去の開発プロジェクトの情報と、それに加え、世の中に公開されている他社事例情報なども収集し、技術戦略、業務プロセス、組織運営などテーマを設定して、整理・体系化していくキュレーターを設置するのである。
次回は開発部門におけるキュレーターの役割、必要なスキル、キュレーションの運用方法などについて述べていきたい。

(平成24年12月5日 日刊工業新聞掲載)

開発資産の活用㊦

収集情報を有効活用/提案・説明力ある人材育成

渡辺智宏(南関東支部)

前回はキュレーションの概要について述べた。最終回となる今回は、キュレーションの運用方法について述べていきたい。開発部門におけるキュレーターの役割は大きく二つある。
一つ目はこれまで述べてきたとおり、過去の開発プロジェクトの各種情報(商品企画案、顧客・競合情報、設計書、チェックリスト、コスト情報、リスク・課題情報、障害情報など)と、他社の改善事例などを収集・整理する(開発資産を作成する)ことである。
例えば、「技術戦略」「プロジェクト管理」「組織運営」「開発基盤」などカテゴリーを設定し、収集した情報を分類し、それを大・中・小項目のような形に構造化し、今後の開発で参考情報として活用できるような資料にまとめていく流れになる。
二つ目の役割は、開発資産の活用教育である。開発資産をどのように活用すると効果的か、どのように使用者に伝達すると活用してくれるかを考え、使用者への教育を行っていく。
これらの役割を果たすためには技術や設計の知見に加え、論理的に情報を整理・深堀りする能力、整理した情報を使用者に活用してもらうための提案力、分かりやすい説明力などが求められる。
このような高度な能力が必要なキュレーターは、技術管理部門や品質保証部門などスタッフ部門に配置し、育成することが望ましい。
本来スタッフ部門は、戦略部門としてライン部門へ知見を提供する参謀役であり、キュレーターはまさにこの役割を担うからである。
最近はスタッフ部門の人員が削減されるケースも多い。ライン部門だけでなく、スタッフ部門も多忙になる中、キュレーションのような戦略的業務を担っていくには、スタッフ部門の意識改革と、作業的な業務の削減・効率化に向けた継続的な改善が欠かせない。また、あえてライン部門からスタッフ部門に優秀な人材を配置転換するなど、スタッフ部門の強化による開発部門全体の効率化、付加価値向上という姿を目指していく必要がある。
3回にわたり、キュレーションという概念を用いながら開発資産の活用について述べてきた。厳しい競争環境の中、開発部門の継続的な付加価値向上に向けて、キュレーションという考え方が何かの参考になれば幸いである。

(平成24年12月12日 日刊工業新聞掲載)

エネルギー政策への提言㊤

安全停止した女川・福島第二/原発輸出の技術資産

樋口藤太郎(南関東支部)

3・11の東日本震災の福島第一(F1)の原子力発電所事故以降、わが国の電力源ベストミックスは、即原発停止によって完全に崩壊した。本来の電力源のベストミックスは経済的には電気代の上昇を押え、良質電力の安定供給と温暖化ガスの削減の環境保全を実現する3目標のバランスがとれる最良の状態が想定されていた。
2012年の8-9月に政府が実施したパブリックコメントは、F1被害の惨状のみが伝わった世論の結果として、当然ながら原発0%に80%の賛成を占めた。
それを受けて政府は、即脱原発や30年に原発0%にすると決定した。しかし、産業界や経団連の反対がでると、すなわち一部原発稼働を発表したり、政策方針のダッチロールを呈している。将来の原発代替手段として、再生エネルギーの比率拡大を発表しているが具体性と実現性に欠ける。電気の安定供給のため、電源不足分を化石燃料石油ガス類で補っても膨大な燃料費と温暖化ガスの増加となる。
すでに全ての原発を止めた結果は、この1年間で3兆-4兆円に及ぶ浪費が発生、これを15年間続けると13兆円、20年続けば24兆円を捨てることになる。
電気代に転嫁しても、国民に相当の負担となり、産業界には国内生産品のコストアップとなり、その上一部の輸出製品で近隣国の国際競争に敗れ、大きな貿易収支の赤字を出している、わが国の「モノつくり」の壊滅に向かっている。
国民が即脱原発のシナリオを選んだことは、わが国のモノつくりの否定と縮小経済、雇用と所得低減の容認と温暖化ガス増の社会を選択したことになっている。
残念ながら、わが国の脱原発方向のシナリオは、米国では賛成されていないし、国際的にも受け入れられない施策となっている。
12年8月、国際原子力機関(IAEA)、米仏国原子力規制委員会(NRC)、一線級専門家達19名は地震と津波に耐え抜いた女川原発の詳細を調べ、安全マニュアルに追加、その成功を評価している。
ところがわが国のマスコミは大きな被害となった3・11の東日本震災の福島第一原発災害のみを取り上げ、当日同じ位置と条件にあって全く災難を克服に成功した女川原発や福島第二原発の功績をわが国のマスコミはほとんど発表していない。この外国の評価がもっと早く国内に伝わっていれば、脱原発の運動や国民の意識も変っていただろう。
原発の安全マニュアルの作成には貴重な成功事例こそ失敗事例よりメンテナンス規格に採用すべき技術資産であり、原発設備を輸出するわが国にとって重要なノウハウとなるはずである。

(平成24年12月19日日刊工業新聞掲載)

エネルギー政策への提言㊦

再生エネに地熱発電/中国へのODAは開発費に

樋口藤太郎(南関東支部)

本題に戻って具体的な提言を続けると、わが国の持つ先端技術開発を生かす政策を採れば、2030年原発稼動0%達成も夢物語ではないと信じている。
まず第1には、女川、F2、F1原発の地震に対しては、3-4倍の耐久力あり。とIAEA(国際原子力機関)などが評価しており、活断層上も心配がないと評価している。津波被害には女川、F2並の体制と安全性を装備する原則をクリアした休止原発を即刻再稼働し、また一般的な寿命と言われている40年がきたら順次に運転を停止・廃炉にする。基準を決め該当すれば、停止中の原発を見極めて再稼働しベストミックスのバランスを採り電気料金削減で経済活性化につなげ、次の将来の原発代替の技術装置の開発費に充当するためにも原発の再稼働を継続する。
次に、原発に代替するエネルギー源として有望な再生エネギーには地熱発電の活用しか存在しない。資源の少ないわが火山国の地熱資源は世界で3番目に多く恵まれている。全国の温泉地や国立公園内に18か所の小規模地熱発電所がある。これの規模を拡大するのが今のところ、脱原発につながりやすい。気候に支配される現在の太陽光発電や風力発電は安定良質の電気の大量獲得や電気代アップ、費用対効果・減価償却に難点がある。
次世代に地熱発電として期待される技術は、地球を原子炉として活用する技術である、わが国は少ししか手掛けておらず遅れているが、地下2キロ―3キロメートル位に6000度Cのマグマ層の近くまで注水して200度-300度Cの蒸気を利用して発電する高温岩体発電方式がある。
これは温泉地には関係なく地球のどこでも設置できて、例えば廃炉の原発所の跡に設置できて、しかも大規模の原発の代替エネルギーとなる可能性がある。豪州、欧州、米国で研究が進んでいる。これが成功すれば、放射能の懸念や現在の放射性廃棄物のマグマ付近への押しこみ処理も可能にならないかとも期待したい。あらに、次世代の高効率太陽光発電の地球を離れた静止衛星に設置し、365日発電気を電磁波送電、地上受電所に受ける技術開発が事件段階に入り、わが国がリードしている。現在の太陽光発電エレメントは発電率最高20%であり、夜、雨天、曇天の発電不可、この新エレメントは「量子ドット」と称し、太陽の可視光線、紫外線の全ての光線が電気に変換されて、光線エネルギーの60-80%の効率となる。およそ30年頃完成で30年の原発O%にマッチする可能性がある。また、化石燃料の活用で無駄な費用を使うより、現有する50基の原発活用で電気量費用を下げる「モノづくり」で経済の活性化を進め、新規技術開発の研究費を集中的に供給すべきである。今や世界第2の経済大国に日本からのOED(政府開発援助)資金も中国への供給を即刻中止し、わが国の新規技術の開発研究費に充当することである。

(平成25年1月9日日刊工業新聞掲載)

経営に役立つISOへ㊤

まず企業の経営理念/ISO規格は実現への手段

上田 隆一(埼玉支部)

いま、日本の経済界ではISO(国際標準化機構)規格を生かして運営している企業が数万社あると思われる。いわゆる、「ISOマネジメント」といわれる経営スタイルである。代表的な[ISO14001][1SO9001]が圧倒的に多い。これらの規格では、構築し、運用しているシステムについて、"継続的な改善"を求めている。
例えば、14001の場合では、継続的改善について、次のように定義している。「企業が決めた環境方針と整合をとって、全体的な環境に関する問題点が数値で測定できる良好な結果が出るように、企業の保有する経営資源を投入して、繰り返し行われる経営活動」。いわば、トップマネジメントが制定し、公表した経営方針に準拠して経営目標を達成することができるように経営の仕組みを絶えず改善し続けることが求められていることになる。しかも、これらのことは、14001の審査認証を得るためには必須の要求事項であるので、"適当に"やる訳にはゆかない事項である。
しかし、環境に関する実績といっても、企業の経営活動の結果の一側面である。例えば、環境のこと、品質保証のこと、情報セキュリティのことだけを切り離して経営活動をする訳にはいかないであろう。また、経営改善の対象は、企業の諸活動、全製品・サービスであり、そのために、人材、使用する機器・設備、経営の仕組みなどのノウハウを改革・改善・改良を続ける必要があり、これこそが"経営活動"そのものであるといえる。
このように考えてくると、最初に求められてくるのが、企業の在り方、存在意義、将来目標、経営理念・戦略などの設定であり、その実現のために有用な手法や仕組みを導入することが重要。それらの一つが、14001であったり、9001であったりすることになる。
同時に、14001や9001について、第三者の認証・審査・登録の実績は、ホームページ上での公表や会社案内・名刺などへの表示などパブリシティ的なブランド力になることは確かなことで、認証審査を継続してきた企業が多いのも確かであろう。
このような社会情勢では、ISO規格の認証・審査登録の件数は頭打ちで、審査機関によっては、純減が明確になっている例もあるという。そのような風潮の中で、ISO規格への「適合性の審査」に「有効性の審査」も加えて実施している審査機関は、「経営に役立つISO経営」を期待する企業群の"駆け込み寺"的な役割を果たしているともいわれている。<2回連催>

(平成25年1月16日 日刊工業新聞掲載)

経営に役立つISOへ㊦

意見交換会で問題点指摘/自社流にシステム改善

上田 隆一(埼玉支部)

ISO(国際標準化機構)経営に疑問を持ったような企業では、14001を例にすると、いつまでもEMS(環境マネジメントシステム)でもないだろう。
このままでは、14001が経営活動の目的になってはいないか。あるいは、少なくとも、経営理念の実現が目的になっていないのではないかといった疑念が生まれてきた。
そのような企業の事例をご紹介したい。
A社は製造業でISO14001を導入し認証を受けてから6年が経過し、2回の更新審査も経た。その間には14001の仕組みを活用して、5S活動、改革改善活動を展開し、ユニークな取り組み企業といえる。
しかし、トップから考えると、推進会議は「ISO委員会」、活動報告は「ISOレポート」ということで、"ISOの手のひらから抜け出せない"との思いが強く、何とかならないかと苦慮してきた。
あたかも、トップの継承を実行することにもなり、そこで、役員・幹部に集まってもらい、トップの素直な気持ちを話し、全員無礼講で意見交換をしようと呼びかけた。
役員幹部諸氏も漠然とはトップと同じような感想を持っていたことが分かり、意見交換は白熱し、行き着いたところは、「自分たちがやってきたことは、14001が求める環境マネジメントシステム(EMS)に縛られていた」、「自分たちの経営システムについて、意見も、自負もなかった」ということであった。
そして結論は、直ちに「EMS」から「AMS(A社の経営システム)」にネーミングを変更し、トップの継承に合わせて実行することになった。
14001も9001も、次回の改定時期(恐らく2015年頃か?)には、大幅な見直しが行われる模様で、その中の一つには、経営のパフォーマンスの継続的改善の現れとして、環境パフォーマンスの継続的改善が示されるような内容があるものと予測される。

(平成25年1月23日日刊工業新聞掲載)

日本の人口と経済発展㊤

少子化進めば日本人ゼロに/「人口は国力」問題認識を

森田喜芳(東京支部)

「日本人の人口が3000年にゼロになる」-。 これは数年前に小生が読んだ新聞の見出しだ。試みにインターネットでチェックをしてみたら、2008年の出生率と死亡率を基準にした人口指標によると冒頭のような結果が出ることが分かった。「子供人口の時計」というサイトを見つけたのでチェックをしてみたら、1秒ごとに日本の現在の子供の数が表示されている。(東北大学院経済学研究科)「少子化が進めば1000年後の5月5日の子供の日は来ない!」と、リアルタイムで少子化の状況が分かる子供人口統計を東北大学がサイトを作り、公表している。
また、12年の3月に総務省が発表した3月末時点の人口動態調査によると日本人の総人口は前年同月比に比べて26万3727人減少した。3年連続で前年を下回り、過去最大の減少率となった。少子高齢化の進展で死亡数が出生数を上回る人口の自然現象が初めて20万人を突破したと報告されている。当然この現象は労働人口の減少にもつながっている。
「人口は国力だ」。小生が初めてこのことを聞いたときはあんまりピンとこなかった。小生の記憶では17歳の時に世界史の先生からこの言葉を聞かされたときには深く理解もせずにいた。小生はその後、自動車製造会社で働いていたが、今から37年前に自動車および自動車関連部品メーカーの海外進出の必要性に迫られて、当時の小生は海外調達のアジア担当をしていた関係でアジアのどこかの拠点に部品製造業の会社の進出計画を企画していた。
進出計画書の作成にあたり、小生はインドネシア、マレーシア、タイなどの国々を約1ヶ月間単独で出張視察して、いずれかの国に申請計画を策定する必要に迫られていた。その企画書の作成にあたって最終的にどの国に進出するかというポイントは、上記の「人口は国力だ」が決め手となり、当時インドネシアに電装部品5社との合弁会社を設立した。
 以上のような経験から、今後は人口の多い国が世界の大国になっているのだろうということを小生は37年前に感じ取った。現在振り返ってみると、当時の判断は間違っていなかったと言える。ちなみに日本の労働力人口という15歳以上の人口は、厚生労働省の推計によれば今後05年(平成17年)の6770万人をピークに減り始めて、2025年には6300万人になると予測されている。
また、年齢構成からいえば若年層の労働力が減少して60歳以上の労働力が増加していくという労働力人口にも高齢化が予測されている。このような現実に対して、今後日本はどのような政策をとっていくのであろうか。日本として、日本経済にとって、大変深刻な問題であると小生は認識している。(3回連催)

(平成25年1月30日 日刊工業新聞掲載)

日本の人口と経済発展㊥

アメリカ人口右肩上がり/里子受け入れ学ぶ点も

森田喜芳(東京支部)

先進国の中では、日本の人口は今後減少の一途をたどるが、一方でアメリカは常に増加傾向である。アメリカの人口は、現在世界第3位で今世紀中は右肩上がりである。
中国は2025年、インドが2060年にピークを迎えるのに対して、アメリカは先進国でありながら、常に増加し続ける推計となっている。メキシコを中心としたラテン・ヒスパニックの移民、さらにそのヒスパニックの人たちは出生率2・0を大きく超えるため(2.7から3.0近くで推移)全体の出生率を大きく引き上げている。
そのため、アメリカの人口は、10年に3億1038万人から、40年には3億8346万人になると予想されている。以上のような経過からアメリカでは、移民と高い出生率により毎年人口が増加している。
そのほか他国から里子として子供を受け入れているケースも多い。小生の知っている例では、以前小生が働いていたアメリカのオハイオ州で同じ会社に勤めていたオフィスの初婚の女性は、結婚が2度目の男性と一緒になった。
その女性はすでに高齢で子どもが生まれる年齢を越えていたために、2人で相談した結果、ロシアから白人の子供を里子として迎えることになった。詳しいことは定かではないが、アメリカでは里子を受け入れる団体などがありその組織を通じて里子をもらいに夫婦でロシアまで行ってきた。里子を迎え入れて里親となったその夫婦は大変ハッピーであると言っていた。
別のケースでは、小生の次男の高校の男子同級生は、やはりアメリカ国内で里子として白人の家庭に3番目の子供として自分たちの子供と同じ扱いをして全く差別なしに育てられていた。上の2人と里子の本人は同じ白人であるが、背の高さ、顔つき、髪の毛の色、などは全く似ていなかった。
3人の子供たちは、本人たちもその事実を充分承知の上で一緒に生活をしていた。余談ではあるが小生の次男の同級生は大学を卒業した後、2度にわたり1週間から10日間、日本の我が家に遊びに来ていた。
以上のように、アメリカの各家庭で経済状態が許されれば里子として子供を迎え入れて、一人前の教育も施し立派に育て上げる人たちが多いということを小生のアメリカ滞在で感じたことであり、その点は日本とかなりその考え方や生き方など、人生観に大きく違う点を感じさせられた。小生は、自分自身を含めていつか日本もそのような社会に早くなってくれると事を願っている。

((平成25年2月6日 日刊工業新聞掲載)

日本の人口と経済発展㊦

女性の出産・就業支援/保育施設の充実急げ

森田喜芳(東京支部)

日本は、戦後の繁栄と成長は働き手の増加に支えられてきた。国民の稼ぎが全体で大きく伸び、税収をぐんぐん増やした。社会保障や地方への資金配分を思い切って変えたのはそうした好条件があってこそだと言える。現在はその前提が一変しつつある。
富を生み出す働き手は減り、首都圏では高齢者人口が今後30年で5割増え、日本を支えるゆとりを失う恐れがある。
にもかかわらず、社会保障や国と地方のあり方をめぐる政治の議論ばかりで一向に前進しない。
社会の工夫で人口減少を防ぐために可能にする施策が必要である。出来ることの第一は、なぜアメリカのように日本は移民政策をとらないのだろう?またそれらの答え以前に議論をしている話を聞いたことはない。まったく不思議な現象である。
第二は出生率を上げる政策であり、出産後の施設、小規模な家庭保育など多様な形の保育に資源を投入する。現実にアメリカの育児では24時間子供を預けることが可能であり女性が交代制勤務をしながら夫婦で協力して育児をしているのが現状である。
すなわち保育施設を充実して女性の出産と就業継続ができる環境づくりが必要である。女性のキャリアと出産の両立を可能にする国の資源の投入と施策を早急に実施することが必要である。
現実的には保育所に入れない待機児童の解消に向けて保育所の増設が進み、都市部では保育所の確保が困難になっている。同様に人材確保も難しく、5年後には7万4000人の保育士が不足する見通しであるとも伝えられている。
一方で、外国人の介護福祉士候補は試験に合格せずやむなく滞在期限を迎えたために帰国する。経験を積んだ外国人候補者の3人に2人が帰国するのはもったいない。受入れをさらに増やすとともに定着への支援が必要である。
それでも最近は外国人用の試験にはルビをふったり、分かりやすい言葉にし、さらに試験時間も50%ほど延長するという報道も伝えられている。もっともっと合格率が高まるような施策をすべきである。
少々状況は違うものの、米国での免許証取得に外国人はその母国語で筆記試験を受けることができる。これらは安全面などで異論があると思うができるだけ合格させるような施策の一つである。
移民が受け入れられないという現状では、介護福祉士等できるだけ外国人の働ける場所を提供できるようにならないのだろうか?
現在の議論は今後ますます増えていく高齢者対策の年金や医療保険などに集中しており、人口の増加、労働人口の減少を防ぐ政策など、早急に前向きの議論と実施が望まれる。

(平成25年2月13日 日刊工業新聞掲載)

「女性力」を活かし企業活性を図る選択と創造

商品開発で「女性脳」活躍/適材適所の人員配置に

島影教子(東京支部)

近年、大いに注目されているテーマのひとつに「女性力」が挙げられる。女性労働力は再就職支援強化、育児制度の見直しなどさまざまな取り組みが整備され改善傾向にある。また、最近は働きたくても働けないならばいっそ自分で会社を起こせばいいという女性が増えている。
2013年1月に埼玉スーパーアリーナで行われた国内最大級のビジネスマッチングイベント「彩の国ビジネスアリーナ2013」では「ウーマノミクスフェア」が同時開催されていたが、ここには70件以上の女性起業家関連のブースが出店されていた。
埼玉県産業労働部にはウーマノミクス課というものが存在し、これをさいたま市と埼玉県産業振興公社が特別協賛して今回のフェアが実現されている。ウーマノミクスプロジェクトは「女性が自己実現をしていきいきと輝く社会」をつくるためにさまざまな取り組みを支援しているのだが、今回の出展企業から見えてくるものはいずれも「女性力」を活かした無理をしないスタンスの会社が多いことだ。
職種は育児、介護、マッサージ、美容、食品販売が目立つ。ご存知のように、物の購買や消費の決定権は多くの場合女性にあり、男性よりも斬新なアイデイアを出すのも女性である。無理をせずに身の丈で満足するのも女性ならではの特徴がある。
もともと思考は「男性脳」と「女性脳」に大きく分かれる。別の言い方ならば「右脳」と「左脳」に分けてよい。商品開発には「女性力」を活かした「女性脳」が活躍する。もちろん性別でなく男性でも「女性脳」の持ち主は存在するし、またその逆もある。ドラッカーはこれを「プレフェッショナルの条件」の中で「読む人間」と「聞く人間」と表現している。
人員配置にこの「男性脳」と「女性脳」を理解して適材適所の人員配置に役に立てればより強固な組織造りができるはずである。手前味噌だが今年2年目になる「NJK」(日本経営士会女性部会)の3月シンポジュームでは、筆者がこのテーマで講話を予定している。選択と創造力のある人材の活かし方と人材育成をご一緒に考えて頂く時間を共有できれば幸いと思う。

(平成25年2月20日 日刊工業新聞掲載) 

中小の海外進出支援㊤

「空洞化」から「後押し」へ/現地での資金調達可能に

上地弘恭(近畿支部)

政府が行なう中小企業支援策のひとつに「海外進出支援」がある。この分野についての制度が昨年あたりから充実してきた。まだ一般的に知られていない制度も多いため、これから3回に亘って解説したい。以前の中小企業支援策に対する予算配分は、製造業を中心として国内の活動に限られるものが多かった。これはひとつに、海外へ出ていく会社が増えると「国内産業の空洞化」につながるとされてきたからである。政府が税金を使って中小企業を支援する目的として「国内雇用の拡大」「設備投資の拡大」等が挙げられるが、以前はこうした目的が「海外進出」によって妨げられると考えられていた。ところが実際に製造業の「国内従業者数」を追跡調査したところ、国内拠点だけにとどまった企業の「国内従業者数」は横ばいで推移していたが、海外拠点を持った企業の「国内従業者数」は増加傾向にあった。出所「中小企業白書2010年 直接投資を開始企業の国内従業者数」こうしたデータなどからも、中小企業の海外進出を「後押し」することが、国内法人の雇用や設備投資を促すために有効であることが次第に明らかになってきたと言える。
政府では以前から海外資金のための低利融資制度を設けている。これは海外子会社の資本金や、海外での設備投資に必要となる資金を貸付ける制度であるが、この制度による貸出残高も年々増加傾向にある。そこで政府は昨年8月「中小企業経営力強化法」を施行して、更なる海外進出を「後押し」する制度を盛り込んだ。具体的には、政府系金融機関による海外子会社に対するスタンドバイ・クレジットの利用が可能となったことだ。この制度を利用するには国の事業計画の認定が必要とされるが、これまで政府系金融機関では、国内法人(親会社)が借入れを行ない海外子会社に貸付ける「親子ローン」でしか海外の資金需要に応じることが出来なかった。今回のスタンドバイ・クレジットでは、海外の提携金融機関に政府系金融機関が信用状を発行するため限られた国でしか利用出来ないが、今後アジアを中心に現地の提携金融機関を増やして海外子会社の現地調達を後押しする方針だ。こうした制度を利用するためには事業計画の提出を求められるが、注意したい点は国内法人の雇用拡大や設備投資または利益増加が見込まれる計画でなければならない。海外進出を支援する国の目的は、あくまで「国内産業の活性化」にあるためである。

(平成25年2月27日 日刊工業新聞掲載)

中小の海外進出支援㊥

海外の金融機関に信用状/法改正で資金調達促進

上地弘恭(近畿支部)

前回は政府が行なう海外展開施策の背景について説明した。今回は政府が整備している「低利融資制度」について述べたい。日本政策金融公庫では主に製造業に対し、海外の子会社設立や製造拠点などの設備投資のために必要となる資金を融資している。発表によると、2011年度は675件、総額395億円の利用実績があり、前年度と比較すると約3倍に伸びていた。
この制度では、海外で必要となる資金をいったん国内の親会社に貸し付けるもので、親会社は借りた資金を子会社設立の「資本金」として出資金に充てることもできれば、海外子会社への「貸付金」として転貸することもできる。
どちらにしても、借りた資金は最終的に海外送金するため、必要な資金は海外送金する前に融資を受けることが必要だ。日本国内での調達金利はアジア新興国と比べると低水準で推移しており金利面でのメリットが大きい反面、返済計画で為替変動を考慮する必要がある。また親会社でも子会社資金の借り入れ(親子ローン)は、借入総額が膨らむため限界がある。そこで政府は12年8月に法律を改正し、日本政策金融公庫では海外子会社の現地調達を促す「スタンドバイ・クレジット制度」の取扱いを始めた。
これは日本政策金融公庫が提携している海外の金融機関に対して信用状を発行するもので、海外子会社の現地通貨建ての資金調達を支援する制度である。13年2月時点での提携先はタイのバンコック銀行に限られているが順次アジアを中心に提携先を拡大させる方針となっている。「スタンドバイ・クレジット制度」利用要件のひとつに「経営革新計画の承認」がある。これは新たな取組みを行う事業計画を国が承認する制度で1999年に始められた。もともと「国内」における新たな取り組みを想定していたが、12年8月の法改正により「海外」の取り組みに対しても認められることとなった。
自社の海外進出計画を「新たな取組み」として国からの承認を得ることで「スタンドバイ・クレジット制度」の利用要件が整う。更に保証協会の利用枠が引き上げられる措置も整備された。海外へ進出する際は、事業性調査や金融機関への相談など、事業計画の策定が必須となる。そうした事業計画をベースにして、事前に国からの承認を得ておくことが、低利融資活用において有効であると言える。

(平成25年3月6日 日刊工業新聞掲載)

中小の海外進出支援㊦

海外展開の補助金制度/ステージ毎に活用を

上地弘恭(近畿支部)

前回は政府が行なう海外展開のための低利融資制度について説明した。今回は政府が整備している「補助金制度」について述べたい。2012年あたりから海外展開を後押しするための新たな制度が増加しており、ここでは製造業を例として海外進出ステージ毎に利用できそうなものをピックアップしてみた。
【計画策定ステージ】
 海外進出の計画策定にあたっては現地訪問による情報収集が欠かせない。生産拠点設立のための視察、販売先開拓のための市場調査等にも費用が必要となってくる。こうした「F/S(フィージビリティ・スタディ)事業可能性調査」のための補助制度が中小機構で昨年より始まっており、費用の補助だけではなく専門家によるアドバイスも行なっている。
【事業開始ステージ】
 海外で行われる展示会に出展するにあたって、中小機構とジェトロでは、出展費用の一部を補助する制度を設けている。販路拡大のために出展計画があれば利用したい制度だ。この制度でも単に費用の補助だけではなく、出品物の輸送・通関業務や、商談資料の翻訳、通訳の手配など様々な問題も相談することで支援を得ることができる。
【事業拡大ステージ】
 現地での次のステージとして社員教育が重要となってくる。現地の技術レベルを上げるためには、現地での指導だけではなく日本国内での実地研修を行いたいと考える企業も多い。そうした現地技術者の受入研修に必要な費用を補助する制度をHIDAでは実施している。更にHIDAでは研修査証のための身元保証やHIDAの研修施設による日本語等の導入研修など、実地研修を行うに当たっての様々な支援を得ることができる。
 こうした補助金制度は、毎年4月頃に期間限定で公募されるものが多く情報収集が欠かせないが、中小企業庁では昨年11月に「中小企業海外展開支援施策集」として小冊子にまとめた。同庁ホームページからも入手できるので、一度は目を通し必要であれば事前に関係機関へ問合せしておきたい。
政府では昨年8月に企業財務に関する専門知識等を有する専門家を「経営革新等支援機関」として認定する制度を開始した。政府の支援策活用に不可欠なものが「事業計画書」であるが、こうした「認定支援機関」の支援を受けて自社の事業計画をしっかり立てることも支援策活用には有効であると言える。是非、しっかりと自社の事業計画を策定して様々な支援策を活用し海外展開を成功して頂きたい。

(平成25年3月13日 日刊工業新聞掲載) 

流通コストと流通業の存在意義

スーパーでは流通が機能/ネット時代価値問われる

石倉 憲治(東京支部)

「流通コスト」と言う言葉をご存知だろうか?「流通コスト」とは商品の流通に必要となる費用のことで、一般的には製造卸価格(製造者の出荷価格)と最終消費者に販売する価格(店頭価格)の差額を言う。すなわち卸売業者と小売業者の合わせた稼ぎ(粗利益)のことである。
通常、食品の場合、量販するための流通コストは販売価格の45%~50%を要する。
例えば流通コストが45%として、製造業者が100円の製品を流通経路に乗せる場合、店頭の販売価格は100円÷(1-0.45)=182円となる。製造業者が原材料を調達し製造加工をして、その品質保証もして、そして自社の利益も含めて出した価格と、同じほどの金額を流通業者が得ることに対して抵抗感を持つ生産製造者の方は多い。
現在、私は特産品の販路開拓及び製品開発のお手伝いもしているが、地元の生産製造者の方はこの「流通コスト」を理解しなく納得されない方が多い。だから、道の駅等の直売所の販売が中心となってしまう。この場合、通常、販売価格の10%~20%が流通コスト(直売所の取り分)なのでこの程度なら納得はされるのである。だから量産、量販は不可能となる。
食品スーパーは全国の生産製造者から、顧客の望む1万アイテム以上の商品を適切な時期に、適切な量を顧客に一番近いところで提供をしている。この機能の価値が流通コストとして市場は認めているのである。すなわちマーケティング機能が価格として反映している。
フィリップ・コトラーは「マーケティングとはニーズとウォントを満たすための交換プロセス」だと定義した。彼の国であるアメリカはマーケティングを発展させてきた国で、マーケットインの思想を世界に植え付けた。そしてマーケターの存在価値を高く認めている。しかし、現在、ネット通販等が台頭して、顧客は生産製造者とダイレクトに結びつくようになってきた。従来のような流通コストをかけずに商品が入手できる(流通される)ようになってきた。まさに今、流通業の存在意義が問われているのだと思う。

(平成25年3月27日 日刊工業新聞掲載)

元気いっぱいのモノづくり

みんなが主役の活動で意識改革/熱い志で実践を

岡崎 充男(東北支部)

グローバルな展開で企業経営環境が激変する中において、気持まで落ち込まないよう明確な「志」(ビジョン・旗印)を掲げ、常識にとらわれない根底からの「意識改革」と魂のこもった「哲学」が今こそ必要になっています。
企業支援においては、従業員全員が主体的かつ意欲的に活動できることに重きを置いて取り組んでいます。トップを先頭にして、志を持って改善・改革活動を進めていく中で自ずと意識は大きく変わってきます。蓄えた力が大きいほど改善の仕組みが力強く動き出して実をつけていくことになります。(格納庫で整備された飛行機が飛行場に出て一気に飛び立つのに似ています。)合わせて「感謝の心に根ざした哲学」が全体を支える上でとても重要な基盤になってきます。
工場に入った時に従業員の皆さんによく声掛けをします。「みんなが主役だ、脇役はいない」。一人ひとりが活性化され、良いところをどんどん伸ばして明るく元気になる活動を踏まえて改善・改革活動は進んでいきます。
心の扉を開けなければ熱い気持ちも伝わらないため、[相互理解→相互信頼]を意識して現場でコミュニケーションをとりながら改善を進めていくことが重要になります。
意思疎通、実践、達成感の積み重ねで信頼感は着実に深まります。
改善意欲に燃える集団では、対話の中で熱い情熱が炭火が移るように伝わっていきます。多くの人の無尽蔵のアイデアが渦巻いてくると、その相乗効果は異常な力を発揮して成果を生み出し「意識改革」が定着していきます。
「他に負けない圧倒的な強みと、お客様のニーズをとらえてのスピーディな動き、そして人づくりとグローバル対応」に取り組んで必死で汗してがんばっている企業が勝ち残っていきます。このような力・エネルギーが日本の製造業の底辺をしっかりと支えています。
目先の動きに一喜一憂することなく、腰をすえて「将来を長いものさしで見据えながら(長期視点)、腕(技術)に磨きをかけ、力の入れどころを誤らず(決断)、お客様に必要とされる企業」であり続けるよう、熱い志をともし続けながら実践していくことが大切です。
《元気いっぱいのモノづくり》は今日も、これからも進化を続けていきます。

(平成25年4月4日 日刊工業新聞掲載)

円滑化法終了後の金融機関の対応

軟着地へ支援継続/問われる企業の経営改善結果

岡部勝成(九州支部)

中小企業金融円滑化法(以下円滑化法という)終了後の金融機関の対応が世論の的になっている。金融庁はソフトランディング(軟着陸)のため実質的延長を視野に入れた姿勢で各金融機関には指導を行っている。実際、2013年2月15日、福岡市の福岡財務支局において金融庁の畑中龍太郎長官は「円滑化法終了後も対応は変わらない」と強調。具体的には金融検査マニュアルや主要行・地域金融機関向け監督指針を改正し、貸付条件の変更に対応する努力規定を明文化するなど準備に余念がない。
そもそも円滑化法は、前政権である民主党主導によるリーマン・ショック対策の緊急措置として09年12月に施行され、東日本大震災などの影響により二度延長された経緯がある。すでに、円滑化法を活用した貸付条件変更の利用企業数は30万~40万社に上ると言われている。
とりわけ、企業は条件変更の後、1年以内に経営改善計画を金融機関に提出する義務を負っている。これは中小企業の倒産抑止や資金繰りの円滑化など一定の評価がある。一方、モラルハザード(倫理の欠如)の助長といった批判もあることも忘れてはならない。ここで、金融機関の動向をみると13年3月15日、『日本経新新聞』によると中小企業の倒産に備え、貸倒引当金の積み増しを行っていると報じられている。
以前、社会問題化した「貸し渋り」や「貸し剥がし」を起こさないよう自己資本比率の減少を防ぐべく、貸倒引当金の増額については、自己資本項目に算入することができ、その反面、劣後債や劣後ローンは自己資本項目から控除されるという施策を講じることも公表されている。東京商工リサーチによると企業の倒産件数は09年度以降減少基調で推移しているのも事実であり、12年度に至っては月ベースで、1,000件を下回っている月が7回あった。
これはすでに述べた中小企業の倒産抑止の現れであろう。現在、にわかに脚光を浴びているのが、「企業再生ファンド」の台頭だ。企業再生ファンドは経営難の企業の債権や株式を金融機関などから買い取り、経営に深く関与して事業を立て直し、株式の売却益や配当収入を狙うというものである。
5%ルールと言って、銀行は規制により,事業会社の発行済み株式の5%までしか保有できないが、ファンドはその規制を受けず全株式を取得することができ、経営の意思決定にまで深く関与することができるのが強みである。とりわけ、金融庁がファンド設立を促進していることもあるため、今後動向には注視することが肝要であろう。最後に,企業に対する「目利き」と言われて久しい。正に円滑化法は3年間という猶予期間を経て、その経営改善の結果が問われている。

(平成25年4月11日 日刊工業新聞掲載)

イノベーションを起こす人材の役割 ㊤

研究開発部門の改革支援/「変われない」事例多く

渡辺智宏(南関東支部)

安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」が始まり、景気回復の動きが見られるようになってきた。今後、さらなる景気拡大を期待したい。
そのような中で、これまで日本経済を支えてきた製造業、特に電機業界は凋落の一途をたどっているように見える。原因はさまざま考えられるが、その中の一つに「変われない」ということがあるように感じる。
過去に一世を風靡すると、その成功体験が災いし、成功した時の考え方・やり方から変えられず、時代の変化の中で淘汰されてしまうという現象である。本連載ではこの点に着目し、物事を大きく変えるという意味を持つイノベーションの創出に必要な人材の役割について述べてみたい。
私は主に、製造業のR&D部門の業務改革を支援することが多い。その中で、企業の歴史やしがらみによって改革が進まないケースを多く目にする。儲からず撤退したほうがよいのは分かっているが、先人達の功績や社員の大規模なリストラが様々な理由で断行できずに仕方なく継続している事業、各部門の都合が折り合わず、なかなか進まない製品開発などいろいろだ。
例えば、開発部門は新興国市場を狙う上でコストを劇的に下げるため、機能や品質基準を見直し、現地サプライヤーの安い部材を活用したいと考えているが、品質保証部門では「前例がなく、基準を下げて何か問題が起きると真っ先に対応しなければならないのは我々だ」といった押し問答で開発が進まないといった具合だ。このような中で、イノベーションを起こし、革新的な製品・サービスを世の中に送り出すためには誰が何を行っていけばよいのだろうか。
この革新的な物事を世の中に出す(イノベーションを創出する)ための人材とその役割について述べていく上で、まずイノベーションという言葉の定義をしたい。イノベーションという言葉は曖昧性が強いからだ。本連載においてはイノベーションを「事業目標を達成する上で、問題・課題となるモノ、事柄を変え続け、目標を達成すること」と定義する。モノとはビジネスモデルや技術、製品・サービス、事柄とは業務内容や推進方法などを指す。
この定義に基づき、次回 はイノベーション創出のために必要な3つの視点について述べていきたい。

(平成25年4月18日 日刊工業新聞掲載)

イノベーションを起こす人材の役割 ㊥

危機感・ビジョン・実行力/3視点+支援者得て推進

渡辺智宏(南関東支部)

前回は変われない企業の事例とイノベーションの定義を述べた。今回はイノベーションに必要な3つの視点について述べる。
三つの視点とは①将来の危機感、②ビジョン、③イノベーションの実行力である。
一つ目は将来の危機感。今のままでよいという雰囲気の組織ではイノベーションは起きない。変わるきっかけには危機感の醸成が必要だ。
危機感醸成には内外環境の認識が必要だ。業界の展望や顧客・競合動向、技術変遷、自社の収益傾向などの情報を収集・共有し、そこから将来への懸念を定期的に議論し、危機感を醸成させる。
危機感醸成でもう一つ必要なのがイノベーション対象(変える対象)の知見習得だ。不十分な知見では自社のレベルも正確に把握できず、変える必要性に気づきにくい。
二つ目の視点はビジョン。危機感が醸成されても変わる筋道が見えなければ皆不安になるだけだ。
ビジョンはイノベーション活動の道標であり、魅力的な将来像を示し、皆を動かす原動力としなければならない。ビジョンを描く上でもイノベーション対象の知見が必要だが、それに加えて伝え方も重要になる。
三つ目の視点はイノベーションの実行力。ビジョンだけで実行が伴わなければ何も変わらない。効率的な実行にはイノベーション対象の知見と、変わりたいという信念が必要だ。
実行力には活動の推進者だけでなく、推進者の支援側の役割・スタンスも大きく関わる。円滑な活動に向けた推進者への投資や権限付与、難局打開に向けた支援、勇敢な活動への評価など支援者の役割は重要だ。
革新的な活動が周囲の支援を得られず、逆に阻害され頓挫する例は多い。既得権益の保持、失敗の責任や部門間の利害調整回避などが主な原因だ。イノベーションの成否には支援者の役割が強く影響する。
また実行力の別要素として周囲への浸透がある。イノベーションで生み出された物事は、現代では当たり前の存在になっている。電気、自動車、インターネットなど後世の人達が存在に疑問を感じないほど当たり前になった物事は、昔イノベーションで生まれ世の中に浸透したのである。この浸透を組織的に図ることが重要だ。
次回はイノベーション創出のための人材の役割について述べる。

(平成25年4月25日 日刊工業新聞掲載)

イノベーションを起こす人材の役割㊦

先導・推進・支援3役連携/互いに歩み寄る努力重要

渡辺智宏(南関東支部)

前回はイノベーション創出に必要な三つの視点を述べた。今回はこれに必要な人材の役割を述べる。イノベーション創出には先導者、推進者、支援者の三つの役割が必要だ。
一つ目は先導者。イノベーション活動をリードする役割だ。才能に溢れ、将来への強い危機感を持ち、ビジョンを掲げ、周囲に変革の必要性を訴え、活動を引っ張っていく。
二つ目は推進者。先導者から変わる必要性を訴え、活動を引っ張っていく。支援者。活動を権限や責任、資産(予算)などを使って後方支援する役割だ。
一般的に、先導者は内発的動機が強く、現状の課題に前向きで貪欲に執着して対抗する傾向がある。また非常識で生意気、周りの空気を読まないタイプが多い。推進者、支援者は現状の疑問を我慢・傍観し、既存の延長線上で物事を考える傾向がある。常識的で謙虚、周りの空気を読む協調的なタイプが多い。
この三役の連携が必要で、先導者が不在ではイノベーションは起きないし、いたとしても周りが非協力的ならば失敗する。
実は先導者が支援者から活動を阻害される事例は多い。主な原因には支援者の過去の功績や環境などが考えられる。活動支援に必要な地位や権力、資産などは年配者が保有することが多い。彼らは先導者より前の時代に活躍し、地位や既得権益などを確立した。その産物がイノベーションで壊されるのであれば活動に否定的になる。また、今のまま過ぎ去れるのであれば苦労して変わりたくないという心理もはたらく。この心理には授かり効果と損失回避の二つが影響するといわれている。授かり効果とは自分が所有するものを高く評価し、手放したくない傾向。損失回避とは不確実性がある時、ある価値のものを得る喜びよりも失う悲しみを強く感じる傾向だ。
この解決に向けて、三役が互いに歩み寄る努力が重要だ。先導者や推進者は支援者に対して日常業務などで実績を示し、良好なコミュニケーションを取り、交渉力を身につける。支援者は先導者の非常識で理解しがたい提案にも理解と許容を示し、存在を認めることが必要だ。
3回にわたりイノベーション創出を人材の観点から述べてきた。本連載が何かの参考になれば幸いである。

(平成25年5月2日 日刊工業新聞掲載)

販路開拓支援の本質

スーパーでは流通が機能/ネット時代価値問われる

石倉 憲治(東京支部)

「流通コスト」と言う言葉をご存知だろうか?「流通コスト」とは商品の流通に必要となる費用のことで、一般的には製造卸価格(製造者の出荷価格)と最終消費者に販売する価格(店頭価格)の差額を言う。すなわち卸売業者と小売業者の合わせた稼ぎ(粗利益)のことである。
通常、食品の場合、量販するための流通コストは販売価格の45%~50%を要する。
例えば流通コストが45%として、製造業者が100円の製品を流通経路に乗せる場合、店頭の販売価格は100円÷(1-0.45)=182円となる。製造業者が原材料を調達し製造加工をして、その品質保証もして、そして自社の利益も含めて出した価格と、同じほどの金額を流通業者が得ることに対して抵抗感を持つ生産製造者の方は多い。
現在、私は特産品の販路開拓及び製品開発のお手伝いもしているが、地元の生産製造者の方はこの「流通コスト」を理解しなく納得されない方が多い。だから、道の駅等の直売所の販売が中心となってしまう。この場合、通常、販売価格の10%~20%が流通コスト(直売所の取り分)なのでこの程度なら納得はされるのである。だから量産、量販は不可能となる。
食品スーパーは全国の生産製造者から、顧客の望む1万アイテム以上の商品を適切な時期に、適切な量を顧客に一番近いところで提供をしている。この機能の価値が流通コストとして市場は認めているのである。すなわちマーケティング機能が価格として反映している。
フィリップ・コトラーは「マーケティングとはニーズとウォントを満たすための交換プロセス」だと定義した。彼の国であるアメリカはマーケティングを発展させてきた国で、マーケットインの思想を世界に植え付けた。そしてマーケターの存在価値を高く認めている。しかし、現在、ネット通販等が台頭して、顧客は生産製造者とダイレクトに結びつくようになってきた。従来のような流通コストをかけずに商品が入手できる(流通される)ようになってきた。まさに今、流通業の存在意義が問われているのだと思う。

(平成25年3月27日 日刊工業新聞掲載)

計量法・単位記号の尊重を

正しい表記は国の基本/「単位」直立体「量」斜体に

塚本 裕宥(北関東支部)

 たかが単位、されど単位という学術的、科学的、技術的な提言をする。身近な事例から示す。日頃散歩する県道に「風神山自然公園→1Km」の表示がある。これを1「キロメートル」と多くの人は読むだろう。
私は企業での単位表記のご意見番の経験から、計量法により学術的、科学的にはそう読まず、1「ケルビンメートルやケーメートル」と読む。計量法に反する表記ともいえる。
 正しい表記は1km、kを小文字、直立体で書く。科学立国、技術立国を目指す日本なら、単位やその表記は計量法に則り、正しく表記したい。正しい単位表記は国の基本といえる。
 大手の製薬会社やPC・AV機器会社の新聞広告に、単位記号を斜体表記してあった。計量法に無知な表記、日本を先導するこれら会社は、単位記号の正しい表記を知らぬ様子、残念である。大手製薬会社消費者窓口にμmの表記につき、電話連絡したが指摘を理解できぬ様子だった。
単位表記を理解不足の人達を相手にしても無意味、問うのをやめた。PC・AV会社の例は斜体の単位記号と記憶している。単位記号の軽視は企業等の科学的、学術的力量の劣化と思える。
 誤りを的確に理解して対応した、最近の別の事例を紹介する。
 ある検定所の啓発用資料、単位記号の接頭語、「μ マイクロ」と表記してあった。これの正しい表記は「µ マイクロ」、μではミューだ。
 計量法では、単位記号は直立体、量記号は斜体で表記する決まりである。
 これは科学(文献)、技術(文献)に関わる者には常識のはず。きつい言い方だが、これを知らない科学や技術に関わる方々は、学び直して欲しい。
最近は質量の時代のはず、重量表記も目立つ。これも気になる。
道路標識のKm、PC等のKB、長さのμmについては、km、kB、µmに修正したい。
気圧のhPaへの表記変更は関係者の努力で正せた。道路標識の「Km」、国交省等関係
者は、正しく「km」と表記すべく、標識表記に関わる方々(看板製作者を含む)まで、
指示を徹底して欲しい。

(平成25年5月16日 日刊工業新聞掲載)

私のコンサルティングプロセス

管理サイクル回し計画策定/経費削減努力に全力

石倉憲治(東京支部)

私のコンサルティングプロセスを紹介する。プロセスだから管理サイクル(PDS)を回す。「経営分析・診断」→「改革の方向付け」→「中期経営計画」→「計画周知徹底」→「実践」→「検証」の流れ。紙幅の関係で要諦を述べる。
「経営分析・診断」はまず、決算書のB/S(貸借対照表)とP/L(損益計算書)に基づきCF(キャッシュフロー)計算書を作成。中小企業経営の最大の課題はやはり資金繰りだ。手元流動性資金をいかに潤沢に確保できるか。CFの動きは特に正確に把握する必要がある。また、決算書(=申告ベース)のB/SとP/Lから実態ベースでのB/S(=時価B/S)とP/L(=実態P/L)を作成する必要もある。これはデューデリと呼ばれるような厳密な内容を求めるものではない。
資産価値のない科目(電話債券、前払費用など)を償却する。土地を路線価に基づき再評価をする。法定どおりの減価償却費を計上する。水増しのない正確な棚卸資産計上をする、などを行い、時価B/Sと実態P/Lを作成する。
中小企業の多くの決算書は調整されている(悪く言えば粉飾)と言われるため、次のステップ「改革の方向付け」を誤らないためにも必要な作業だ。このように作成したCF計算書、時価B/S、実態P/Lに基づき収益性、生産性、安全性等を分析・診断する。次に「改革の方向付け」だ。経営改革の基本スタンスは「売上高を現状確保し経費削減で対応する」とする。すなわち売上高向上の無理な努力より、それは維持しつつ経費の削減努力に全力を挙げるという考えだ。
ただ縮小均衡に陥らないよう常に心掛けなくてはならない。「改革の方向付け」の要諦は最終利益を明確にすることである。目標とする手元流動性資金額から現在保有額を差引いた金額と、有利子負債削減目標額の1年分返済額とを加え必要なCFを計算。さらに非資金取引である減価償却予定額を引き算して最終利益を算出する。
「次年度経営計画」は「改革の方向付け」で明確にした最終利益から、営業利益、売上総利益へと遡って立案する。売上高は現状維持なのだから売上原価及び販管費をいかに削減するかにかかる。勘定科目毎に現実的な削減案を考える。このようなプロセスを踏むと自ずと具体策が出てくる。そして「中期経営計画」の立案と進む。
経営者は中期経営計画の最終年、すなわち改革完了の経営数値を見てその数値になった自社に思いを馳せ「優良企業へ脱皮するこの経営改革はやり遂げねば!」と決意。プロコンはその演出家で全面的なサポーターとして存在する。主役は経営者だということは言を俟たない。

(平成25年5月30日 日刊工業新聞掲載)

「アベノミクス」は火点け役、頑張れニッポン㊤

枯れきった世の中に期待感/企業戦略見直しの転機

小島和久(東京支部)

アベノミクスに対する世論の評価は高い。半年前までの円高、株安が円安、株高に転換し、世の中の雰囲気は格段に良くなった。そこで経営者にとってアベノミクスがどうなるかは長期の企業経営を考える上で、重要な前提条件となる。アベノミクスが功を奏して日本経済がデフレと長い景気の停滞から脱却するのであれば、それに適応した企業戦略を立て直さなくてはならない。
しかし、アベノミクスに関しては専門家の間でさえ賛否両論が平行線を辿る。ところで、昨年末以降の円安・株高の動きを考えると、アベノミクスの効果は大きいが、必ずしもそれのみで実現しているのではないように思える。複数の好条件が重なる、正に絶妙なタイミングで出現しているのである。
為替については、2007年6月の1ドル=124円から11年10月の1ドル=77円へと4割も円高・ドル安になり、12年末にかけては(円高=ドル安の)底入れの兆しさえ見せていた。円高行き過ぎ論も強まる状況にあった。
また、安倍首相誕生前の日本の株価は売られに売られ、もうこれ以上売る人も少なくなっていた。出来高も細り、株価はまさに陰の極にあった。そんな時は逆に、きっかけさえあれば、安くなり過ぎた株価に火がつきやすいのである。
こうした状況の時に安倍首相が登場し、積極経済政策を主張したのである。
金融をこれまでと異次元の規模で緩和するという期待感がきっかけとなり、過度の円高から底入れしかけていた為替は円安に転じ、陰の極にあった株価は上昇し、枯れきっていた世の中の期待感に火がついた。
このようにアベノミクスに刺激され、まず為替と株価が動き出したが、これは円高と株安の行き過ぎによる反動もあり、行き過ぎ分は修正されやすい。
しかし、今後2年間で2%の物価上昇やデフレ脱却などを目指すアベノミクスは、政策が進みその効果が表れる筈の1、2年先でないと結果は分らない。
株価には1年先などを先読みする先見性があるとされ、私も何回か実感した。今回もそうした動きを発揮してくれるかどうか興味深い。これまでの株高の勢いは、変動はあっても、既にそのことを示しているかもしれない。

(平成25年6月6日 日刊工業新聞掲載)

「アベノミクス」は火点け役、頑張れニッポン! ㊥

萎縮経営から抜け出す/異次元緩和 復活への一歩

小島 和久(東京支部)

昨年までの日本経済は「失われた10年」が「失われた20年」に伸び、遂には「失われた状態」から抜け出すことさえ難しい状態に陥っていた。日銀の白川前総裁により、金融緩和は既に行われたが、こうした停滞局面では全く効果を発揮しなかった。経済があまりに悪かった。日本経済は陰の極に近かったのである。
そんな中でも景気に循環はある。2012年秋前後から一部の景気指標が底入れして、安倍首相が政権に就く頃は、主要指標の数値が低下から上昇に転じていた。
安倍首相にとっては最高のタイミングであった。循環的に上昇局面に入りかけていた景気が、アベノミクスへの期待感との相乗効果で、勢いを増している。しかも陰の極からのスタートであり、上昇に弾みがつく可能性もある。
また、金融緩和により日銀から民間銀行に供給された資金が銀行で止まらず、世の中に出回るかどうかが問題である。銀行の貸出残高の伸び率は、既に昨年からプラスに転じ、徐々にではあるが高まっている。異次元金融緩和でこの傾向が強まり、世の中への資金の流れが増えれば、アベノミクスにも実体経済にも前進への1歩となる。
 一方、企業は長年にわたり、前向きな設備投資も人員増も抑制している。この辺りで積極的に事業を前進させないと、企業活力そのものに影響する。名目賃金もここ数年減少傾向にあり、これ以上続けば社員の士気に係わる。もともと現在40歳台の中堅層以下は、仕事の上では「失われた日本」につかりきりなのである。経営者の意識も「失われた20年」の中で実力以下の状態に委縮している。日本の実態は思った以上に危険であった。
こうした時にアベノミクスが現れ、先行き期待感が生まれると、ながらく待ち望んでいた事業展開のチャンスと考える企業が現れるだろう。企業内の意識が解放され、長期にわり抑えられていた設備投資などのカバーも含め、企業活動が思いの他に上向く余地が生まれる。
ただ期待感は、いつまでも実体経済が好転しなければ消滅する。先に述べた景気の循環的な上昇局面をアベノミクスが後押しし、実体経済の拡大が現実に続くことになれば、景気の復活は本物になる。

(平成25年6月13日 日刊工業新聞掲載)

「アベノミクス」は火点け役、頑張れニッポン!㊦ 

企業活動トレンド反転/前を向き新しい世界へ

小島和久(東京支部)

安倍晋三首相誕生前、円高および株価下落のトレンド、景気及び企業活動の停滞トレンドは行き着く底周辺まで進んでいた可能性がある。つまり陰の極であった。そんな時、タイミング良く強力な刺激が与えられると、トレンド反転の契機になる。アベノミクスが正にそうした刺激剤になった可能性がある。株価・為替は既に陰の極から脱却した。
アベノミクスは火つけ役を果たしているものの、実体はちょうど火のつきやすい枯れ木の状態にあった。アベノミクスが単に火点け役であったとしても、経済が再生を遂げることはあり得るのではないか。陰の極からの復活は、強力なインパクトを持つ可能性がある。この時アベノミクスの超金融緩和と「期待感」が重要な役割を果たすのである。
ただその場合、火がいくら点火しやすい状態にあったとしても、芯つまり経済の実体が腐っていて、再起不能な状態になっていたら、いくら火を点けたところでその火は間もなく消えてしまう。
日本経済は20年以上という長期間にわたる停滞状態にあり、このまま更なる低迷が続けば、いつかその芯が腐り、国全体が危篤状態に陥る可能性もあった。
しかし今は、復活への意欲も、力も、体制も依然、残っている。その証拠が、株価の力強い上昇とアベノミクスに呼応して広がり始めた活気の中に示されている。表面的な空気に惑わされず、実態を見通さなくてはならない。
今の経営者層は自信喪失しているとの調査結果もあるが、保守化し眠らせている本来の力を目覚めさせ、発揮させることさえ出来れば、自ら力で復活の第一歩を踏み出せるのである。
底入れから大きく反転した株価の様に、経済や企業活動についても、長期のトレンドが低下から上昇に転じる時、強い勢いを見せる可能性がある。
またそうした勢いがないと転換自体が難しくなる。
これまで人々の視線はしっかり前を見ていなかったのではないか。前を向くことが、日本の危機を脱出するために必要なのである。向きを正せば、新しい世界が開ける。日本の完全な復活を、多くの人達が望んでいるとしたら、そのこと自体が期待を実現させるのである。がんばれニッポン!!

(平成25年6月20日 日刊工業新聞掲載)

ご縁は自らつくるもの

機会を求める/人が人を呼び込んだ町おこし

山田 一(千葉支部)

 私が町おこしの活動らしきことを始めたキッカケは、ある人とのご縁が始まりだった。千葉県南部にある第三セクター、いすみ鉄道鳥塚亮社長との出会いである。縁あって日本経営士会千葉支部と千葉県経営者協会の共催で鳥塚社長に講演をお願いした。当時全国のローカル鉄道の赤字経営が問題となり、廃線を余儀なくされた鉄道が多かった。いすみ鉄道もその一つで、存続が危ぶまれていた時期でもあり、鉄道が無くなったならば地域の灯が消えてしまうと熱っぽい語りかけが印象に残る講演であった。
 その後、千葉県観光リーダー養成講座でご一緒に勉強した奥様を介し能楽師シテ方観世流橋岡会橋岡久太郎九世を知ることとなる。経営士会千葉支部総会に特別講演をお願いして、日本の伝統文化である能楽に関してお話をして頂いた。この講演には、先の鳥塚社長もお呼びして、懇親会の折に、町おこしの面から夷隅地域で「薪能」を企画してみてはという提案をしたのがスタートとなった。
その後、町の有力者への働きかけを試み、その功もあり、オペラ歌手の村上敏明氏も賛同して下さった。若い人たちに本物の芸術を知る心を養ってもらうという視点から、2012年10月6日に大原市内の大原文化センターで"能楽とオペラの協演"という形で花開くこととなった。
地元高校生による能楽への参加、地元合唱団によるオペラへの参加が出演者と客席と一つになった感動的な高まりのうちに公演を成功裏に終えることができた。是非続けてほしいという地元の方たちの要望も強く、継続することで町の特色をだせればという思いから、13年も公演を行うべく検討に入っている。
 人とのご縁は待っていては来ない。自ら作り出し、人が人を呼び寄せていく、そしてご縁のあった人たちとどうコラボレートできるかを探ることで、新天地を見いだせたのではないかと考える。
 経営においても、同じことが言える。毎日の仕事にきゅうきゅうとするだけでなく、自分に無いものを求め外部の人に目を向けてみるのも時には必要ではないか。
縁あって知り合った他人と一緒になって共有化できるものはないかを探し出すことで、思ってもいない効果が期待できる。

(平成25年6月27日 日刊工業新聞掲載) 

知と経験が最も大事なグローバル企業への変革

多文化の中で20代人材育成/キャリアを正当評価

西 満幸(東京支部)

わが国の海外進出企業は2万社、全体に占める海外売上高は2割となった。日本企業の海外活動は活発化しているが、国際競争力は弱い(2013IMDランキング24位)。グローバルで活躍できる人材、海外からの投資を呼び込める人材が不足している。「知と経験が最も大事な社会」に変革し、持続的な成長を実現する必要がある。
第一に、20代のグローバル人材育成だ。社内標準言語が英語となり、多文化社員が協同で日常業務を進める時代が始まる。海外勤務は早目に体験させ、幹部への必須なキャリヤパスとする。入社後数年の20代社員に多文化の中で、グローバルビジネススキルや、個人を大切にし、残業が少ない働き方など世界標準を生活の中で会得させ肌で身につけさせる。日本生産性本部の調査では新入社員の半分以上が海外希望である。20代でグローバルビジネスの世界に放り込み、これを日本型雇用・労働改革に生かす。
第2に、大学院進学者の増大である。文科省によれば、大学院在学者26万人は韓国33万人より少ない(人口1000人当り2.1人は韓国の1/3)。中国は154万人。英米大学生の30%が30歳以上であることも特徴である。米上場企業役員の40%はMBA、対日本の大企業役員の修士はわずか6%。日本は働き方を変え、30代以降でも新しい知とキャリア挑戦が必須である。
第3に、これらの知と経験を生かす通年採用の早期実現である。7,027対0、これはIBM(US)と同業日本トップ社の最近のキャリア募集状況である。その募集情報は職種・勤務地・スキルなど具体的で、Footer「お客様別情報」/就職希望の皆様、として取り扱っている。キャリアはグローバル企業ではお客様である。成長には新しい知と経験=キャリアが必要で、労働流動性を大胆に高める必要がある。
今後、世界のリーダー役は知識労働の生産性向上に成功した国と産業となる。専門家教育とキャリアを正当に評価し、「知と経験」にインセンティブを与える日本にする。何を変え、何を残すかを熟慮実行し、働き方などグローバル頭へのシフトこそが、企業の持続的な成長を約束できる。

(平成25年7月4日 日刊工業新聞掲載)

三本の矢 活用のコンサル

PDCAコンサルでサポート/事業承継に留意を

矢島 英夫(東京支部)

今や、アベノミクスの三本の矢が日本再生の切り札のごとく走り回り、20年以上にわたる低迷期の時代を乗り超え、活力のある時代の曙を迎える。トップの政策により、よみがえった。翻って会社経営にも応用できるではないか。ヒト・モノ・カネの3つの要件から考える。
◎ヒトは人財
新会社法成立前の株式会社は、役員3人以上が必須要件。トップは、3年先、10年先を考え、事業展開し、事業継続マネジメント(BCM)考えた役員布陣により、低迷期の会社経営も乗り越える。中小企業は、資本金の10倍以上の借入をしている。売上に対して経費がほぼ同じ位あるので利益は0か赤字となる、赤字になると会社継続できなくなる企業が続出する。そこで、どうすればこのジレンマから抜け出せるかを考える。
◎モノを考える
事業目的である儲ける製品は何か。本業+副業+αの三つ揃うと将来を切り開く力となる。選択と集中は、100年以上続く老舗企業であれば、時代に即した仕事が身の丈のあった経営が永続の力となる。簡単に言えば本業を大切にしながら新しい時代に即した企業経営に切り替えできる決断力である。時代の先を見通せるスキルである。
◎カネを考える
 資本から会社経営を考える。昨今、売上が減少し資本額が資本金の金額を下回り、自己資本が限りなく0に接近,又は0を越えマイナスとなると債務超過状態となり破産、会社倒産などとなる。しかし売上を高まれば、貸借対照表の資産が増加、効率よい経営は利益を出す。自己資本を高めることが可能となり、資本の充実が図れる。
◎ヒト・モノ・カネのことを全体で考える
 PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルによるコンサルで企業をサポートする。BCMを考えないと企業は、存続しない。最近倒産に至る中小企業は、ある日突然倒産する場合が多いのはどうしてなのか。
企業のトップの突然の死は、承継負担が過大となり、会社倒産を生じる。突発な出来事に対して、デジタル的なコンサルの対応は困難で、前々からアナログ的なコンサルを企業に提案しないと真の意味のコンサルはできない。

(平成25年7月11日 日刊工業新聞掲載)

科学立国・技術立国なら

道路標識の単位表記に誤り/基本の徹底を提言

塚本裕宥(北関東支部)

 5月16日付本欄で「計量法・単位記号の尊重を」と題して提言した。今回は道路標識に関することを主体に提言する。この種提言は繰り返しが重要だ。
科学立国、技術立国を目指すというが、日本の道路標識は誤表記が多く、お寒い状況だ。私の確認に疑問があるなら、身近な高速道路、国道等の標識を見て欲しい。私の指摘が正しく、誤りの多さを実感するはずだ。
私は前回述べたように、企業における単位記号のご意見番であった。新入社員が2年間の研修を終え、その発表会で単位記号を粗末に扱うと、小さなことだが、将来のためにとの思いから、考え違いをきつく諭した。
道路標識に関して、東京まで50Kmのような誤表記があきれるほど多い。正しくは50km、「k」は大文字でなく、小文字が正しい。Kmでは計量法上、前回示したとおり、「ケルビン メートルやケー(イ)メートル」と読む。
 天気予報でお馴染みのhPa(ヘクトパスカル)は、NHKがミリバールからヘクトパスカルに変更します、変更しましたと何度も何度も繰り返したので、今ではミリバールという単位は全くと言えるほど影をひそめた。
 国交省の関係者は、正しく「km」と表記すべく、標識表記に関わる方々(第一線の看板製作者を含む)まで、指示を徹底して欲しい。
 本件について、6月1日のある周年記念の席上、国交大臣経験者と面談の機会があり、標識を見直すようメモを添え、提言のエピソードがあることを付言する。私の提言が生き、第一線まで指示が行き渡るかを見守りたい。
今は、重量系から質量系に移行のときであり、ついでの提言をする。日本の教育を見ると、大学までは質量系で学習するのに、社会人になった途端、重量系に戻ってしまう。不思議な国と言わざるを得ない。
「本体質量5kg」というような表示を徹底しているのは、家電業界だけと見える。多くの業界で、まず「本体重量」でなく、「本体質量」と表示を変更する必要があるはずだ。自動車業界等の協力が欠かせない。
些細なことだが、こういう基本的なことを徹底することが科学立国、技術立国の出発点と思えてならない。

(平成25年7月18日 日刊工業新聞掲載)

男女共同参画社会に向けて

女性の能力活用/多くの人々の協力あってこそ

塚本裕宥(北関東支部)

 体験を基にして、男女共同参画社会に関する提言をする。私がそれを意識したのは、企業在籍の1965年頃、品質保証という技術部門に、女性社員の配属を受けたときである。当時は自分の身を処するのが精一杯で、適切な対応をしたか定かでない。
その後85年頃、創造性が必要な商品企画という企画部門に、工場採用初の大学卒女性社員を受け入れたときである。
そのとき以来、今後は女性でも、性別とは無関係に活躍できるよう、育成責任があると痛感、適切に対応した。
育てるという男性の視点でなく、当人の自覚で育つよう見守り、支援するのが適切とも考えた。85年頃受け入れた女性社員たちは、今も既婚社員として技術部門で活躍しており、OBにも配布の社内報で活躍状況を知り、適切な対応だったと思っている。女性でも適切で丁寧・充実の社員教育をするので、定年退職するまで永続勤務をしてほしい、結婚もするだろう、子育てもするだろう、女性目線を生かせる商品開発を通じ、充実の人生も送って欲しいなどと励ましたのを、昨日のことのように思い起こす。
彼女たちの活躍は、女性でも自己実現が大切と考え、その努力もあり、世間もそれを後押ししたと思う。
 お客様第一には、社員・職員を大事にすることが先決で、そんな活動にも、当然、男女共同参画という考え方を含むはずだ。
人口減少社会になり、女性の能力活用は非就業者をも含み、主婦等のパート労働の大切さは熟知のはずだ。
多くの方々は組織をよくするためのノウハウを持ち合わせているはず。それも活用したい。組織は男性と女性で成立、社員を区分する必要はない。
 自助である夫や祖父母等の協力、共助である働く仲間として支え合う企業の協力、公助である待機児童をなくすなど、社会の協力あってこその男女共同参画社会である。多くの方々の女性への温かい目線が基本であり、根底では若者への支援優先につなげたいものである。
ダイバーシティ(多様性)とも関わり、頭では理解しているものの、体で理解しているかは疑問で、男性優位の考え方を変え、行動を変えようと提言する。

(平成25年7月25日 日刊工業新聞掲載)

開業率を高め雇用創出するグローバル社会に

社内起業を倍増・外国人雇用拡大/外国企業誘致を

西 満幸(東京支部)

アメリカやイギリスの開業率はわが国の2―3倍である。アメリカの破産法は簡単に破産・簡単に再チャレンジ、早い与信回復が基本である。わが国の起業支援制度はかなり整備されている。失敗を認めない社会や与信の問題から、起業・開業意識は低い。経済の成長には開業率を高め、産業・事業の新陳代謝を促す工夫が求められる。
第1に社内起業を倍増させる。失敗の回数が増えれば、それだけ成功が速くなる。社会が失敗を認めないのであれば、せめて企業は失敗を認める。失敗しても再チャレンジできるような加点主義人事に大胆に転換する。勤務時間の20%を社員が情熱を感じられるプロジェクトにあて、世界最高水準の企業研究開発費と潤沢な内部留保を起業に大きく投資する。遅れているサービス業種(研究開発・対事業所)などは開業のテーマとなる。
第2に世界で8番目に多い外国人留学生14万人の活用である。外国人は起業意識が高いが、卒業後日本の会社に就職するのは8000人にすぎない(2011年) 。採用枠を拡大し開業率を高める。米国には年6万5000人の高度専門職向けの短期就労ビザ(H-1B、6年間有効)がある。地方の外国人雇用では住宅支援や米政府の引っ越し代全額負担などの施策も参考となる。ちなみに、シリコンバレーの開業の5割は1割の移民住民による。
第3は対内直接投資を高めることだ。11年の日本の対内直接投資残高は国内総生産(GDP)比4%で、ドイツの5分の1にすぎない。企業誘致当事者の自治体と企業の直接接触・支援が重要となる。ドイツでは貿易・投資振興機関が企業進出支援を無償で行っている。16州はこの政府機関と連携、セミナーなどで来日し具体的に各州の優位性を直接担当者が紹介している。
80年の歴史を持ち元気な富士フィルム、そのフィルム事業売上高は1%である。130年の歴史を持つコダックはフィルム事業に固執し破綻した。
企業は社内制度改革と外国人雇用を拡大し、政府と自治体は強連携で外国企業を誘致する。持てる力を最大限に発揮すれば、グローバル時代の中で雇用を拡大し、成長することが十分可能となる。

(平成25年8月1日 日刊工業新聞掲載)

先生、もっとカンタンに経営がわかるようになりませんか?

基本・目標・行動で定義/PDCAシクルを回す
「〇△□の経営・入門」その1

山本英夫(南関東支部)

クライアントの社長さんたちからこんな要望が出てきた。「社員のみなさんに経営の話をする時は、中学生にもわかるくらいの説明でしてほしい」とか、「ドラッカーがいいのはわかるけど、やっぱりあれでは難しくて・・・」等々。以来、ずっと模索してきた。経営における重要な基本項目についても触れながら、経営指導支援の内容についても盛り込んだ経営入門テキストができないものか、と。
そして、痛感したことは今までの切り口ではダメだということ。切り口を換えてアプローチしないとできないことがわかった。常々、経営コンサルタントとは「会社を通して、社会を良くしていく」という強い使命感を持って取り組んでいくものだと考えていた。それではどんな切り口がいいのか。考えに考え抜いた結果、次のような問題を自らに出した。「3つの用語を使って経営の定義をせよ。マネはいけない」。そして、出した答えは「3つの用語とは、基本・目標・行動」。3つの用語を用いて作成した定義とは「経営とは、基本を徹底し、目標を明らかにして行動すること」とした。
さらに、わかりやすく、可視化するために「基本=□、目標=〇、行動=△」と図形に置き換え、3つの図形を組み合わせて、□が下、○が上、△を真ん中にレイアウトしたピラミッドを作った。「○△□の経営ピラミッド」である。「□を徹底して、○を明らかにして、△すること」と置き換えることができる。これが、「○△□の経営」の基本だ。
経営者における迷いには大別して3つある。1つ目は、「どこにいるかわからない」。2つ目は、「行き先がわからない。目標があいまい」。3つ目は、「何をしたらいいのか分からない」。1つ目は□に対応する。基本の徹底をすること。基本とは、次の3項目。「人・物・金、情報・時間・技術」の経営資源の見直し。経営理念の見直し。組織図の見直し。2つ目は○に対応する。目標を明らかにする。経営理念から出てくるビジョンに基づき、経営計画に落とし込んでいく。三つ目は△に対応。経営計画にもとづき、事業計画・実行計画に落とし込んだ内容の具体的実行と確認と改善実行。つまり、PDCAサイクルを回すということである。これが、「○△□の経営」の基本の基本である。

(平成25年8月8日 日刊工業新聞掲載)

先生、もっと儲かるような視点も入れるとどうなりますか?

「重い」「資金シクル」など追加/7アイコンで説明
「〇△□の経営・入門」その2

山本英夫(南関東支部)

 「□=基本、○=目標、△=行動」の三つで「経営の基本の基本」は押さえたものの、現実の経営において気になる「利益」についてはどのように考えたらいいのか、という声も出てきた。
そこで、この三つの用語・図形をさらに深く理解していただくとともに、これをベースとしてさらに四つの用語・図形を加えた。
□=基本を、「人間の基本、六大経営資源の基本と経営理念と組織図、仕事の基本(挨拶・返事・相づち、3S、ホウレンソウ)」というように展開した。そして、○=目標を「目標<目的<夢」、△=行動を「経営>業務>作業」とした。これにより、次に説明する内容につながっていく。
具体的な四つの用語・図形とは、「利益=▽」「業務サイクル(売る・つくる・管理する)=▲」「資金サイクル(調達・投資・回収)=▼」「おもい・経営理念・経営哲学=◎」の四つである。特に、「資金サイクル」を加えたことによって、より現実的な経営としてとらえことができるようになる。
行動=△は、具体的には「業務サイクル=▲」「資金サイクル=▼」の両方をバランスよく回すこととして展開していく。そして、その「行動=△」の結果として「利益=▽」をとらえるのである。さらに、この利益▽を三つの面からとらえることにした。「差額としての利益」「お役立ちとしての利益」「価値創造としての利益」である。
そして、□=基本の真ん中に「◎=おもい・経営理念・経営哲学」を据える。すべては、「おもい」から始まり、経営哲学をベースとして経営理念を明確にしていくのである。ここで覚えておいてほしいことは「哲学―理念―計画」という「おもいの3サイクル」。理念の前に哲学があり、理念の後に計画がある、サイクルである。
これらを「経営の基本がわかる七つのアイコン」として「○△□の経営ピラミッド」を完成させることになった。これが「○△□の経営」の基本と言っていい。「○△□・▽▲▼◎」の、たった7つのアイコンで「経営の基本」を説明できるということで、クライアントの社長たちには喜んでいただいている。

(平成25年8月22日 日刊工業新聞掲載)

先生、CSとか目標管理はどう考えればいいですか?

補助線・図を加える/経営ピラミッドシンプルかつ深く
「〇△□の経営・入門」その3

山本英夫(南関東支部)

「○△□・▽▲▼◎」の七つの図形で「経営の基本」が説明できることをお話してきた。また、要望が出てきた。「CSや目標管理はどう考えればいいですか?」、「ドラッカーのマネジメントがこれでわかりますか?」「アメーバ経営にも当てはめられますか?」などなど。
 経営の全体について切り口を換えて説明しているだけなので、「全部これで説明できますよ」と答えておいた。これらは、すべて「○△□の経営」の応用編になるので、詳細説明は割愛させていただく。基本的には、7つのアイコンで作成した「○△□の経営ピラミッド」に補助線、補助図を加えて展開していくことで、それができる。
 例えば、CS経営を理解するには、「経営ピラミッド」の△の中に2つの△ができるように2本の補助線を引き、それぞれの頂点の上に○を描く。これで、△の中の左右に1つずつの「経営ピラミッド」ができる。左がCS(顧客満足)のピラミッド、右(従業員満足)がESのピラミッド、大きなピラミッドはSS(社会満足、CSR)のピラミッドというように見立てることができるのである。
 そして、目標管理制度を理解するには、△の中に3つの△ができるように6本の補助線を引く。3つの△のそれぞれの中にまた、6本の線を引いて、さらに3つの△をつくる。つまり小・中・大のピラミッドができ、全体目標・部門目標・個人目標を示すのである。
 それ以外にも、ワーク・ライフ・バランスを示すピラミッド、経営理念のピラミッド、セールスのピラミッドなども表すことができるようになっており、経営を深めていくことができるのである。
 こうして、経営における主要な手法や考え方を経営ピラミッド一つで理解することができるようになっている。ここまで理解が進めば、ドラッカーのマネジメントも容易に理解できるようになる。ちなみに、○=顧客の創造、△=(三辺を)マーケティング・イノベーション・生産性の向上、□=経営資源・組織・真摯さ・責任とみなし、△の中身を「仕事」と「労働」として見なすだけでも、基本的な理解を押えることができるのである。
 このように「○△□の経営」はシンプルかつ深く広がっている。

(平成25年8月29日 日刊工業新聞掲載)

伝統食にもイノベーションの波

ごま豆腐 老舗野こだわり/新しい食べ方も提案

河上晃(南関東支部)

例年にない今年の酷暑も、お大師さまの地高野山へ一歩入ると凛とした静寂に浸され身も
心も引き締まります。高野山は一山境内地といわれるように、いたるところがお寺の境内地であり、高野山全体をお寺と受容する宗教都市でもある。
2004年の世界遺産登録後の高野山には、毎年4万人以上の外国人の観光客も訪れ、聖地内も国際色豊かなスポットになっている。
そうした国際宗教都市高野山にあるごま豆腐の老舗Hさんの店舗を訪ねた。Hさんは高野山にて長くごま豆腐の製造販売に従事されている。
地域密着、地産地消、地方製造業の形でありながら、時代の変化に適応した提案も発信されている。
ごま豆腐という伝統食の範囲を超えて、嗜好の変化への革新、増加する外国人観光客への
対応、日本人・外国人・観光客・地域住人を問わずに健康に留意した健康食品として時代の要請に応えた経営をされている。
高野山のごま豆腐は、お題目を唱えながら石臼で白ごまをするなど、昔ながらに白ごま、
吉野葛、深山から湧き出る清水のみで真心こめて製造されている。シンプルなだけに素材の良さが味の決め手となり、舌触りの良い触感のすっきりとした味の中にごまの風味がはっきりと味わえる。
添加物は一切使用しないなど健康にも留意し、さらにごま豆腐は鮮度が命と生にこだわり、
「夏季には保冷容器を持たないお客様には持ち帰りを許さない」など頑固なこだわりを徹底
している。
しかし、ごま豆腐の製造・取り扱いには頑固な反面、進取の気概は豊富で、召し上がり方
では、冷たくしてワサビ醤油でいただく伝統的な食べ方から、黒蜜をかけてのデザート風や、
和三温糖やきな粉をかけての食べ方に加え、夏には桃のコンポートをかけての食べ方など四
季折々の果物のコンポートとの一見スイーツ的な食べ方など、これまでの常識を超えたごま豆腐の新しい食べ方も提案されている。
グローバル化の中で生き残りのため海外へ進出する企業も多いが、地域の特産品などを扱
う中小企業は地域と共存することが求められる。
約1200年続く高野山のごま豆腐の強み(良さ・本質)を活かした時代の変化を先取りする革
新性は、地方製造業の究極の形と考える。

(平成25年9月5日 日刊工業新聞掲載)

すぐそこにある危機(アルバイト・パートの人財化)

店員は顧客との接点/教育・労働規範の指導徹底を

河上 晃(南関東支部)

昨今、アルバイト店員の起こした問題が続いている。ストレス発散のためか眉をしかめる行為をして、その行為を写真に撮りネットに投稿している事件である。
周りに注目されたいという動機で、虚構の世界と現実の世界とが一緒になった。大人からしたら幼い欲求だが、雇用する経営側からすると、売上減少や休業、揚げ句に閉店を余儀なくされると、「若気の至り」では済まされなく、「大きな経営リスク」である。
これまで私たちは働くにあたり、社内教育、OJTを通して労働規範・話し方・礼儀をは
じめとして企業倫理観をやさしく指導されてきた。
しかし、昨今の風潮は、働く人を単なる労働力・労働費用(コストセンター)としての視点に立っており、将来的に付加価値をもたらしてくれる人的資源(プロフィットセンター)としての視点は少ない。そのために求められるものはマニュアル通りに動くことであり、上記のやさしい指導は皆無と言える。
例えば、小売業ではサービス向上と人件費削減はトレードオフの関係と位置づけられ、企業間競争を勝ち残るために労務構成を正社員からアルバイト・パートに置き換えることが勧められてきた。
しかし、消費財業種や小売店において、顧客が最初に出会うのはアルバイト・パートが多い。そしてこのアルバイト・パートとの出会いを通して、顧客はその背後の企業の良否を判断することになる。いわば、出会いの適否の蓄積で、企業経営の盛衰が決まると言っても過言ではない。
社員への企業倫理観の培養活動はこれまでもなされているが、今回の騒動は、その指導範囲のアルバイト・パートへの拡充の必要性を啓示したものともいえる。
アルバイト・パートの雇用期間は短期でも、付加価値創造の源泉との長期的な人的資源の視点での指導・育成をすることが競争優位性の確保や大きなリスク対策になると考える。
経営の神様松下幸之助さんの次の言葉が心にしみる。「年若き社員に、得意先から『松下電器は何をつくるところか』と尋ねられたならば『松下電器は人をつくるところでございます。あわせて電気商品をつくっております』とこういうことを申せと言ったことがあります」(『理念経営のすすめ』 田舞徳太郎 致知出版より)

(平成25年9月12日 日刊工業新聞掲載)

ヒトを育てる コンサルの考え方 

後継者早期に「スイッチオン」/先人達の経験法則利用

矢島 英夫(東京支部)

1. 人は人材でなく人財である。人は磨けば珠となる。人の遺伝子の98%はオフである。
これをオンにするで、人は磨かれる。スイッチオンの考え方は、村上和雄氏の考え方である。人は、逆境のとき「底力」が外に一気噴出する。火事場の馬鹿力がそれである。
しかし、常時この力を出していると肉体は壊れる。そこで力をセーブする遺伝子はオフとなっている。98%のうち、30%をスイッチオンすれば人間は、力を発揮する。
2.共同生活をおくるアリ、ハチの世界。働いているのは全体の8割、2割は遊軍的立場で毎日を過す。8割が何らかの原因で生存できなくなると、今まで遊軍的立場にいた2割が働き始める。しかし、2割のうちでも働かないものがまた2割出る。2;8の法則は常に群全体の生存を考えて法則が成り立つ。翻(ひるがえ)って企業にもこの法則は成り立つ。直接生産する人は、8割で、2割が新しい事業展開を図る、これが新しい源泉となる。
3.人の力量は、通常は大差無い。遺伝子のオンかオフかの差である。オンを30%増すと能力が80%増加し20%の余裕ができる。20%の余裕で、明日につながる仕事ができる。法隆寺大工であった西岡常一氏が「木のいのち木のこころ」の中で、塔や堂の垂木は20%程無駄を後ろに残す。解体修理のとき腐った端の部分を切り取り引っ張り
出せば、1本丸ごと取り換えないで済む。千年持つように古(いにしえ)の大工は千年先のことを
考え、材木を財木にした。企業にもこの考え方は使える。人材を人財に変えるには、2:8の法則を熟知し、2割の人間にするには休眠遺伝子の30%をオンにすることである。
4.さらに、木に二つの命があると西岡氏は言う。檜の寿命は2500年位が限度である。
木の命の一つは樹齢、一つは木が財木として生きる耐用年数。昭和17年(1942)に法隆寺五重塔を解体修理したとき、塔の瓦を外して下の土を除くと、次第に屋根の反りが戻った、鉋(かんな)をかけると檜の香りがする、これが檜の命の長さです。立木で千年、
五重塔の垂木で活かされて1400年合計2400年の寿命です。この考えは、これから老舗企業になる企業にも使える考え方である。
先人達の経験法則を利用することにより、よりよい人間に経営者にもって行くことができる。スイッチオンされた、次の時代を背負う後継者を育てる。先輩経営者が後輩経営者となる人を早期にスイッチオンすることが事業承継に必要なことです。

(平成25年9月19日 日刊工業新聞掲載)

移転価格税制への認識と対応 その1

海外子会社への所得移転防ぐ/取引価格安ければ追徴課税

長谷川正博(東京支部

 企業活動の国際化に伴い、中堅・中小企業も海外に子会社を設置するケースが増えてきている。これにより企業は国内事業とは異なる様々なリスクに直面することになるが、移転価格税制等の税務リスクも海外展開を進める企業にとって無視できないものとなってきている。例えば、日本国内にある企進(日本法人)が、自社の商品を通常の取引価格(「独立企業間価格」という)より安い価格で海外の子会社等関連会社に輸出すれば、国内での所得が減る一方、商品を安く仕入れた関連会社は、所得を増やす事が出来る。これを、国内から海外への所得移転という。法人税率の高い国から低い国に所得移転すれば、企業グループ全体で納める税金を少なくできることとなる。
 このように、日本法人が海外子会社等関連企業との商品・サービスの取引価格を独立企業間価格より安くするなどして、企業収益が海外移転することを防ぐ制度がここにいう移転価格税制であり、日本では1986(昭和61)年に導入された。国税庁は独立企業間価格と異なる価格により当該日本法人の課税所得が減少している場合、その取引は独立企業間価格で行われたものとみなし課税所得の計算を行い追徴課税する。つまり、移転価格税制は、海外の関連企業との取引を通じた所得の海外流出の防止を目的としているものである。
 我が国の移転価格税制が適用される対象となるものは、日本法人が国外関連企業との間で行う商品・サービス等の販売・購入、役務の提供その他の取引であり、国外関連取引は、日本法人とその国外関連企業との間の取引をいうが、国外関連企業とは当該法人との間に次の関係にある外国法人を指す。
①親子関係等 : 二つの法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済み株式等の50%以上の株式または出資金額を直接又は間接に保有する場合、
②兄弟関係等 : 2つの法人が同一の者によってそれぞれの発行株式等の50%以上の株式または出資金額を直接又は間接に保有される場合、
③実質支配関係 : 役員の兼務、取引依存、資金借入等により、一方の法人が他方の法人の事業方針の全部または一部につき実質的に決定できる場合。
(平成25年9月26日 日刊工業新聞掲載)

移転価格税制への認識と対応 その2 

ロイヤリティーなども対象/事前確認制度利用を

長谷川正博(東京支部)

 前項において移転価格税制とは、日本法人が海外にある関連会社との取引において価格を意図的に操作し、納税額を減少させたとみられた場合、独立企業間の取引価格に基づいて行われたとして課税所得を再計算し、税額を調整することが出来る制度である旨説明したが、この独立企業間価格の判定基準には独立価格比準法、再販売価格基準法及び原価基準法等の方法があるが詳細は専門書を参照して頂きたい。
また、本制度の対象となる行為は、商品あるいは製品の仕切り価格を下げる「仕切り価格の操作」、適正な金利を下回る低利または無利息により貸付を関連会社に行う「低利・無利息貸し付け」(但し倒産防止など正当な理由がある場合は除く)、関連会社の増資直後、業績回復が見られない理由などにより同社の株式の評価減を行う行為等がある。
さらに、親会社と海外子会社間で移転価格の対象となるのは製品価格だけではなく、無形資産である技術指導料やロイヤリティーなども対象になる。ロイヤリティーを過剰に支払ったとして海外子会社が進出先国の税務当局により追徴課税されることもある。このように企業には海外の関連会社が現地側で課税された所得に、日本でも課税(移転価格課税)されたり、又はその逆のケースのように二重課税のリスクもあり、この様な事態を避けるため、二国間の税務当局が適正な取引価格と税額を調整する「相互協議」に基づく「事前確認制度(APA)」がある。
これは、企業が海外の関連会社と行う取引価格の算定方法等について、予め税務当局に確認してもらう制度である。但し、日本と租税条約を結んでいない国は対象外となるので注意を要する。移転価格税制はアジアでも導入が進み、各国の税務当局は税収確保のため、ある意味では国際的な税の分捕り合戦の様な体を成しており、海外進出企業には常に税務リスクもあることを前提に対応する必要がある。
移転価格課税のリスクを回避するためには、企業は海外の関連企業との取引条件や価格などが適正であることを文書化(日本では2010年の税制改正時明文化された)して立証できるように予め備えておきAPAを積極的に利用する事が必要である。
自社が契約している税理士など専門家に相談をしながら対応することもリスク低減のための大切なポイントとなる。

(平成25年10月10日 日刊工業新聞掲載) 

フロントローディングの再考―㊤

3Dプリンター活用/スピードアップR&Dの命題

渡辺智宏(南関東支部)

最近、さまざまなメディアで3Dプリンターなど次世代のデジタル技術を活用したモノづくりが特集されているのをよく見かけるようになった。3Dプリンターは3DCADで描いた図面をもとに、立体模型を作り出す造形装置である。
私が初めて3Dプリンターを見たのは、今から約10年前のことである。主に通信やハイテク、各種輸送機器など、組立系製造業と呼ばれる企業のR&D(研究開発)部門の業務改革に携わることが多い私は、ためしに購入してみたという、ある顧客先の電機メーカーで拝見した。それは、樹脂を粉上にして吹きつけて重ねていきながら立体物を作り上げるという仕組みだった。
当時は数千万円したと聞いていたが、最近は、機能や性能によって幅があるものの、大幅に価格が下がってきたようだ。機能が充実して、さらに価格が下がってくると、3Dプリンター活用の幅は広がる。最近注目されているような個人によるモノづくりの実現だけでなく、メーカーのR&D部門で繰り返し行われている試作などにも大きなメリットが生まれるようになる。
従来は時間とコストをかけて試作を行っていた。ところが、3Dプリンターで試作することによって、それらを大幅に削減することが可能になる。3Dプリンターはまだ発展途上であり、今後解決していくべき課題も多いが、QCD(品質・コスト・納期)をレベルアップさせるための革新技術としても今後の活用が期待される。
このように、ものづくりを支援する技術が発展していく中、開発業務の進め方も進化させていく必要がある。製品ライフサイクルがものすごいスピードで短期化しており、開発期間短縮は最重要課題の1つとなっている。モノづくりを支援する技術やツールを最大限に活用した開発のやり方に変革し、スピードアップしていくことがR&D部門の命題であるといえる。
本連載では今回例を挙げた3Dプリンターなど、モノづくりを支援する技術・ツールの発展により変革されるべき開発の進め方に着目し、20年以上前から現在にいたるまで、開発業務プロセスの目指す姿の代表格とされている「フロントローディング」について再考してみたいと思う。
(平成25年10月17日 日刊工業新聞掲載)

フロントローディングの再考―㊥

早い段階で問題や課題抽出・対策/段取り八分徹底

渡辺智宏(南関東支部)

前回は、モノづくりを支援する技術・ツール発展の一例として、3Dプリンターを取り上げた。今回はこれらを活用しながらのフロントローディングについて考えていきたい。
フロントローディングは、開発の初期段階からプロジェクト関係者を巻き込んで、早い段階で問題や課題を抽出・対策する(前工程に工数をかける)ことで、後工程で発生する問題を最小化し、手戻りを削減する(後工程の工数を削減する)という考え方である。技術者のほか、調達、製造、品質保証、販売など各担当者が企画や構想段階から参画し、それぞれの知見で意見を出し、対策案を検討、実施していく。フロントローディングを進めることで、工数だけでなく不要な試作の削減による開発コスト削減や、事前の製造性(製造のしやすさ)考慮による製造コストの削減、より魅力ある商品検討なども可能だ。
フロントローディングは、いわば段取り八分を徹底するという考え方で、QCDのレベルアップに効果的だ。何もかも全ての業務をフロントローディングすればよいというわけではない。モノづくりの支援技術やツールが進んだ現代において、業務によってはフロントローディングが逆に効率を悪くするケースも出てきている。例えば、3Dプリンターを使って早く安く試作でき、試作して問題を発見した方が手間(工数)がかからないのであれば、試作前に工数をかけて問題を事前に発見するフロントローディングは逆に非効率だ。
ソフトウエア開発でも同じようなケースがある。巨大な流用母体が存在するソフトウエアに機能を新たに追加する際、構想設計段階で悩んでいるよりも、とりあえずコーディングして動かしてみた方が、全体の構造や機能追加による影響範囲のイメージがつかめ、障害を早く発見でき、品質が早く高まるのであれば、フロントローディングよりスパイラルアップで開発を進めた方が効率的だ。
それでは、効率的なフロントローディングを行うためには何を心がければよいのだろうか。次回はこの点について考えていきたい。

(平成25年10月24日・日刊工業新聞掲載)

フロントローディングの再考―㊦

開発のQCD定量分析が王道/工数・コストを最少に

渡辺智宏(南関東支部)

前回は、杓子定規で全ての業務をフロントローディングすべきではないことを述べた。今回は、フロントローディングすべき業務の見極めについて考えていきたい。
フロントローディングの主な目的は、開発で発生する工数、各種費用の最小化で、それを踏まえてフロントローディングすべき業務を考える必要がある。逆に工数や費用が上がる業務ではそれを行うべきではない。これを判断する上で、開発プロジェクト全体を俯瞰し、各業務で発生している工数、コストを過去のプロジェクトから振り返り、定量的に把握することが重要だ。その中で工数やコストの増加部分に着目し、原因を分析し今後フロントローディングすべき業務を明確化する。
ソフト開発部門と議論すると、フロントローディングはソフト開発に合わないと言われることが多い。これは全ての業務をフロントローディングで考えようとする典型だ。設計段階ではコーディングをベースにスパイラルで完成度を高め、試験段階では膨大な試験項目を実施するので、予め実験計画法などで組み合わせパターンの最適化を計画した上で効率的に実施するといったように、状況に応じて最適な方法を選択すればよい。
開発全体でのフロントローディングが効果的なタイミングは、複数の担当者が役割分担して業務を開始する手前だ。組立系製造業ではエレキ、メカ、ソフトなど各技術単位で役割分担して開発を進めることが一般的だが、この分業前のシステム設計のタイミングで想定されるリスクや問題を議論し、対策案を関係者で事前協議しておくことが大きな手戻り防止につながる。特に開発全体の方針や各担当の役割など、曖昧性が高い内容をフロントローディングで決めておくことが重要だ。
デジタル技術の発展に伴い、最適なフロントローディングのやり方も変わってくる。最適を考える上では適化を考える上では、現状の開発のQCDを定量的に分析するという昔からの改善の王道がやはり重要だ。漠やはり重要だ。漠然としたフロントローディング信仰や偏見に陥らず、工数やコストなど事実を定量化し、事実を定量化し、それらを最小化することを念頭に置いた上で、フロントローディングすべき業務を検討しべき業務を検討していく必要がある。

(平成25年11月7日 日刊工業新聞掲載)

来て下さってありがとう(シニア創業者のおもてなし)

店内に「ほっこり」空間/琴線に触れる人と人との関係

河上 晃(近畿支部)

「はじまりの奈良、めぐる感動」(平城遷都1300年祭の合い言葉)の奈良で新しい店が評
判である。元幼稚園教諭の女性が定年退職を期に創業された、奈良市内中心部からすぐ近くの町に所在するH(店名)さんである。
定年退職後に何かをやってみたいという人は多い。長い間働いてきたが、定年退職という節目に過去の自分を振り返り「自分とは何か、本当にやりたかったことは何か、自分という存在は認められているのか・・・」などに青春の血が騒ぎ葛藤する。
何よりもシニア世代には時間、経験、人脈、体力、(幾ばくかの)お金がある。例えば、時間は平均寿命が男性約79歳、女性約86歳とこれからの自己実現に十分な時間がある。
定年後も働きたいという希望が約80%の定年対象者にあり、創業を考えている人も多い。
しかし、創業の実現にはハードルもあり、さらには創業後の赤字企業が他の世代の創業者に比べて多いという厳しい現実もある。(出典元 中小企業白書、日本政策金融公庫レポート)
若年創業者は「若さ」を武器に事業の拡大を望むが、長い社会経験を持つシニア創業者には身の丈以上の成功よりも「自分のやりたいことを追求しながら安定した収入を得る」ことを描く人が多い。 
Hさんは奈良県が主催している「魅力あるお店づくりセミナー」にて約半年間にわたり
毎月の勉強会やmahoroba純情商店団 (模擬店舗)への参加を経て創業された。
Hさんに入店すると佐保川の土手の緑で目を慰められ、高い天井の空間とのひとときの
コミュニケーションに浸るような非日常的なほっこりする雰囲気の店内は、私たちだけの
場所・ひとときを分かち合う店内(落ち着いて会話できる)になる。
健康を考えた美味しいランチはリーズナブルな価格ながら、手間をかけ下味を生かした
うす味で品数満点、落ち着いた器と相まって来店客の心を射止めている。品の良い女性が親しい友人と楽しげに食事しながら、嬉々としてお茶碗をもっておかわりに行くなど「ほっこりスペース」そのものである。
お店で切り盛りするオーナーの「来て下さってありがとう」の言葉は、昨今のテクニカル面に注力して数字で判断しがちな店舗運営とは違う、琴線に触れる人と人との関係を表している。たとえ厳しい経済環境下でも、人と人との関係の先に「つつましくも日々新たな明日」があると考える。

(平成25年11月14日 日刊工業新聞掲載)

カネを考える 良いおカネの使い方でデフレ脱却  

利益の一部社会に還元/ヒトとモノの間取り持つ潤滑油

矢島 英夫(東京支部)

1.カネは、別名キンともいう。金属のキン(金)は一番価値があって昔々は、モノを買うのに金貨が通用し、我国でも江戸時代においては大判等に金が使用されていた。昔から一番金に価値があった。金という漢字は、いい響きであるがおカネとなると良くも悪くもなる。自然現象では、水は高い処から低い処に流れるがおカネは、下から上に流れる。金は、カネとキンの2つの名称があり、キンは、現実に存在し、流通しているカネの担保をしている。また、おカネには二つの大きな機能があります。
2.第1は市場における交換の媒体としての役割。市場におけるモノの交換機能です。
第2は価値の保存機能で貯蓄。おカネの本来の機能は第1の機能、つまり市場におけるモノの交換の媒体としての役割。現代の市場では物々交換という仕組みが失われ、市場におけるモノの交換は必ずおカネが媒介します。
交換の媒体としてのおカネが不足すると、すぐにモノ(商品やサービス)の交換機能が失われ、片方でモノが余ってしまう一方で、モノが人々に行き渡らず不足するという事態が同時に発生。つまり、「モノ余りとモノ不足が同時に起こり」ます。これがデフレ状態です。一方で第2の機能である貯蓄は異常なまでに膨らみます。そして今も第1の機能は減り続け、第2の機能だけが膨張を続け、第1の機能をどんどん圧迫する。おカネを貯め込んでも人は豊かになれない。
おカネをひたすら増やし、貯め込むという第2の機能を抑制し、おカネを回し、モノの生産と交換を活発化するという第1の機能を回復することこそ大切。おカネは、通貨として価値を有し得難いものである。
3.カネとおカネとは同じようなものであるが全く性格を異にする。身体でいう所の二の腕と二の足のごとく二の腕は、腕の一部位であり二の足は躊躇するさまを示す。このおカネをコントロールするのは、使われ方でなく使い方に意味をもつようになる。よく仕事でも後に利益が付いてくるような考えだと良いがおカネに執着するあまり追求しすぎるお金は付いてこないと結果となる。かのドラッカーがいっている社会の中に会社が存在しその中に生かされ会社は存在する。そのために利益の一部を社会奉仕に使う。
すなわち社会に還元するという考え方である。おカネはヒトによって使用され、モノの売買におカネが介在して、ヒトとモノの間を取り持つ潤滑油として働いている。良いおカネの使い方で、本来の機能を発揮させることが大切であると考える。
(平成25年11月21日 日刊工業新聞掲載)

業績低迷脱却の品質活動  

強み・弱み「自社関係図」作成/会社で活動項目策定

金子昌夫(千葉支部)

円安下で業績が回復した工場がある。一方で、設備投入や生産方式の変更をしたにもかかわらず業績が横ばいの工場、取引先の販売不振による受注量減少やコストダウン要求から業績が低迷する工場もある。経営資源を有効活用して、他社との差別化や価格競争力から顧客に製品を提供しても、業績が良くならないことがある。
顧客は製品の機能的な品質にとどまらず、利便性や感性的な品質から評価をする。
このため、製造側からの品質と顧客から考える品質とは一致せず、また、社会や環境変化に応じても変わってくる。
工場では「顧客価値を高める品質活動」が重要になる。顧客価値を高めるには、自社固有の強みを組織能力に直結し、顧客が満足する価値を提供する仕組み、メカニズムを構築することが必要である。
品質活動は、自社の現状と今後の方向性から組織能力を強化し、効果的な仕組みをつくり、実践する活動である。活動を進めるには、外部・内部の組織能力、顧客との関係を可視化するために、「自社関係図」を作成する。自社の強み、弱み、特徴から独自の組織能力を明らかにし、次に、競合先との優劣、既存の顧客、提供している製品・サービス、自社と顧客先との関係から顧客先の購買を決定する要因と決定者を特定し、提供している顧客価値を明確する。
また、協力会社、外注先と自社との間で、自社の能力発揮のためにはどのよう外部能力が必要なのかを明確し、「自社関係図」に組織能力、顧客価値、外部能力を体系的に表す。
この関係図から、①どのような顧客に価値を提供するのか②顧客価値を創造するのか③活かす能力と不要な能力は何か④どの組織能力を強化するのか⑤環境変化を予測し、新たな顧客価値に必要な組織能力は何か―などを確認し、どのように顧客価値を高めて、深耕拡大、新規開拓を進めるのか、そのために外部能力を含めた自社に必須の組織能力を想定し、業績向上への道筋を立てる。
業績向上を掲げた経営目標の達成に向けて、経営トップが積極的に関与し、組織能力の創造と維持・向上を図る活動項目を全社部門で策定する。活動項目ごとの活動を各部門が期限までに必ず実施し、検証、見直しを推進することで、業績低迷からの脱却ができる。
(平成25年11月28日 日刊工業新聞掲載)

職位と偉さと役割の区分 

組織に人をつける/職位はマネジメント単位と一致

福島光伸(埼玉支部)

多くの企業では職位を役割ではなく、偉さを表すものとして使っています。そこに組織内におけるマネジメント展開の大きな問題点が発生します。
「長く勤めてくれたからそろそろ課長に」とか、「Aさんが部長ならBさんは次長に」とかいうように職位を偉さの序列、あるいは褒賞としてのアイテムとしているのです。
本来部長は部の長であり、課長は課の長であるはずです。部を持たない部長、課を持たない課長などは存在すること自体がおかしく、そのような状況が組織内マネジメントを混乱させるのです。 部長と職位が付いているあの人からの指示は無視できないというのはおかしい考えではないでしょう。しかし、自分が所属している部の部長ではなく、ただ単に○○部長からの指示ということであった場合それが組織的にみてどのような意味を持つのか。自分の所属している部長の意見と異なっていた場合、どちらを聞くべきなのかマネジメント視点から見た場合混乱を生じてきます。
「職位はマネジメント単位と一致させる」それが組織内マネジメントを混乱させない条件です。
「部長」とは、部をマネジメントする人であり、管轄する部単位の役割をはたして高度な成果を上げる人のことです。 例えば、部が三つしかない会社で部長相当のマネジメント力(偉さではありません)を持つ人がいた場合、人に組織をつけるのではなく、組織に人をつけるべきです。
前者の考えでは「部はないが部長にしておこう」あるいは「部長だけの部を作っておこう」ということでしょうが、ポジションがなく部長が必要ないなら、あえて部長は作らずその(仮にA氏)は課のマネジメントとしては部長の能力があるわけですから「課長」に位置づけます。
なんらかの理由で能力のあるA氏に課長職でさえ職位を与える余地がないという場合は、部長相当の社内資格等級に位置づけ、ほぼ同じ給与とします。他の部長とA氏の異なりは、職位手当がつくかつかないかになりますし、もし会社の都合で他の部長が部長職から外れた場合は部長手当のみなくなります。
職位手当はあくまでもその役割に支払われている「手当」だからです。このように考えて職位制度は設計すべきです
(平成25年12月5日 日刊工業新聞掲載)

人間中心イノベーション

「世のため人のため」人間力磨け/凛とした規範も必要

河上 晃(近畿支部)

2013年10月に東京都内で女子高生殺人という凄惨な事件が発生した。
コンサルタントとして被害者のご冥福を祈りながら、事件と経営について考えた。 犯行の動機は、交際相手より「別れ話」を持ち出され、「復縁を迫った」が果たせず、殺人に及んだということである。「別れ話」や「復縁」という言葉は大人の愛憎の世界と考えられるが、現在では高校生はおろか中学生の会話にも出てくる。
掘り下げると、社会規範の境界が曖昧になっているといえる。 従来マーケティングでは新規需要先として若者に焦点を当てたものや新需要開拓先として、例えば、従前は男性大人用として受け入れられていたものを女性や若者(子供)へと広げていった。 そのせいか電車の中で高校生の「焼き鳥は皮、ハツ、肝、白子がうまい店に行こう」などの会話が耳に入る。
思春期頃に抱いた大人の世界を垣間見る興味と挑戦を、若者を庇護したかのように大人から提供している。 経営の視点では、グローバル競争の中で日本企業の苦境が話題になる。
大きな要因として、「革新的な商品開発力が弱い」と指摘されている。戦後の成長期は「キャッチアップモデル」で成功したものの、バブル経済崩壊後の苦境からはいまだに脱し切れず、バブル後の20年間に世界の国内総生産(GDP)は約2倍に拡大したが、日本のGDPは停滞したままだ。
技術や品質は世界水準でも新興国の普及品や欧州のブランド力に押され、日本独自の高 付加価値化や差別化ができずに低迷している。
アンゾフの多角化戦略には商品・市場共に新分野への挑戦が提示されている。換言すれ ば自社の能力プロフィールの境界から未踏の世界へ踏み出し、自社の現有能力のシナジー 効果を上げることが求められる。
市場に潜在する想いを感知して翻訳した商品を創出するプロセスへの人間中心イノベーションが期待され、それには深い教養とビジネスセンス、志を備えた人間力が求められる。
青白い論理になるが「世のため人のため」に企業は存在する。社会の共通善の実現には人が感性で直感した信念(志)をプロセスへと展開する人間力が必須になる。欧州のビジネスマンはシェイクスピアを修得して一人前というが、現在の日本のビジネスマンにも「郷土史」や、「古典」、「日本文学」に親しみ、アイデンティティを矜持する凛とした規範が必要かと考え、提言する。 (平成25年12月12日 日刊工業新聞掲載)

地域社会をみんなでケア(お互いさまに支えあい)

高齢化時代の「生活づくり」/「三方よし」で解決を

河上 晃(近畿支部)

社会保障や年金に比べると目立たないものの、生活の基盤というべき買い物事情が逼迫
している。(先進的な活動をしている地域も存在している)
わが国は、世界でも有数の富裕国に なったはずだが、満足な買い物もできずに苦悩している人たちがいることに目を向けるべきである。 高度成長期以降に造成されたニュータウンでは高齢化が進んでいる。(全国で65歳以上 の高齢者のみ世帯数1120万世帯『2010年国勢調査』、13年には全人口で高齢化率25% の予想『2012年高齢社会白書』) この間、大型ショッピングモールやスーパーは増加しているが、小売商店の店舗数は想像を絶するほどに減少している。
特に生活に密着した飲食料品小売店は1982年を100として09年には実に50%強の存在になっている。
高齢者は3K(健康、経済、孤独)のどれかを欠いていることが多い。また買い物が負担に なり、健康の基になる食事もあり合わせでしのいでいる人たちもいる。 一般に人が抵抗なく歩ける距離は約400メートル程度といわれるが、買い物をしたくても徒歩で行けるところに商店がない現実がある。また公共交通機関での買い物には乗り場 が遠いとか、体力的な不安や利用料金の心配もある。 移動販売や配達サービス、買い物代行などもあるが高齢者の利用しがたい想いにも寄り添う必要がある。 食品の購入に現物を見て買いたいという意識も強い。
自分で見て・考え購入すること で買い物にもはりあいがでる。買い物は生活必需品を揃えると共に、生き生き生活する生 活機能を維持する効果もある。 これまで小売商店はお客さまを店舗に誘引し、いかに買っていただくかに注力してきた。
高齢者の買い物は特別な場合を除くと購入店・品目・量の概略は予想できる販売条件だ が、上記のように販売する側と高齢者との間にミスマッチが生じている。
解決には、三方よしでパラダイムシフトした地域での支えあいが必要と考える。行政は社会福祉の一つとして高齢者に生活必需品購入の場を提案すべきであり、商業者は買い物での出会いを通して地域社会を維持し、若年者もコミュニティの一員として参加を求められ、私たち経営士も地域住民、商業者、行政と協働して地域社会のケアの推進が必要である。
わが国の強みである「モノづくりのしくみ」を、地域ニーズに対応した「生活づくりのしくみ」へ昇華させる地域社会ケアの活動が求められていると考える。 (平成25年12月19日 日刊工業新聞掲載)

グラデーション化で障がい者雇用は変わる

自社に新しい色を織り交ぜ/個人の強み引き出す

佐藤 仙務(中部支部)

近年、障がい者の雇用に積極的に取り組む企業が増えている。厚生労働省の調査でも障がい者の雇用率は年々上昇していて、平成25年(2013年)の調査では、1.76%と過去最高水準に達した。
筆者も身体に重度の障がいがあり、自分の身体で自由なところは両手親指を1センチメートル動かせることと、そして、会話をすることのみである。つまり、生まれつき全介助の寝たきり生活を送っている重度障がい者だ。しかし、筆者は最年少で経営士となり、そしてたった今、こうして読者の皆様へ問いかけをさせていただいている。
その理由は何故か。それは筆者が経営士とは別に起業家としての一面を持っているからだ。当時、19歳の筆者は同じ障がいを患っている同志とともに、ウェブ製作会社を起業したことが大きく起因している。
そこで今回、筆者がこの場で提言させていただきたいのが「若き起業家の夢」でも「重度障がい者としての闘病話」でもなく、今の時代であれば寝たきり生活を送っているような筆者でも起業ができるという点である。その背景には急速に進歩するIT環境の恩恵もあるが、何より、障がい者に対する“社会の変革”というのも少なからず影響しているだろう。
その一例として、ユニクロがある。障がい者雇用を社会への還元という捉え方だけでなく、障がいのある人と一緒に働くことで、実は企業側にとっても非常に得られるものがあったという。ただ、これは大企業のケースであって、一般的な中小零細企業にとっての障がい者雇用というのはまだまだ対応力がない。
では、これからの障がい者雇用に対して中小零細企業はどうあるべきかを考えてみたいと思う。ちなみに、筆者が導き出した答えは「企業のグラデーション化」である。グラデーションとは、物事の段階的、時間的における変化の総称のことで、一般的にデザイン分野で広く使われる用語だ。
つまり、雇用の問題の目指す先とはグラデーションのように白か黒かではなく、企業側が個人に合わせた環境を提供し、その人だけの色を見つけ出すことが今後求められてくる。
彼らのいい面に目を向け、それを強みとして引き出すことができれば、事業の生産性や継続性の向上に大きくつながるはずだ。 (平成26年1月16日 日刊工業新聞掲載)

情報を経営に活かし儲けにつなげる

「ナレッジ・マネジメント」/組織全体で共有・活用  

矢島 英夫(東京支部)

企業経営にとって役立つ様々な要素・能力のことを「経営資源」という。これには、ヒト・モノ・カネの次に第4の経営資源の情報がある。
1995年のウィンドウズ95の出現から始まるIT(インフォメーション・テクノロジー)の発展は目覚ましい。 日本においては、官から民への郵政改革によって、情報とりわけ通信関連の発展は目覚ましい。今や、情報なくして、生きていけない世の中になった。大量の情報量の処理は、一方向から双方向の時代になった、テレビ通信においても、アナログより情報の量が圧倒的に多く送れるデジタルに切り替わり、電話においてもデジタル信号を使う光通信に切り替わった。
一つの政策の変更によって劇的に代わったのである。情報でのインターネットの発達は、軍用が民間に解放されたことによる賜物である。
さて、情報をいかに利用するか。良い情報、悪い情報の峻別を如何にして行うかが問題である。100%良い、100%悪い情報というものは、無い。 情報の活かし方としては、ヒトがデータに意味付けし、解釈を施して初めて生の「データ」が「情報」へと変化する。例えば、表計算ソフトを使うと数値が出力される。その状態では,単なる「データ」である。「このデータは,この観点からみると、今後の販売促進に役立つはずだ」といった解釈を付けることにより,生のデータが情報へと変化する。
「情報」が更に変貌すると第5の経営資源の「知識」(ナレッジ)となる。知識は更に「ナレッジ・マネジメント」となる。ナレッジ・マネジメントとは、情報技術の発展によって、個人の持つ知識を組織全体で共有し、有効に活用することで業績を上げようという経営手法である。
この場合の知識とは、経験や仕事のノウハウと幅広いものを指し、近年、経営資源に新技術(ナノテク、バイオ技術)などや企業文化・風土なども含めている。 常に情報が中心に動く時代において、経営者にとって情報は、唯一の判断材料と業務の改善点を指摘してくれる点で得難い。
情報を最大限に活かせば企業の儲けは大きく影響を受ける。時代の流れに見放されないためにも、情報を先取りしていくことは企業経営には、重要です。 (平成26年1月23日 日刊工業新聞掲載

中堅・中小企業の外国人留学生の採用とその活用 ㊤ 

優秀な人材確保職場に活力/マイナス面克服カギ

長谷川正博(東京支部)

日本社会の少子高齢化・人口減少などにより国内市場は縮小を余儀なくされており、成長の機会は海外市場に求めるしかなくなってきた。 これに加え、環太平洋連携協定(TPP)、東アジア地域包括的連携協定(RCEP)への加盟による国際的競争が更に激しくなることも考えられ、中堅・中小企業(以下「中小企業」という)の、自社の生き残りをかけたアジア新興国等への海外進出(輸出および企業進出)に拍車がかかっている。
帝国デ-タバンクの調査によると、日本企業の海外進出のきっかけの上位5要因は、①国内市場の縮小、②新たな事業展開、③取引先の海外進出、④労働力の確保・利用、⑤ボリューム・ゾーンなどの市場・販路開拓が上位を占めた。
このような環境下にあって、中小企業の喫緊の課題の一つとしては、海外の企業に伍して競争出来る実力を備えた人材(グローバル人材)の確保・育成である。自社の競争力の維持・強化には、優れた自社製品・サービスの提供とともに、国籍を問わず優秀な人材を確保し、活用することが重要となっている。
一方、2013年12月20日で、年間の訪日外国人数が1,000万人になったと報道されたが、外国人の国内での消費拡大(外国人パワー)にも期待がかけられており、この面からも「企業の国際化」が求められていると言えよう。 このようにこれからの中小企業は内需型企業といえども国際化・グローバル化への脱皮が必須である。このような企業の期待を担うべき人材として、国際感覚を持ち語学に堪能な日本人とともに、外国人留学生の採用・活用を積極的に行っていくことが、これからの国際化路線をとる企業にとって必要な要件となろう。
10年6月6日付日本経済新聞で報告された「外国人のいることのプラス面は?」(二つまで選択)の上位5項目は、①アイデアが生まれやすいなど職場の活力が増す②職場に変化が生まれる③日本人が分からない業務上の課題が分かる④外国語を習得しやすくなる⑤海外関連事業を手掛けやすいなど職場の活力が増したり、切磋琢磨により、自分も磨かれる等の積極的評価が聞かれた。
反面、以心伝心が難しい、自分の影が薄くなる、彼らの日本語力の問題などのマイナス面もあった。これらのマイナス面を克服していくことにより国際化の達成に通じるのではないだろうか。(3回連載) (平成26年1月30日 日刊工業新聞掲載)

 中堅・中小企業の外国人留学生の採用とその活用 ㊥ 

 業務・期待する役割明確に説明/人生計画も確認を

長谷川正博(東京支部)

外国人留学生を採用する企業側のニーズとしては、海外現法とのブリッジとなる人材、将来の海外展開に備え現地幹部候補となる人材、アジア圏への販路開拓・拡大のため海外営業が出来る人材、国籍を問わず優秀な人材、社内のグローバル化・ダイ―バーシティー化のため多様な人材を求めるなどである。
既に海外に現法を持っていたり、将来設立する計画のある企業は、現地側のマネージャークラスとしての活躍を期待したり、日本本社と海外とをつなぐブリッジとしての活躍を求めたり、自社内の国際化、所謂「内なる国際化」を実現し今後の流れに対応できるよう社員の多様化を図りたい、等の期待がみてとれる。
ある外国人留学生専門の就職斡旋企業の事例では、紹介した中国人留学生を海外営業職として採用した企業が、数年で中国・台湾の取引先での自社製品のシェアが大幅に伸び業績拡大に役立ったケースや、技術開発力で優位に立つため、国籍を問わず優秀な理工系人材を採用し業績を上げている企業もあるという。
一方、日本で就職を希望する外国人留学生の中には、「希望する仕事があれば企業規模や場所にこだわらない」「早い段階から責任を負い、さまざまな仕事を通じて経験を積みたい」など、中小企業の業務環境に向いた職業観や志望動機を持つ留学生も多い。 中小企業は、このようなニーズも踏まえ、大手企業とは異なる中小企業での働き方や、自社で働く魅力を具体的にPRすることで、自社にあった価値観を持つ留学生を採用することが可能である。
そのためには、留学生に対し、業務や期待する役割を明確に説明することが重要となる。 状況に応じて、語学力を活用し、外国人としての価値を理解し、社内で「オンリーワン」を感じられる仕事を柔軟に割り当てる工夫も必要であろう。
また、外国人留学生の採用を考えている中小企業で、一つ留意しなければならないことは、ほとんどの留学生は就職後一定の期間(最低4~5年間)は日本で仕事を続けることを希望しており、採用後短期間で母国や海外に出ていくことには抵抗感があるということだ。
採用後にすぐ海外に派遣したいと考えている企業側の思惑と、この面で、ミスマッチが起きているケースもある事を見聞するが、彼らの人生計画等も良く確認し、それに沿った対応を採るべきであろう。 (平成26年2月13日 日刊工業新聞掲載)

中堅・中小企業の外国人留学生の採用とその活用 ㊦ 

日本人従業員と差別しない/労働関係法規の習熟を

長谷川正博(東京支部)

企業側として、外国人を雇用するために留意しておかねばならない点は、①何の目的で雇用し、どのような業務を担当させるのかを明確にしておくこと②日本で就職する外国人は日本の雇用慣行やその企業風土に従わねばならないが、企業側も彼らの持っている特性や文化の違いを十分理解し対処すること③担当業務を詳細に、明確に定めることや、業務指示も明確に出すことを心掛けること④社内の評価システムをよく説明し理解させることである。
また、外国人の採用にあたっては、外国人であっても日本国内で就労する場合には、日本人と同様、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害保険法などが適用される事も忘れてはならない。
いわゆる日本人との差別はしてはならないということだ。
外国人の就労に関しては、日本に生活基盤を有していないことや日本の労働慣行に習熟していないことなどからさまざまな問題が起こりがちである。 それらを回避するためにも、「外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針」(厚生労働省)を守り、彼らに日本の労働関係法規を理解させたり、自社の企業文化の習熟など企業側の努力も必要である。
他面、自社の国際化を図るために、外国人留学生を採用したいとの希望を持ってはいるものの、企業知名度の不足、情報発信力不足などの制約のために留学生とのマッチングが出来ないという中小企業も多いという実態もある。外国人留学生の求人活動としては、ハローワークへの登録、大学の就職課(キャリアセンター)への照会などあるが、自社が望む人材を効率よく見い出すためには、コストはかかるが、人材紹介企業、それも外国人留学生に特化した企業に依頼することが効果的である。
筆者が所属する日本経営士会は中小企業の経営活性化に力を入れている。この一環として、国際化の一助となり企業と留学生のマッチングに少しでも役に立ちたいとの思いから、2013年5月に外国人留学生専門の就職斡旋企業(東京都小平市)と業務協定を結んだ。東京を中心とした関東圏の中小企業を対象にこの種の支援も行っており、また、外国人の活用に関するエッセンスをまとめたパンフ的なものも作成しているので、関心のある企業の方は下記に問い合せ頂きたい。
外国人留学生を採用し彼らを効果的に活用することを通じて、自社の国際化達成に結び付けて頂きたいと念願している。 (平成26年2月20日 日刊工業新聞掲載)

味一筋の焼きもち店(新しい成長モデルへの一考)

根気強く地域で味追求/時代に流されず事業深堀り

  河上 晃(近畿支部)

吉野の深山を起源として古くから歴史を育み、地域に恵みをもたらしてきた奈良県吉野川沿い に、毎日の商いを午前中に終わる焼き餅店(K店)がある。古街道沿いで約140年前から旅人への 焼き餅の販売で知られ、江戸・明治・大正・昭和・平成の時代の変遷と嗜好の変化にさらされながら も一心に商いを続けてきたお店である。
K店で一つひとつ丁寧に作られる焼き餅は、「ほおばると頃合いの良い餡の甘さと、噛みごたえ のある周囲の餅(固くはなく粘り強い餠本来の味)との相性もぴったり、さらに鉄板で焼かれた焦げ 目との色合いが美味しさを倍増させる」、春はよもぎ・初夏から秋はみたらしと旬(季節)の味も楽しめ る。
手作りの少量生産で賞味期限は当日中など品質重視、単品主義の強みを活かした販売をされ ている。 大量生産や大量消費がもてはやされた時代にも、規模の拡大ではなく根気強く地域で味を追求 しつづけた経営も注目に値する。
グローバル化のもとに、海外市場(新興国)への進出が集中豪雨的な潮流になっている。過去の成功体験での進出だけでなく、新興国のCSV(共通価値の創造)の要請にも応えることも求められている。 私たちは、昭和の高度成長期から平成になっても、「より早く、よりたくさん・・など」前進と拡大を 第一と考え、人より早く前に出るとか、階段を上がるためのビジネス技術を磨いてきた。 しかし、ビジネスはアクセルを踏むと同様に、ブレーキをかける、立ち止まる、考える(検証する)ことも重要で、個々のステージごとに使い分けるビジネスのハンドリング技術が現在では求められている。
わが国では、高齢化のスピードとともに、ボリューム(高齢者数の多さ))も問題になる。2025年の 高齢者人口は約3,500万人(10年国勢調査より)と予測されるなど、人類の未踏ゾーンへ進んで いくことになる。
その中で住みやすい活力ある社会を維持するには、これまでの通念を打破しながら、高齢者予 備軍の技術や経験を尊重して、社会へ還元する仕組みづくりや、地域資源を活用した事業の深掘りが必要である。
そうして個を尊重した新しいコミュニティの創造と、地域活力の創造とを両立させた新しい成長モ デルの創出が世界に先駆けて求められている。時代に流されずに一心に事業を深掘りしてきた小 さな生業店の歴史は、日本の課題解決の一考になるのではないかと考え、提言する。 (平成26年2月27日 日刊工業新聞掲載)

新聞を読む効用(新入・若手社員への薦め)

深い考察・知見習得/コンセプチュアルスキルを高める

   河上 晃(近畿支部)

新聞を読む人が急速に減少している。例えば、新聞発行部数は、2000年の5,370万部から12 年では4,778万部へ、「新聞を読む」時間も、20代では05年からの5年間で一日当たりの接触 平均時間は「5・44分」から「1・44分」へと減少している。(平成23年版 情報通信白書)。
私たちを振り返ると、テレビ、雑誌からの情報収集や周りからの教えも勿論ながら、新聞を読んで一般常識を身に付けたり、社会の動きを意識していた面も大きかった。 現在では、ネットで最新のニュースやその関連情報も直ぐに検索でき、雑誌類も細かいノウハウ ものがあり、スキルを身につけるには便利な環境にある。しかし、ノウハウものだけでは、自分自身 の深い考察や知見の修得は難しい。
新聞は情報の山と言える。国内外の政治・経済の動きから一般読者の意見まで、朝刊には約18 万字(新書の一冊以上)の情報があり、さらに見出しや記事のレイアウトは読み始める基準にもなる。 新聞をしっかり読み、その後にテレビやラジオの解説で考えを深め、さらには足りないところをネットで検索して補えば深い考察や知見の修得に最適である。
新入・若手社員が社会人として経験を重ね、上位の仕事へと進む上で重要な能力の一つにコンセプチュアルスキル(概念化能力)があげられる。
「知識や情報などを体系的に組み合わせ、複雑な事象をまとめることにより、ものごとの大枠を理解する能力」といわれ、平たく言えば「要約して伝える、できごとの背景を掴む、可視化されないことを想像する能力」といえる。
このコンセプチュアルスキルを高めるための経験は若いうちの仕事に多くある。
例えば、仕事に 優先順位をつける、不在者への電話の適切な対応や、コピーした資料を見やすいように整える・・ ・・など、これまで心遣い、気働きといわれたことを、相手軸に立ち、職場の方向性を読んで意識し て行うことができれば、コンセプチュアルスキルの向上につながる。
スキル向上への一歩は自ら幅広く情報を集める、整理する、深堀することであり、新聞を読むことはそのための大きな要素といえる。
もうすぐ入社式の時期になるが、新入社員にかぎらず若手社員に対して、先輩社員や企業の職制は深い考察や知見の修得のために、新聞の購読を勧めるべきと提言する。 (平成26年3月6日 日刊工業新聞掲載)

企業と寿命

長寿のコツは“適温適圧”/リアルタイムを生きる

   矢島 英夫(東京支部)

衣食住の住の建物、ヒトモノカネの人、大中小の企業にも寿命がある。建物、人、企業の一代の寿命は、長くて30-35年である。建物は、鉄筋コンクリート造、戸建であっても寿命は、35年くらいで建替が行なわれる。人も同じで、働き盛りは、30-35年位。企業でも一代は、だいたい人と同じである。老舗の企業は、代々継続している。
人では、きんさんぎんさんは即応力あるいは対応力で長生きした。企業の長寿には、1か0のデジタルでなくアナログ的思考が有効である。言葉で言うと、良い按配とか、良い加減とかいう心の持ち方である。
良い按配、良い加減は、例えば風呂の温度である。38度Cから42度Cの範囲に個人個人の適温がある。最適な温度であれば、人はリラックスでき、疲れ、ストレスがとれる。また、人の体温、血圧である。それぞれに適温適圧がある。その範囲を超えたり、下がったりすると身体は、変調を来す。
企業は人同士の集りであり、人の適温適圧の中、企業自体で培われてきた企業文化・風土をうまく活用することにより、最適な範囲で身の丈にあった企業にすることが長続きするコツである。人の集合体である企業は、1人のリスクは企業全体のリスクにもなりうるので注意すべきである。
世界最長の寿命を持つ金剛組は、1400年続く企業である。35年の代表の寿命で、1400年で40代の代表交代があった。大阪四天王寺の隣地に社屋を構え、四天王寺とともに生きた企業である。 社是は伝統と技術を駆使し教えを弁(わきま)え、仕事にあたり社業の発展を通じて社会に貢献する理念のもと、初代金剛重光から現在まで、脈々と続いた。四天王寺は戦禍で焼かれてもその度建替えた。それは4回にも及ぶ。焼失ごとに平坦な土地に3次元の寺院を復活させ、4次元の時空を生きてきた。これは、点・線・面・球へと広がり更に4次元の時空の考え方となり、過去現在未来とつながる。
人、企業は、現在というリアルタイムを生きている。最善・最適なものは何か、デジタルでなくアナログ的に全体を俯瞰し、適温適圧適リスクをうまく使って、年相応の知識と体力を使い、経験を活かし技術を活用し、円滑なバトンタッチにより、長く良い世間に合致した企業が生まれると思う。 (平成26年3月13日 日刊工業新聞掲載)

中小企業の会計基準

キャッシュ・フロー計算書/米英基準と比較・検討を

   岡部勝成(九州支部)

わが国の中小企業における会計基準にはキャッシュ・フロー計算書が必要ないのであろうか。右山(2013年)は,中小企業において,事業により使える現金預金が増えるか,減るかが最大の関心ごとと言える。すなわち,同族企業の多い中小企業は,株主に対する会計情報よりも取引先の会計報告により取引先の安全性が第一であろう。とりわけ暫定措置として,差額キャッシュ・フロー計算書の作成を提言している。しかしながら,諸外国との比較を見るとわが国中小企業会計基準では基本財務諸表にキャッシュ・フロー計算書が内包されていないことが,浮き彫りとなってきた。これは,キャッシュ・フロー計算書の語彙が,2005年8月に関係四団体(日本税理士会連合会,日本公認会計士協会,日本商工会議所,企業会計基準委員会)から公表された中小企業の会計指針には記載されているが,2012年2月には金融庁と中小企業庁が共同事務局を務めた中小企業の会計に関する検討会から公表された中小企業の会計に関する基本要領には語彙が記載されていないことからもわかる。現在,中小企業に対して2つの会計基準が存在していることになっているのである。
2013年6月にアメリカにおいて米国公認会計士協会(AICPA)は,新たな中小企業向け会計基準として「中小企業のための財務報告フレームワーク」(以下,FRF for SMEsという: Financial Reporting Framework for Small- and Medium-sized Entities)を公表した。その中で,基本財務諸表として第8章にキャッシュ・フロー計算書が記載されている。一方,中小企業版国際会計基準(以下,IFRS for SMEsという。)においても,基本財務諸表として第7章にキャッシュ・フロー計算書が記載されている。営業活動によるキャッシュ・フローの報告は,直接法または間接法を特に奨励していない。しかし,完全版国際会計基準(IFRS)では,直接法または間接法によるが直接法を奨励している。これは,大企業においてもアメリカと同様な形式が採られている。
わが国の会計基準やその制度構築に多大な影響を与えたアメリカおよび昨今,とりわけIFRS for SMEsおよびイギリスとのキャッシュ・フロー計算書にフォーカスした比較・検討を行い,そこからわが国の中小企業会計におけるキャッシュ・フロー計算書の課題や今後の展望を考察することは必要であろう。(平成26年3月20日 日刊工業新聞掲載)

続・科学立国、技術立国なら

過失か作為か明確に/基本の重視・論理観の醸成を

   塚本裕宥〈北関東支部〉

 3月15日付「STAP細胞 証明できず」の報道があり、この提言をする。若い女性研究者を持ち上げたと思ったら、突き落とすような報道姿勢には、研究者育成の暖かい視線がない。残念だが、基本の軽視と倫理観の欠如を感ずる。成功した、しそうなら誉め、失敗した、しそうなら徹底して叩く、そんな報道にうんざりする。冷静、理性的に臨んで欲しい。
 本欄で2013年5月16日付「計量法・単位記号の尊重を」、7月18日付「科学立国・技術立国なら」と題して、提言した。その中で、些細なことだが、単位記号の尊重を提言した。
さらに最近は科学や技術の領域では、質量系の時代のはず、日本の教育では、大学まで質量系で学ぶのに、社会人になった途端、重量系に戻ってしまう、不思議な国だと指摘。これら基本を徹底することが、科学立国、技術立国の出発点であると提言した。
基本を軽視する社会風潮が、倫理観の欠如に結びつくことを懸念、それが的中なら残念である。
私は企業における単位記号のご意見番であった。新入社員が2年間の研修を終え、その発表会で単位記号を粗末に扱うと、小さなことだが将来のためとの思いから、考え違いをきつく諭した。定年後も科学・技術的文献作成の際、金属の顕微鏡写真を示すのに、単位の表記で直立体への訂正を求めた。文献作成者は、嫌な顔せず正していたことを思い出す。科学立国、技術立国を支えると考えたからだ。
 STAP細胞の記事に「論文発表直後から、世界中の研究者のあら探しによって問題点があぶりだされ、最高権威だった科学誌の審査が機能せず、草の根的なレビューが機能したという点でも興味深い」とあり、私のような草の根的提言が役立つことを願う。その実在性に信念を持っていれば、論文を撤回せず、訂正や続報で対応すべきだ、「撤回なら、故意のデータ操作や捏造など不正ありと世界はみなす」の旨記載もあり、過失か作為か明確にするよう対応して欲しい。広く科学・技術に関わる者として切望する。
 この報道事例では、未解明が多く、正確なことは言えないが、基本の重視や倫理観の醸成、若い頃からの教育が大切と思う。私が言いたいのは、この1点のみだ。(平成26年3月27日 日刊工業新聞掲載)

コップの中の争いはやめよう

人口減、各種施設は統廃合を/我らの子孫と我らのために

   塚本裕宥(北関東支部)

 国立社会保障・人口問題研究所の推計のように、日本は移民受入国にならぬ限り、人口減は止まらないはず。国民の多くは自覚している。その実態認識や処方箋検討に、週刊東洋経済2月22日号「人口減少の真実 甘く見るな!本当の怖さ」の熟読をお勧めする。
 1000兆円もの後世負担があることも多くの国民は自覚しており、若い世代への負担増を防ぐには、各種施設の統廃合が必要で、本欄で提言したことが何度もある。
しかし、私の地元、茨城県や日立市を見る限り、短期間で実現するとは思えないが、提言が生きた形跡はない。
最近、県内のある市は、市立小学校7校→2校への統合案を「統合で逆に財政負担は増す、住民の意見が反映できておらず拙速だ」と審議会で否決、本会議でも否決の公算が大だ。コップの中の争いをしている時だろうか。いっそのこと、市長の専権事項で予算を執行、統合するのが適切とも思える。
 冷静、理性的に考えて欲しいものだ。この先30年、50年も、100年かも知れない、人口は減り続ける。今なら、統合に必要な適切で有効な投資ができる。この機会を逃がしたら、将来に禍根を残す。
 夕張の悲劇として、小学校6校、中学校3校→各1校に統合せざるを得なかった事実を忘れたくないものだ。
 話を日立市に移す。日立市には教育委員会 生涯学習課があり、当課には税金で支援の百年塾(当課傘下の従属とも独立機関とも見え、所属者に拘束性がなく不思議な組織)が所属、当塾中に産業や街作り寄与の「産業部会」、無料(他では有料もあり)で観光案内の「まち案内人」の2組織がある。
 この2組織は県なら、商工労働部、通常の市役所なら、商工振興課、観光物産課、または、商工会議所、観光協会等の所属が適切なはずだ。これなど、コップの中の勢力争いや古き慣行の遺物と思えてならない。
どう見ても課名からも他都市と比べても、生涯学習課管轄では理解できない。早急に現状打破して、産業部会、まち案内人の組織は経営センスを磨き、税による支援から脱却、自立を図るのが適切と思える。
基本は「我らの子孫と我らのために」だ。コップの中の争いはやめよう。(平成26年4月3日 日刊工業新聞掲載)

遠くて近い国際理解・観光立国

語学力生かし民民外交を/社会人の貢献活動提案

  塚本裕宥(北関東支部)

 外国語に堪能な社会(組織、企業)人への呼び掛けである。あなたの英・中国・韓国・ロシア・ドイツ、その他の言語力と海外経験を生かして欲しい。民々外交で近隣のぎくしゃくした関係改善に繋がれば更に幸いだ。
 外国語に少しの自信があったら、「私が支援するので、貴中学校から海外の学校に情報発信しよう」の趣旨で、近隣の中学校の外国語教師に、誠意ある呼び掛けをして欲しい。下駄履き感覚で直接訪問すればなおよい。担当教師は生きた外国語学習を望んでおり、以下は成功例に基づくもので、教師の時間的制約から、望んでもできない教育方法である。
中学校の立地状況、入学や卒業式、給食、掃除、運動会、文化祭、日本的なお茶や剣道等のクラブ活動、学校のお宝といえる物や活動の簡単な紹介を英語などでまとめる。日常の写真を使うのが適切、簡潔な説明で十分である。
 学校のホームページに掲載してもよいが、あなたの現地の信頼できる知人あてメールなどで送り、現地の教師に届けてもらうと効果的である。
 海外の相手は身近なことに反応する。そこから国際理解が始まる。
 説明文は文法など少々無視してよい。当方は「日本語は正しく遣えるが、中学生の外国語につき、怪しい点があったら、ご容赦を・・・」等と正直にやり取りすればよい。相互の文化理解になる。具体的な提案である。
 こんなやりとりで、あなたの外国(語)経験で社会貢献できる。この提案を見て、思いついたら、早速あなたの学区の中学校に出掛けよう。当該校の外国語教師は感謝の心で対応するだろう。あなたの語学力も生かせる。
 これぞ社会人の貢献活動であり、国際理解・観光立国の入り口である。卒業旅行に日本訪問の可能性も期待できる。予想外に遠くて近い観光立国に繋がるだろう。
 コップ(学校内)の中の争いがある?そんなことを気に掛ける必要はない、乗ってくる担当教師に、まずは呼び掛ければよい。
 私は語学力が伴わず直接的なことはきないが、この欄で「大連研修ツアー」のことを紹介したことがあり、支援の橋渡し役はできる。支援したい。
国際理解・観光立国とは、こんな草の根の活動が出発点のはずだ。(平成26年4月10日 日刊工業新聞掲載)

市民後見人(参画型社会福祉の到来)

老いを社会的に支え合う/「おかげさま」の心で協働

   河上 晃(近畿支部)

3月15日に大阪でとても元気の出るシンポジウムが開催された。“これぞ大阪の底力”
「地域の権利擁護をすすめる市民後見人の活動」(主催=大阪府社会福祉協議会大阪後見セン
ター他)である。
〈注釈〉市民後見人とは、家庭裁判所から成年後見人等として選任された一般市民のこと。
(報酬を前提としない)
高齢化が進む中で、誰もが住み慣れた地域で安心して自分らしく暮らすことを目指す権
利擁護の充実と地域福祉活動として、判断能力が十分でない人の生活を身近な市民の立場
で支援する「市民後見人」の活動が全国で進んでいる。
わが国の認知症高齢者の現状は、2010年で65歳以上の高齢者人口2,874万人中、認知
症が有病率15%で約440万人、さらにMCI(正常と認知症の中間の層で、全ての人が認知
症になるのではない)有病率推定が13%で約380万人と推定されている。
高齢化社会、認知症、成年後見とは、ビジネスマン時代には縁遠く感じる。
しかし、定年退職の節目を迎えて家族・親戚・地域との関係性の希薄化や生活の安心や
安全の変容に接して愕然とする。高齢者の単独世帯や夫婦のみ世帯の増加や、都市部でも
急速な高齢化が進み、成年後見も50%以上を親族以外が選任されるなど、地域福祉に新し
い担い手が求められている。
定年退職後に何かやってみたいという人は多い。これまでのビジネスマン生活とは大きく
違うが、市民後見人として地域福祉活動に参画することも、第二の人生として有意義では
なかろうか。
平均寿命が男性約79歳、女性約86歳とこれからの活動(自己実現)に十分な時間もある。
もちろん、高齢者に寄り添い、高齢者のスピードに合わせた市民後見活動は従前のビジネ
ス環境とは大きく違う。
高齢社会の進展に伴い出現する新しい生活課題の解決や、老いを社会的に支え合うために、
私たちの行動をどう変えるかなどは、これまで福祉活動の中心を担っていた専門職の人たち
と、社会経験豊かなシニア世代との協働によって克服できるのではないだろうか。
お金という客観的な尺度では測れない、善意の経済ともいうべきお互いさまの社会福祉の
実現は、何かを成し遂げられたのは、周りのいろんな人のおかげと感謝する「おかげさま」
の心を持つ日本人によるイノベーションが発端になると考える。
 参考資料  (出典 大不況は日本型資本主義で乗り切れ 田坂 広志共著 文芸春秋社)
(出典 市民後見人・成年後見制度啓発シンポジウム資料)
(平成26年4月17日 日刊工業新聞掲載)

2050年の超過疎化への対応(上)

小中学校運営で一考/地方中規模都市に集団移転を

   塚本裕宥(北関東支部)

 課題を先送りしていれば、失われた10年・20年のように瞬く間に、時は過ぎる。解決の方策は問わぬ。何らかの形で本提言を生かしたい。2030年、50年を目指す提言である。この提言を書いていたら、3月29日付「2050年、国土の6割が無人」との報道、わが意を得たりである。国交省は今夏をめどに、人口減少に備えた国土整備の基本方針をまとめる予定の旨だ。それに先行した提言である。
 日本の戦後復興は平野部から山間部へ発展・拡大したと見ることができる。今はその逆の現象が生じている。こういう大きな視野・視点で考えたい。
 児童・生徒、つまり、小学校―中学校を対象に提言する。幼稚園、保育園を含めてもよい。典型的な例として1学年10名以下といえる児童数30―60名程度の小学校、生徒数15―30名程度の中学校を考えていただきたい。
 このような場合、地方行政(市町村)や住民は、小学校と中学校の統合等を計画する。これで課題・問題は解決するだろうか。3月28日の「NHKニュースウォッチ9」を見た方はすぐ気付くだろうが、短期は別にして、中・長期では解決にならない。スクールバスでの解決策もあるが、根本解決は困難だ。
この場合、小学校や中学校の教職員全員を含め、地方の中規模都市に集団移転することを提言する。その親達には、簡単に変われない働く場など諸般の事情がある。大切なことだが、ここでは除いて考える。
私の住む日立市を例にとる。日立市の小中学校は統合せず、実質空き教室だらけで運営している。教職員用になる公営住宅も空き家が多い。そんな訳で過疎地の学校ごとの移転を受け入れる余地は大きく、効果的、効率的受け入れが可能である。今なら学校や公営住宅の補修再生が低費用で可能である。
住み慣れた土地を離れる子供がかわいそうだという感情論はやめよう。なお、行政経費については、移転先に移すことができるはずだ。
この過疎化現象、児童・生徒数が減少し学校経営(運営)が成り立たない例は、過密の東京でも生じている。都心が働く街と化し、子育てする街ではなくなっているのである。まずはここまでとし、次回更に詳しく述べる。(平成26年4月24日 日刊工業新聞掲載)

2050年の超過疎化への対応(中)

地方中規模都市の衰退防止/将来世代への大切な投資

   塚本裕宥(北関東支部)

国交省は人口減少に備えた国土整備の基本方針を策定予定。それに先行した提言である。
前編で述べた小規模な学校では、子供たちの健全な育成を促すための運動会も文化活動も、日頃の集団的な討議も、「いさかい」をして覚える対人関係も身に付かない。さまざまな情操教育も欠落や不足する。小・中学校9年間学級の編成替えもなく、ときに複式学級がよいことか問いたい。
これからの義務教育は、語学教育などグローバル化、ローカル化への対応は必須で、重要事項であるが、内容不十分や迷走する恐れもある。教職員も自分の担当教科はよしとしても、担当教科外は仮の免許で教えるような実態である。子供も教職員もいわば悲惨な状態であり、是非早く解決したいものである。小規模校では、子供も教職員も疲弊している実態だ。
本提言は分かりやすく言えば、過疎地の過疎化を促進、早く元の森に戻すための方策である。地方の中規模都市の衰退の緩和を狙ったものでもある。
地方の中規模都市の活性化を唱える施策やそれを推進する方々は多いが、今後の人口減少社会を考えれば、衰退緩和策をとることこそ理にかなっていると言いたい。国土全体を考えた対応策が急務であり、大切である。
失われた10年、20年では、中心市街地の再生、活性化とうたいながら、成功した例が少ないのはご存知の通りだ。補助金を積み、積み増しては、結局国債での後世負担を増してきただけである。誤りに早く気付きたい。
日立市の例であれば、今なら学校と公営住宅を手入れして、過疎地の複数校を受け入れるため、行政経費を支出(投資)することができる。急ぎたい。日本の将来を担う若い人達の幸せを優先したい。
戦時中の集団疎開の逆であり、学校全体の里親縁組のようなものである。本提案にはそれなりの意義があるはずだ。地方の中規模都市や日本全体としてみた衰退防止には効果的と考える。農山村に若者を呼び込む活動は否定しない。成功事例は認める。地域の実情に合わせればよい。
日本の衰退防止には、早い対策と対応が大切である。提言が生きることを切望する。将来を担う若い世代への大切な投資と考えたい。(平成26年5月8日 日刊工業新聞掲載)

2050年の超過疎化への対応(下)

子供たちを高齢者の外孫に/社会貢献・知恵で乗り切る

   塚本裕宥(北関東支部)

先の提言で述べたことに関連、別の解決策を提言する。先に過疎化の進んだ学校の移転を提言、今回は個別対応を提言する。冷静、理性的に考え提言を生かしたい。子供がかわいそうだという感情論はやめよう。
 私の住む戸建住宅団地の現状は、総戸数約 800戸、総人口2300人、65歳以上約50%と高齢化が進んでいる。全国的に見れば限界集落の範囲に入るが、小さいが商店街が健在で、買い物難民などもなく、元気な住宅団地だ。
 住民意識も高いと評価する。元気な高齢者が多く、主体は高齢の夫婦2人暮らしが多い。全国的に類似の地域は多数あるはず。
 この高齢者に超過疎地の子供たちを、血縁のない外孫として迎える案だ。迎えた子供は、当団地の通学区の小・中学校に編入すればよい。経験のある夫婦であり、超ベテランの子育てができる。私もやり繰りできたら、引き受けてみたい。近隣にも類似の団地は多い。高度成長の世代がそのまま高齢化したもの、元気な人達の集合である。集団として情報交換もできる。
 子供が体調不良等になったら、かかりつけ病院に行けばよいし、救急救命病院も完備の市であり、相応に優れた子育て環境である。
 当然のことだが、子供を預けるための費用は親元が負担する、預ける側、預かる側で相談して決めればよい。行政等が契約的指針を作る方法もある。預かる側は年金主体だが相応の収入があり、適切な金額で折り合いがつくはず。いわば中期里親制度と言えるもの、戦中の学童疎開の逆で、その個人版と考えたら分かりやすい。
 費用面ではビジネスライクにやり取りすればよく、人類愛といえる善意が入るので、思いやりのある望ましい地域社会になり得る。
 高齢世帯が社会貢献できるし、血縁がないだけに良好な人間関係の基礎を築けると思う。心を込めた「叱る」という人格形成への役割も果たせる。
 人口減少社会の日本を、我々の知恵で乗り切りたく提案する。
 高齢世帯も緊張感があり、肉体的にも精神的にも若返ると期待する。
 血縁の孫と血縁のない孫、その親との交流ができる思わぬ副次効果も期待したい。日本社会の衰退を防ぐ一助になれば幸いである。(平成26年5月15日 日刊工業新聞掲載)

中東市場開拓を前向きに!(上) 

富裕・中間層向けビジネスに商機/近隣国展開容易に

   長谷川正博(東京支部)

 皆さんは”MENA“という用語を御存じであろう。”Middle East North Africa”(中東北アフリカ)を略したものである。当該地域の人口は全体で5億3149万人(2012年)、うち20歳未満が40%超と若年層が豊富な人口構成となっており、名目国内総生産(GDP)は東南アジア諸国連合(ASEAN)10の約2倍(4兆3667億ドル、13年)の経済規模を持ち、MESA全体の実質GDP成長率は10年5.5%、11年4.0%、12年4.8%(共に実績)、13年3.1%、14年は3.7%と見込まれている新興経済圏である。
残念ながら、日本企業、特に中堅・中小企業にとって、中東は地理的な遠さや、文化的・宗教的な要因により市場開拓や進出にもう一つ関心度が低く、ビジネス対象の市場としての認識がいま一つ、であるように思える。
当該地域は、日本および日本人に対する関心や尊敬の念は強く、日本製品への信頼感や評価も高く、この意味でも日本企業としては魅力ある市場であると言えよう。また、当該地域は、言語・宗教・文化の面で同質性が高いため、一国で確立したビジネスモデルを域内他国へ持ち込むことが比較的容易であることから一つの市場として捉える事もできる。  
さらに、①人口増加率が高い②若年層が多い③一定の富裕層が存在し、今後中間層の増加が見込まれる、などの特徴もあり、日本企業にとって有望市場に成長する可能性がある地域と言える。
ただ、国によって所得水準が大きく異なる上、同じ国内でも格差が大きいので、どの国のどのような消費者をターゲットとするのか、をまず明確にし、自社製品の適格性をよく認識し、またはターゲット市場に適した製品の開発等を行いながら進出計画を実践する必要はある。
もちろん、そのためには十分な情報収集・分析が前提となることは言を待たない。
  MENA地域に含まれる国は西は北アフリカのモリタニアから東はアフガニスタンまでの20カ国強であり、トルコ、イランを除き同じアラブ民族で、宗教もイスラムをベースとしているという類似性を持った地域であるが、本稿ではこの中のアラビア半島に位置し一般的に「金持ちの国」と認識されている湾岸産油国から構成されるGCC(湾岸協力会議)加盟6か国に的を絞って論述していくことにしたい。(平成26年5月22日 日刊工業新聞掲載)

中東市場開拓を前向きに!(中)

購買層ターゲット明確に/ニーズ探り製品・価格戦略

   長谷川正博(東京支部)

湾岸協力会議(GCC)諸国の経済状況を概観すると、GCC全体の実質国内総生産(GDP)成長率は2010年―12年の年平均は6.7%、13年と14年は共に4.0%の成長が見込まれている(IMF〈国際通貨基金〉資料より)。外国人を含む人口合計は4,429万人(12年時点)であり、将来予測(中位推計値)では20年4,929万人、30年5,788万人である。
また、加盟6カ国の「1人当りGDP」(13年時点)は、サウジアラビア2万2663ドル、UAE6万9185ドル、クウエート5万1243ドル、 カタール1万3748ドル、オマーン2万4557ドル、バーレーン2万4465ドル(同資料)となっている。当該金額を日本の都道府県(10年数値、1ドル100円換算)と比較すると、UAEとクウエートは東京(4万3060ドル)より上に位置し、オマーンおよびバーレーンは宮城県(2万4500ドル)とほぼ同じ、サウジアラビアは鳥取県(2万2600ドル)と同じレベルとなり、カタールは遥か上方に位置することとなる。
ただ、国別にまた同一国内における格差があり、国別の全職種の平均賃金の比較では、最も高いサウジアラビアを100とした場合、UAEは94、クウエート91、カタール81、オマーン77、バーレーン76であると言われている(*)。
また、当該諸国は外国人労働者の比率が高い事も市場特徴の一つとなっており、これが同一国内での賃金格差の要因であるが、自国民を100とした場合、欧米系(日本人はこのグループに入る)は同じ100、(他国の)アラブ系97、アジア系81であり(*)、市場への参入にあたっては、富裕層・上級中間層、中間層及び低所得層と三分化(または二分化)を前提に、どの購買層をターゲットとするかを明確にし製品戦略・価格戦略を立てる必要がある。
例えば、サウジアラビアは、高所得国だが、富裕層1割、中間層2―3割、低所得層7割と言われるほど格差が大きい。市場に適した商品投入と価格設定がかなえば、ビジネスの可能性は大いに広がると言えよう。
この地域の消費者はMade in Japanへ高い信頼を寄せているが、中間層の多くに「いい製品だが高すぎる」と思われているという難点がある。他国製品より割高であれば、価格差を補って余りある優れた点を消費者に訴求する必要があるし、余計な機能を削って価格を下げるという方策もあろう。現地ニーズを探って製品に反映させる努力をしなければならない。(*)出所;中東協力センターニュース、2007・6/7号
    (平成26年5月29日日刊工業新聞掲載)

中東市場開拓を前向きに!(下)

インフラ関連・医療分野など有望/見本市出展で商機

   長谷川正博(東京支部)

現在、人気の高い自動車、家電製品、果物、日本食などに加え、湾岸協力会議(GCC)諸国で有望と思われるビジネス分野は、まず2020年頃まで年3―4%の需要の伸びが予想されている電力。海水淡水化により水をつくることから、廃水処理後に再利用するリサイクルの仕組み作りが求められる水分野。太陽光と風力を中心とする再生可能エネルギーなど各分野の機器・部品・補修部材関係。鉄道やモノレール建設の活発化による車両、鉄道システム関連機器やこれらのメンテ需要。環境分野機器及び住宅関連機材や地域冷房関連機器。
また、GCC諸国の平均寿命が長くなり、かつ資金もあるため、健康・医療に対する関心も高まりつつあり医療機器と製薬も含めた医療分野全般や、スパ(SPA)産業向けの化粧品・トリートメント・健康機器。女性の社会進出が活発化していることによる化粧品分野(例えば10年のUAEの化粧品市場規模は約860億円)。
中東諸国はまた、教育、文化、芸術、スポーツなどにも力を入れており、これらの分野に関連するソフト、機器・機材などへの需要も高まることは想像に難くない。さらに、これらの国は食糧安保の懸念からアフリカや中央アジアの農業国の土地に投資して穀物を栽培し、自国に輸入する動きが活発化しており、農業技術への需要も高まっている。
自社製品を新規市場に投入させるためには、種々の事前調査や社内体制づくりが求められる。
また、市場開拓の一環として見本市・展示会への出展がある。見本市・展示会に出展すれば、短期間に多くのバイヤーと接触することができ、効率的に商談を進めることができる。
ただ、一社単独で行うことが難しい場合、日本貿易振興機構(JETRO)と組んで参加する方法がある。JETROでは海外各地で行われる見本市・展示会においてジャパンパビリオンを設置し、中小企業の出展をサポートしており、ここに出展する中小企業には国からの補助により一部出展経費の補助が受けられるというメリットもある(*)。
ただ、出展すべき見本市の選定には自社製品の適格性チェックなど各種事前準備が必要なため、大体半年先に開催される見本市をターゲットに検討する必要があろう。もし可能であれば、同類の見本市に事前に見学に行くことが望まれる。(*)http://www.jetro.go.jp/services/tradefair/ 参照
(平成26年6月5日日刊工業新聞掲載)

奨学金返済破綻の防止には

大学進学の必要性熟慮を/就職後学び直す機会ある

  塚本裕宥(北関東支部)

 奨学金・教育ローン返済破綻の例を聞く。奨学金・教育ローンを組み大学は卒業したが、思った就職ができず、残念ながら収入不足で、返済が滞り破綻する例を聞く。親御さんの年収減も追い討ちを掛けている実態もあるようだ。
実質的を含め、大学卒業が必須なのは、医師、薬剤師、弁護士、弁理士、上級公務員など限定的で、猫も杓子も大学に行くという、社会風潮は誤りと言いたい。それでの大学の質的低下も事実と思う。まず、大学に行く必要があるか、熟慮して欲しい。職に就き、学問的に極める必要が出てから進学しても遅くないはず。
こう考える当人や親は少ない。学問をすることと大学進学の意義や意味を的確に理解してから、大学など進学を考えても遅くないはず。結果的に大学で学ぶのを後回ししてもよい職に就いている実態を直視して欲しい。
諸外国の事情について詳しく知らないが、前述の考え方は、欧州では当然と聞いている。社会に出てから、必要に応じて学ぶ、学び直すのが、適切と思えてならない。奨学金・教育ローン破綻を防止する根本的考え方と思う。
戦後の混乱期から復興、成長を牽引した世代は大学卒業者主体ではない。この世代はがむしゃらに働き、その一方で自己研鑽した世代だ。この世代の大学進学率はそれほど高くなく、適切相応の率で推移してきたと言える。
教育費について「社会が子供を育てるという考え方」が必要な時期にきており、給付型奨学金など厚く広い公的負担が適切との声がある。子供は社会の共有財産、社会が育てる責任があるのは確かだが、費用丸抱えの考え方に全面的賛成はできない。社会的に見合う対効果を考えた費用負担が原則だ。
社会が子供を育てるという考え方をよく理解する私だが、大切な家庭経済を考え、ライフセミナー等では「教育費と保険」を見直すよう声を大にして説いている。「必要な教育費かな。保険かな」と自問したい。萎縮は不要だが、教育費と保険は冷静、理性的に考えて投資する必要がある。
奨学金などの破綻があるから、社会で厚く広い公的負担をするのは、論理が逆であり、明らかな誤りと言いたい。賢い生活者になることを切望する。(平成26年6月12日 日刊工業新聞掲載)

単発の企画で街が活性化するか

市・市民が積極的発揮/地元の産業遺産活用も一考

   塚本裕宥(北関東支部)

私は様々な形で県や市の活性化の活動に、何の見返りも思惑もなく参加・支援している。この中で気になることがある。
1点目はこの種企画が単発で継続性がない。例えば、単発の研修会で活性化するだろうか。継続を提言すると聞き置くだけだ。2点目は中心市街地の活性化を狙っているが、実力や世の中の趨勢を考え、衰退防止に力点を置く必要がありそうだ。
3点目はこの種企画が、国などの実質的に補助金目当てと見える。特に最近のアベノミクスは、補助金バブルの様相と見える。4点目は当地域の人が主体でなく他人依存である。その典型例が講師や指摘役・支援役を東京主体の他都市に依存していることだ。
これを続けていたら、国の財政負担を増し、後世負担が増すばかりだ。富も県・市外に逃げて行く。地元の協力者を育て、身の丈に合わせるのが適切だ。他県・市の人に依存すると、岡目八目が働くことは認めるが、当県・市のことを付け焼刃で事前確認してくるので、正確な視野・視点でなく、通例は一般論を述べることになる。
各地には、よく探せば、日本で唯一、世界で唯一のものがそれなりにあり、それを発掘せず、眠っている例が多い。私の地元日立市には、5億年前の地層、世界・日本一本数の多い桜、吉田正記念館、産業遺産としての日立鉱山関連の日鉱記念館、日立製作所関連の小平記念館があり、それをどう生かすか知恵を絞る必要があるが、やれない、やらない理由を述べる人が多いのが実態だ。
ユネスコ無形文化遺産の日立風流物もある。こういう良好な事例がありながら、適切な活用ができていないと見える。私案だが、風流物のレプリカを作り、販売する等の経営センスも磨きたい。多種多様の案を生かせるはず。
市は企業、特に日立製作所に働きかけ、産業遺産の的確・適切な公開への協力を要請するのが適切だろう。市民目線では、その働きかけが弱いように思える。日立製作所の企業市民としての社会貢献に期待する。
是非、積極性を発揮してほしい。市や市民が目覚め、自立・自律することが先決と思う。冷静、理性的に考え、提言を生かしていただきたい。(平成26年6月19日 日刊工業新聞掲載)

地域・社会貢献と組織人(上)

定年退職者の職務経験生かす/企業はシニア研修強化を

   塚本裕宥(北関東支部)

最近の定年退職者を見ると、自分の楽しみとそのための仲間作りには積極的だが、かつての専門性を生かす、責任や負担の掛かる地域・社会貢献には消極的であり、積極的であって欲しい。企業勤務経験者にはその職務経験、官公庁勤務経験者には行政経験を生かしてほしい。
 多くの組織(企業や官公庁など)人は、定年後社会に出ても受身として学ぶこと、ゴルフ、グランドゴルフ、最近は少ないがゲートボールなどスポーツを楽しむことが主体で、組織人として培ってきた経営、経理・財務、販売・接客、情報処理(パソコン)、人財(材)育成、物づくり、その他多種多様のノウハウなどを吐き出す役をしている人が少ない。さまざまな能力を眠らせたままは惜しい。
定年退職→ゴルフ三昧、カルチャーセンターやスポーツジム通い→サービス付き高齢者住宅などの福祉施設、のような受益者人生では社会的損失だ。自ら楽しみ、楽しめなくなったら社会のお世話になるような生活は、ごめんだと思う方は相当数と思う。
 定年が60歳から65歳になりつつあるが、高齢というにはふさわしくない。組織で身につけた能力を社会に還元することこそ、人としての務めだろう。何十年もの勤労で疲れた、組織人として精一杯働いたので、更にビジネス(勤労)的なことを続けるのは嫌だと言わず、広範な社会貢献をしてほしい。この疲れた人生発言をするのが、官公庁勤務者に多いのは気になる。
別視点だが、地域・社会貢献のうち身近なものが納税だ。この納税は日本に住む人の義務で、社会貢献に含めることは少ないが、大切なことだ。
 JAIC(国際協力機構)などで活動して海外貢献しながら、対価を国内に還元してほしい。日本社会はこういう60―80代の働きを求めている。組織も定年前に定年後の心構えや人生設計立案を積極的に支援してほしい。
 2001年以後の21世紀、特に08年秋のリーマン・ショック後、企業に余力がなくなり、企業人の定年後の教育・研修が疎かになったと思える。企業の社会的責任を広く捉え、是非、シニア対象の教育・研修をして、社会に送り出してほしい。企業が先に負担すれば、後日企業が負う社会的コストの節減が可能と考えてほしい。先行投資である。(平成26年6月26日 日刊工業新聞掲載)

地域・社会貢献と組織人(下)

自ら活動する価値認識を/有償・無償で知恵提供

   塚本裕宥(北関東支部)

 社会福祉協議会、日本赤十字社などの活動に関わることを、社会貢献活動と思っている方々が多い。この活動は第一線の奉仕者の労働は無償提供と言える。有償の役員や事務職員の給与、事務所賃料や償却費はもちろん、会場費、電気・ガスなど光熱費も税金や寄付依存だ。その実態を認識、自分の活動が社会の負担であると自覚したい。
 税などを使う側から、税負担を削減、納税するよう経営(ビジネス)感覚を磨き、雇用を生むのが望ましいと思う。私の住む日立市ではこう主張すると、金は汚いもの、守銭奴との見方をする人が多い。その方々を支えているのは、若い納付者が払う保険料だ。金は汚いものとの感覚はやめたい。
日本の年金は自らの積立金を取り崩す積立方式でなく、後世負担による賦課方式の自覚を持ってほしい。現役時、保険料を負担、自らに還元できている面は否定しない。後世負担を増す税金を遣う活動はきれい、自ら稼ぎ税金を納める活動は汚いという。
私には逆のように思え納得できない。社会や他人に役立つこと、金を稼ぐことのバランス感覚こそ大切だ。今は人口減少社会だ。雇用の確保、海外から富を招き入れることの大切さを自覚したい。税金の消費者→税金の消費量削減→税金消費0→納税に移行する人達を求めている。
何歳になっても自ら稼ぐ、雇用を生むことは大切なこと。任意団体、NPO、会社組織でもよい、働く場を作り活力ある(衰退防止)社会を作りたい。表面的社会貢献(ボランティア)活動より、働く場、労働の対価を払う雇用を生む方が、より大切であると考えたい。働いて稼ぐことの大切さ、その価値を認識したい。行政から業務を引き受ける団体などの活動もありだ。高齢者の活用と税の節減が可能だ。
ここで注意したいのは、現役世代の働く場(ビジネス)との競合を避け、奪わぬことだ。高齢になっても企業に知恵を提供するコンサルティングは可能、こんな貢献も大切と思う。余談だが投稿による社会貢献もありうるのではないか。
私は目一杯、いわゆる無償の社会貢献をしながら、モノづくりノウハウの伝承や人財(材)育成の有償活動もしている。学生を含むグローバル化対応の大連研修ツアー、経営品質向上活動なども続けたい。(平成26年7月3日 日刊工業新聞掲載)

中小零細企業の人材育成について

2割の社員底上げ/コーチング徹底、マルチ能力達成

   釜澤直美(南関東支部)

そもそも我々企業で働く者にとって、「使える社員」、「使えない社員」と言う言葉の意味するものは何か。まるで、古びた骨董品の様な響きではないか。
イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートの法則(納税額の80%は20%の高額納税者によって占められていると言う)がある。同じような意味合いで使われている分析法にABC分析手法がある。この考え方によると、売り上げの80%は20%の社員で生み出され、また商品の売上額の80%は全商品銘柄の20%で稼ぎ出している。
つまりロング・テール現象になっていると言うものである。そこで、このABC分析手法の考え方を中小零細企業の人材育成に導入するとどうなるのか、つまり、80対20の2割の社員を再建のために育成するのである。
企業経営に於ける経営資源としての「人・物・金・時間」の中で、「人」は無限の可能性を秘めた最強の経営資源あると私は信じて疑わない。なぜなら、「人」以外の経営資源を考えていただきたい。「物」も使い方次第で寿命を何倍にもできる。「時間」にしても業務改善、作業の習熟度合いにより、同じ時間でも成果に大きな差が出るのである。
ある零細企業における人材育成の事例を紹介したい。慢性的な経営危機にあったその会社は、従業員35人ほどの零細企業で、事業戦略の見直しにより、量産品加工形態から試作品、大物少量品を徹底した短納期で生産する事業形態にシフトした。しかし、納期を順守するには昼夜2交代作業が必要。その条件として、現状の社員で24時間リレー生産を可能にする事であった。
切迫感の中、社員に対し、会社の現状、社員の生活を守るため会社が生き残らなければならない事を説明し、実施した社員教育は、1人3役、加工冶具を製作し、切削加工を行う、加工した製品を三次元測定機などで計測評価する技能、つまりマルチ能力を持った社員の育成である。
その教育の責任者に抜擢したのは、幹部社員から冷遇されていた学卒社員で製造、品証経験の平社員である。徹底したコーチングにより目覚め、大役を引き受け1年がかりで6人のマルチ能力社員を育成、完全24時間リレー生産を可能にしたのである。この立役者を含めると7人(2割)となる。
現在この立役者はマネジャーに昇格し、再建の中心的存在となり、活躍しているのである。(平成26年7月17日 日刊工業新聞掲載)

大学の職業教育~欧州の現実と日本の課題㊤

デュアルシステムが第一歩/職業基盤となる技能伝承

近藤 肇(中部支部)

欧州、アジア及び日本の大学生の就職事情は程度の差こそあれ、厳しさを増している。
日本では2008年秋のリーマンショック以来、就職戦線が厳しくなり、毎年約60万人の大学生のうち、10~20%がいわゆる「ニート」と呼ばれ、正社員として職場に就くことができない。
欧州(とりわけ南欧)ではさらに厳しく、ギリシャでは若者の60%が未就業だ。
日本では、一部の研究専門の大学(大学院大学)や特別な教育、資格を養成している大学を除けば、多くの大学では卒業後に就職を求めて入学する学生が大半である。
彼らの大半が一般企業に入社して会社での教育(OJT)を通じて実力を身に付けるのであるが、なかには社会人としての基本的なマナーすらもできていない学生もいる。
中小企業の多くは新入社員に計画的な教育をする余裕がないのが実情である。従って採用しても3年以内に退職するケースも多い。
これらは企業が学生に求めるスキルと大学での教育のミスマッチが原因と考えられる。私は、この数年新卒(高卒、専門学校、大学など)の就職指導、カウンセリングの実務体験を通じて、現在欧州のモデルとなりつつあるドイツのデュアルシステムの現状と日本の大学(大学生)の職業教育の課題を提言したい。
欧州では、イタリア、ギリシャ、スペインなどの若者が、職を求めて社会に対するデモが頻発している。
EU事務局内のギリシャの責任者は、ドイツの職業教育をモデルにして失業の対策とすることを提案している。
大学や専門学校の卒業だけでは就職の保証にはならないのみならず、現実の教育の証しにもならないのである。技能は正確には学校の教育とは無関係である。
ドイツでは、マイスターの免許状に対して6段階にわたって資格の分類がある。そのことによってドイツの労働市場にも好都合な職業教育を開始する。またそれが良い経営にも起因している。
欧州は、今や職業教育の形や内容に対して、新たな価値を重視する方針である。EUの事務局もこの職業教育や指導の改革が重要な一歩であるとしている。
デュアル教育システムは、しかし。奇跡的に効く手段ではない。欧州で法外に高い若者の失業を一定期間で部分的に克服するためには、解決することの要素の一つである。
それらは職業生活を築くために、そして更に発達するためにも若者の職業参加に基盤となる権限を与えることである。
※欧州に関する内容は、「Die Welt」より引用。(平成26年7月24日 日刊工業新聞掲載)

大学の職業教育―デュアルシステム ㊦

マイスター制度の採用提案/6-8段階で資格評価

   近藤 肇(中部支部)

南欧の展望をみた場合、負債の危機によって苦しんでいる国々にとって、そのためにもかつてのドイツの特別の方法を公開することは、これ以上の方策はない。
Cedefop(欧州職業訓練開発センター)の新しい責任者による指示は全く啓発的である。
これらの国々の固有の問題は、価値の低い有資格者の数が高い状態にあるのみではなく、大学の卒業生の就業意欲に対する障害になりうる。
すなわち大学で多くの職業の実現が可能になることを若者に暗示することを止めるべきだ。
デュアルシステムの基本は、理論と実践の組み合せが、学校と経営の入り混じった教育として成功のモデルとなることであり、ドイツはそれを強力に実行する。
そして将来においても高度な国内の経済力は、実践的な知識を持った高度な専門家に頼らざるを得ない。
日本の大学の職業教育の課題としては、カリキュラムとその運用であろう。ここ数年、行政(厚労省、中小企業庁、農水省など)や各自治体がそれぞれ計画、実施している就職支援事業が挙げられる。
それらのプロジェクトには、企業と新卒予定者(および3年以内に卒業したいわゆる第二新卒)の面談によって、一定の期間就業体験するという、いわゆる「インターンシップ(就業体験)」を実施して、企業と学生のミスマッチを防ぐ効果を発揮している。ここでのポイントはやはり教育カリキュラムである。
ドイツのマイスター制度に相応する職業訓練システムを日本にも採用することが、インターンシップをより効果的に運用する最善の方策だろう。
そのためにもOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)のマニュアル化、ユニット化が必要と考えている。では、現時点で、大学はこのインターンシップに対してどの程度関わっているのだろうか。
多くの大学は、実務の大半を就職指導室またはキャリアセンターに負っていて、大学生の評価、成績に連動していないのが現状である。(一部の大学では単位の認定に連動することも検討、実施しているようではある)
課題は大学でのカリキュラムとその評価システムであろう。ドイツの「デュアルシステム」ように、習得した内容により6―8段階の評価に分け免許状を交付して、企業のニーズと連動すれば多くの中小企業が採用時点でのミスマッチや採用後の教育における無駄をなくすことができるのではないか。
 ※欧州に関する内容は[Die Welt]より引用。(平成26年7月31日 日刊工業新聞掲載)

過去の温もりを忘れよう

人口減・財政縮小の時代へ/覚悟を決め悲観的に準備

  塚本裕宥 (北関東支部)

 日本の縮図、典型例、私の住む日立市を例に実感の提言をする。過度な悲観や萎縮は不要だが、物事を直視することを忘れてはいけない。悲観的に準備して、楽観的に行動することが大切、国も地方も同じ覚悟が必要。日立製作所が当市で拡大・発展した時代、当市には福祉優先等で対応して温もりがあった。
しかし、失った10、20年により、過去のものとなり、多くの人が感じているはずだ。内容の正しい理解のため、会社名は実名とする。当該会社と敵対でなく、大切な互恵関係である。
 日立製作所の主力工場は、将来を考え苦渋の決断をして、三菱重工業との経営統合で新会社に移管となった。事実を市民は真摯に受け止めたい。
 当然、新会社は理念も大切、経営数値(利益)も大切という経営になり、将来を考えた新事業開拓など、健全な赤字は許しても、会社全体の黒字経営は絶対的である。新会社に移管となった工場の現在地での存続、従来からの地元取引先(下請)との取引関係の見直しは当然あり得る。取引に人情や温情の入る余地はなく、地元に落ちる金は先細りを覚悟したい。将来展望は明るいと予想するより、暗い方向を覚悟したい。(悲観的に準備・・・)
 こんな当市、130億円(以上か?)も必要な市役所新庁舎建設は見直すのが当然だ。私は、当欄2012年9月26日日刊工業新聞で「やめる・戻る勇気を持とう」と提言した。将来、相手次第だが土浦同様「売上低迷のヨーカドーに移転、新庁舎建設を見送ってよかった」なら幸いだ。
 行政は、建屋の良否で結果が違うだろうか。人の知識や知恵を優先すべき、新しい庁舎ならよい仕事ができるなら別だが、それはない。関係者が業務に真摯に向き合うかが大切なはず。新庁舎建設より、市長・議員・職員の意識や能力向上こそ、真剣に取り組むべきだ。
 過去のぬくもりは忘れ、人口減少や財政縮小の厳しい時代へ覚悟を決めよう。教育改革等考えた方が、支出の低減や有効活用になる。
 対応策は過疎地から学童(国内留学生)を含む学校移転と市内には国立と私立の計2大学があり、海外留学生の受け入れ拡大だ。特色ある教育にすることだ。当市には海外体験者が多くその活用も有効と思う。(平成26年8月7日 日刊工業新聞掲載)

5Sは社風を変える

仕事一つひとつ整理・整頓/「業務向上」達成の手段

   橋本琢磨(北関東支部)

今更ながら、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の話である。5Sは、全ての仕事の基本であり、業種、規模は問わない。経営者に対して、あなたの会社は5Sしていますか。 と言う問いに、「掃除して綺麗にすることでしょ。いつでもできるよ。」と、答える方が多い。
でも、実際には実施していない企業がほとんどである。いつでもできることが、できていないし、5Sに対する認識も間違っている。次に出てくる言葉は、時間がない、人がいない、うちの規模でやっても、うちは古いから、など言い訳ばかりだ。一事が万事という言葉があるが、一つの事ができない企業は、全てができていないのである。
規模を考えた場合、2、3名の小さな工場でも、整理・整頓がきちんと行われて所は、仕事が丁寧であり、納期を守り、見積りも正確だ。つまり、作業場所が整理・整頓されているだけではなく、仕事一つひとつが整理・整頓されている。だから、段取り時間・加工時間も短いし、材料にムダがない。結果として、価格競争力がありながら、利益をだすことができるのである。
古いと言う事例を考えると、老舗高級旅館が挙げられる。築数十年の建物であっても、隅々まで整理・整頓・清掃が行き届いている。古いということと、手入れがされていないと言うことは別物なのである。その様な環境で働く従業員は、おのずと躾が身についている。
だから、ただ掃除をするのではなく、顧客が喜ぶ事は何かを見い出すことができるのである。そして、それが企業文化という形で定着し、他社にまねのできないサービスを提供している。また、顧客は満足の形として、他より高額でも代金を払うのである。
5Sを行う目的は何かを考えると、「掃除して綺麗にすること」は、最終目的ではない。5Sの目的は、業績を上げることにある。そして、正確に言うと5Sは、目的達成の手段である。
正しい5S活動を続けると、職場環境が良くなることは当然として、コミュニケーションが良くなり、風通しの良い社風が形成される。そこから、アイデアもでてくるのである。今更ながらの5Sであるが、正面から向き合ってはいかがですか。(平成26年8月14日 日刊工業新聞掲載)

中堅・中小企業の「タイ・プラス・ワン」への取り組み(上)

近隣国に生産分業体制/AFTA視野、受入地も急成長

   長谷川正博(東京支部)

数年前までは「チャイナ・プラス・ワン」と言われ、人件費の高騰・労働者不足やとどまることを知らないかのような反日感情の再生産他の要因による「中国から他国・地域への生産拠点の移転」が話題になっていた。
2014年版中小企業白書によると、「撤退を経験した国・地域」で最も多かったのは中国(42.3%)であり、「撤退を検討している国・地域」でも中国が62.4%と断トツのトップとなっており、後者の方が前者より比率が高いということは今後共中国からの「撤退」がさらに進むことを示唆していると言えよう。
 一方、最近では「タイ・プラス・ワン」という言葉をよく聞くようになった。「チャイナ・プラス・ワン」は、前述の通り、中国における投資リスクを回避するために、中国を出て(ないしは拠点を縮小して)、他国で同様の投資・生産を行うものである(この意味では「チャイナ・ツー・アナザーワン」の方が妥当なようだ)。
これに対して、「タイ・プラス・ワン」は、タイで事業展開している企業が、生産拠点を維持したまま、組立作業等の労働集約的な部分を、コストの安いカンボジアやラオス、ミャンマー(CLM)など近隣国に移し効率的な生産分業体制を構築するというものである。
この背景には、タイにおける労働力不足と賃金上昇により、タイでの労働集約的な生産の妙味が薄れてきたことが第1の要因であると言える。タイの失業率は1%を下回り、賃金水準はこの2年間で30%以上も上昇したと言われている。
また、タイ近隣のCLM各国政府が外国企業誘致に積極的に取り組み始め、投資受入地として成長してきたことが第2の要因である。これら諸国の近年の成長率は、先行東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国を上回り、いずれの国も中所得国へ移行する過程にあるといえる。アジア開発銀行(ADB)によると、2010-30年のGDP平均伸び率はカンボジア8.2%、ラオス7.8%、ミャンマー9.0%、ベトナム7.3%、タイ4.8%と予測されている。
ASEAN自由貿易地域(AFTA)が誕生する15年には、同域内でCLMの輸入税が原則撤廃される見込みであり、これによりタイから原材料や設備・機械や、さまざまな消費財の調達が容易になると見込まれ市民生活の質向上にも寄与しよう。(平成26年8月21日 日刊工業新聞掲載)

中堅・中小企業の「タイ・プラス・ワン」への取り組み(中)

メコン流域インフラ整備/物流効率化ルール課題

   長谷川正博(東京支部)

「タイ・プラス・ワン」のような事業モデルは、タイと周辺国の拠点間で、原材料・部品や完成品の物流業務が発生するため、国内はもちろん、国境をまたぐ幹線道路の完備などハード面とソフト面での輸送インフラの整備、物流網の充実が欠かせない要件となる。2006年に完成したメコン川流域の三つの経済回廊はこの流域地域の経済発展に大きな貢献を果たすであろう。
ミャンマー・モ-ラミャインからタイ、ラオスを経由し、ベトナム・ダナンを結ぶ総延長1450キロメートルの「東西経済回廊」は、インドシナ半島を東西に横断する回廊である。これにより、ラオスやタイ東北部の内陸都市はダナンを経て海外の市場につながる。
「南部経済回廊(第二東西回廊)」は、タイ・バンコク、カンボジア・プノンペン、ベトナム・ホーチミンを結ぶ総延長900キロメートルの路線であり、その完成により最も経済効果が期待されている。
南北経済回廊は、インドシナ半島を南北に縦断する回廊で、中国雲南省・昆明を基点にタイ・バンコクまで南下する2000キロメートルの回廊である。これらの回廊の完備により、例えば、バンコク―ホーチミン間の輸送は海運で5日かかるが、南部回廊なら1日に短縮されるため、域内の効率的な分業体制の構築や拠点の再配置に活用できると期待される。このような物流インフラの整備でこれらのメコン流域地域は一体化された経済圏とみなされる。今後の成長力を秘めたこの経済圏の総人口は約2億4000万人と世界4位のインドネシアに並ぶ。
 「ハード面」の利便性を補充する「ソフト面」では、大メコン圏経済協力プログラムの交通分野で取り組まれている「CBTA(越境交通協定)」がある。これは、国境をまたぐ多国間の包括的な交通協定であり、あらかじめ決められたルートを相互に、一つの書類で車両が行き来できるもので、1999年にラオス、タイ、01年にカンボジア、02年にベトナム、03年にミャンマーが調印した。主要な取り組みとしては、通関窓口を輸出国で行い、データ通信で輸入国も共有することで、通関手続きの簡素化、負荷軽減を目指す「シングル・ウインドウ」。輸出国と輸入国において、重複する通関処理、品質検査、検疫等を共同で行い、1回で完結する「シングル・ストップ」がある。
これらをより効率良く進められるような統一ルールの策定など更なる環境整備が求められる。(平成26年8月28日 日刊工業新聞掲載)

中堅・中小企業の「タイ・プラス・ワン」への取り組み(下)

メコン流域進出に魅力/域外輸出ビジネスも視野に

   長谷川正博(東京支部)

 メコン流域地域の物流網完備により、モノなどの移動がスムーズになり、「一体化された経済圏」としてとらえた同市場への取り組みが企業として重要となる。さらに、当該経済圏のみでなく、ミャンマー南部にありバンコクの西方に位置するダウェ―にまで延びる道路整備が完成すれば、バンコクからマレー海峡を経ずに、インド、中東、ひいてはアフリカに向けた輸出が容易になり、これらの市場を狙った輸出ビジネスも可能となる。
また、産業にとって重要なインフラ整備、特に電力では、発電量の拡大(流域5カ国合計で2010年の2477億キロワット時→5878億キロワット時)、送電網を接続し電力を融通しあうパワーグリッド構想がある。
 企業にとって、このメコン流域地域への進出の主な魅力は、まず一つは人件費の安さである。11年時点での製造業労働者の平均月額賃金は、タイ(バンコク)286ドル、ラオス(ビエンチャン)118ドル、ベトナム(ハノイ)111ドル、カンボジア(プノンペン)82ドル、ミャンマー(ヤンゴン)で68ドルである。もちろん、中国やタイの例を見るまでもなく、経済発展と共に賃金は常に上昇トレンドにあり、これら諸国も賃上げ圧力が強まり、現にカンボジアでは労働争議が多発し13年3月下旬、同政府は月額最低賃金を約3割引き上げることを発表した。
ただ将来は、この賃金上昇は中間層の増大=消費市場の拡大につながることになる。また、人口増による当該市場の拡大も期待できる。
三つ目は、東南アジア諸国連合(ASEAN)に拠点を有する企業にとっては、ASEAN 自由貿易地域(AFTA)成立により特定の拠点で集中的に生産することでコスト競争力を高められ、域内のみならず、ASEANが締結しているインド、豪州、ニュージーランド、中国などとのFTA(自由貿易協定)/EPA(経済連携協定)網を活用することにより、域外国への輸出拡大が期待できる。
かつ、FTA締結先国との双方の拠点で部品等を融通する体制を敷くこともできる。法人税の安さも魅力の一つである。
14年1月時点でタイ、カンボジアは20%、ベトナム22%(16年には20%に引き下げ)、ラオス24%、ミャンマー25%である。
 もちろん、新興国への進出にはさまざまなリスクも伴う。進出するにあたっては、自社の経営資源の分析・把握、自社製品の販売可能性、市場の特性・将来性、対象国の詳細な情報収集など十分に時間をかけ検討・調査することが重要である。(平成26年9月4日 日刊工業新聞掲載)

金融機関の中小企業向け融資姿勢改善

“好決算”も信金正念場/期中平均残高、半数がマイナス

  岡部 勝成(九州支部)

景気回復の影響で2014年に入って、金融機関の中小企業向け融資姿勢が改善している。日本政策金融公庫によると、2014年上期(1月-6月)の貸し出しDIはプラス5.2,13年下期(7月-12月)から2.0ポイント上昇し改善され、3期連続でプラス基調を維持している。景気回復によって金融機関の財務状態が改善されたことが背景にある。
日本金融通信社によると、14年3月末時点の1,251金融機関(都銀5、信託銀4、その他銀(新生銀、あおぞら銀)2、地銀64、第二地銀41、信金267、信組155、労金13、農協699、ゆうちょ銀1)の預貸金を見ると、合計557兆円(前年同月比増減額10兆円、同増減率1.9%)。シェア上位では、都銀186兆円(33%、前年同月比増減率2.3%)、地銀172兆円(30%、同増減率3.1%)、信金64兆円(11.5%、同増減率2.0%)、第二地銀46兆円(8%、同増減率1.4%)、信託銀35兆円(6%、同増減率1.2%)と続いている。とりわけ、シェアは僅少であるが信組、労金はともに前年同月比増減率2%台と健闘している。
また、預貸率上位では、信託銀97%、その他銀78%、第二地銀74%、地銀73%、労金67%、都銀63%となっている。一方、信金、信組はともに50%台と低調に推移しており、本業において経営面を圧迫している。
そこで、日本経済新聞は九州・沖縄に本店を置く29信金の2014年3月末決算にフォーカスし、「かりそめの信金好決算」と題して掲載した。その内容を概観すると29信金中、26信金で最終損益が改善するも、実質業務純益の増益は16信金と対前期比マイナス3信金となっている。
具体的には、有価証券運用益や株式等売却益などが寄与し収益改善するも、本業には不安をもちつつ、再生可能エネルギーや医療といった各分野などの開拓に躍起になっているようである。 一方で地方自治体頼みといった融資姿勢も内包している。これらの意図するところは、融資利回りの低下であり、現実に29信金すべてがマイナスに陥っている。
特質すべきは、財務的・経営的に最も重要な融資の期中平均残高が29信金中、15信金は増加するも、14信金でマイナスになっているということであり、利ざや減少に拍車がかかっている。さらに、九州地区は全国でも地銀からの強烈な融資攻勢で有名であり、いわゆる一本釣りといわれる肩代わりが横行していることも日常茶飯事に行われている。
さて、このような非常事態にどう各信金の理事長は経営のかじ取りをするのか、正念場は続きそうであるため動向に注視してみたい。
最後に、「ソリューション」という語彙からヒントがありそうな気がしてならない。(平成26年9月11日 日刊工業新聞掲載)

生物に学ぶ企業の生き方

ベクトルを一にすると力を発揮/平衡保つ経営実行

   矢島英夫(東京支部)

1. 安倍首相が掲げる3本の矢、古<は毛利元就の3本の矢だが、1本だと折れるが3本ま 
とまれば強固なものとなる。すなわち、ベクトルを一にすると力を発揮する。
2. 生物で例えるならば蜜蜂である。女王蜂を中心に働き蜂が花の蜜を集め、蜂蜜にして卵
から育った働き蜂の食糧とする。蜜蜂は花の蜜を取るとき花の受粉を助ける。農作物の
受粉の3分の1を蜜蜂が支える。女王蜂を中心に働き蜂は、仕事を分担してベクトルを
一にして働く。企業も個々から成り立つ。個々の働きは、小であるが企業の中の一人ひ
とりのベクトルが一致すると力を発揮する。
3. 女王蜂の働きが限界又は群が過大になると分蜂という現象が現出する。すると次代の女王
蜂を誕生させる。卵から羽化した蜂に、若い働き蜂の下咽頭線から出るローヤルゼリーを
与え続けると次代の女王蜂が現出する。同様に、企業でも債務超過になると企業の存続さえ
難しい。脱皮するには債務を元の企業に残し第2の会社を誕生させて新しく出発するも良
い。この点において老舗企業の考え方は、柔軟である。本業に徹し、他方常に新しい収
益の上がる策を考え、その方向にカジを切る。二本立てで、いつも天秤のように平衡を保
つ経営を行う。
4. 蜜蜂の世界に話を戻すと新しい女王蜂が育つと古い女王蜂は、働き蜂半分を引き連れ元の
巣を出る。企業でいえば暖簾分けである。ローヤルゼリーという滋養食物を自ら作り出す
ということは、企業でいえばIPS細胞(人工多能性幹細胞)のように企業再生するの
と同じである。若い女王蜂の群は、若返り蜂の世界も活溌となる。蜜蜂は蜂蜜という贈り
物を人にもたらし、またローヤルゼリーという滋養食品を提供する。企業も企業活動に
よって製品、生産物を作り、サービスを世の中に提供する。老舗企業が「もうかりまっか」
と言葉は「ほどほど利益」を上げるという生き方である。これは最後に世間の「おかげ」
という言葉で表現される。
5. 蜜蜂は、花の蜜を取るときに受粉の手助けをし、生存のために花から蜜を貰う。花は受粉
により成実し、結果的に農作物の生存に寄与する。
生物である人の集合体である企業は企業活動によって得た果実(利益)の一部を世の中
に還元することも必要で、前述の老舗企業の考え方が蜜蜂から学ぶものと合致する。
これがまた生物である集団生活を送る蜜蜂の働き、生き方、また後継者を育てていく
ことに相通じるものと筆者は、考える。(平成26年9月18日 日刊工業新聞掲載)

日本人を朱鷺の運命にしてよいか

女性が活躍しやすい社会に/若年世代に重点支援を

   塚本裕宥(北関東支部)

この提言は何年も前から温めていたものを推敲したもので、当初、題名は「日本人を絶滅危惧種にしてよいか」と思い浮かんだ。それでは自虐的過ぎると思い婉曲的題名にした。
 日本人を朱鷺(とき)同様(絶滅)の運命にしてよいだろうか。否と考えたい。そうするには劇的(ドラスティック)な対応が必要だ。
 まずは、20―39歳の女性を大切にすることだ。働きやすい職場、適切な処遇、恋の相手(世話焼きおばさんも必要か、それより相手である若者の生活の安定が重要だ)、出産しやすい環境(産院、産婦人科)の整備、子育てしやすい環境(保育所、小児病院、小児科)の整備など、早急に行いたい。予算の傾斜配分は当然。現状は若者支援の予算不足だ。
 日本から朱鷺は絶滅。こんな運命を日本人が辿ってよいだろうか。日本の政治家、行政はこれを肯定しているように思えてならない。高齢者を手厚く保護することより、若い世代、これから生まれる世代を優先することの方が大切なはず。若い世代がいるから、高齢者の年金が回っていると自覚したい。
 私は長年社会人講師として教壇に立ってきた。必ず、選挙に行き投票行動で、その政策を実現する政治(家)を選ぶよう促してきた。
高齢者以上に投票することだ。選挙制度を変え、子供や子持ち女性に投票権を追加付与してもよい。日本人を朱鷺の運命にしないために、こんな思い切った決断が必要だろう。
 国会議員定数に関しては衆目の一致するところであり、違憲の判決が出ており、ここでは述べない。隠れがちな身近なことを述べたい。
 市会議員定数について述べる。市議会議員定数は、水戸市が人口27万1000人(議員定数28人)、つくば市が同22万人(同33人)、日立市が同18万6000人(同28人)、土浦市が同14万2000人(同28人)、古河市が14万5000人(同28人)、取手市が同10万9000人(同28人)、高萩市が3万人(同16人)、潮来市が2万9000人(同18人)である。
私は単なる反対者ではないが、お手盛り的な議員定数を保っていてよいだろうか。水戸市は模範かな?
 水戸市に比べ、他市の市会議員定数が多過ぎる。自らの身を切らぬことをしており、極論だが、これで最も大切な若者への支援ができるか問いたい。(平成26年9月25日 日刊工業新聞掲載)

ASEANの大国、インドネシアの魅力は?(上) 

輸出先有望市場として注目/法制面の透明性など課題

   長谷川正博(東京支部)

 昨今、ASEAN(東南アジア諸国連合)に注目が集まっている。ASEAN関連のセミナーはほとんどが大盛況のようだ。経済や競争のグローバル化が進展し、また、人口減少・高齢化社会に突入するなかで、市場の縮小化が予想される。日本国内市場にとどまるのみではなく、今後の成長が期待できるASEAN市場への展開に中小企業(中堅企業も含む)は活路を見いださざるを得ないことが背景にある。
これを裏付けるように、日本からの対外直接投資額(2013年実績)は、ASEAN10カ国向けが前年比2.2倍の236億㌦(約2兆4000億円)と急増する一方、中国向けは32.5%減の91億ドル(約9000億円)に落ち込んだ。12年は中国(134億ドル)がASEAN(106億ドル)を上回っていたが、種々の要因を背景に、日本企業が中国よりもASEANに進出する動きを加速させていることを表している。
ASEANを地理的にみると、「陸のASEAN」(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム、タイ)と、「海のASEAN」(シンガポール、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、フィリピン)とに分けられる。筆者は前回の本コラムにおいて「陸のASEAN」の可能性について報告(本年8月21日、28日及び9月4日)したので、本稿では後者のリーダー格であるインドネシアについて報告する。
 まず、日本企業からみたインドネシアの市場としての位置付けであるが、2014年版中小企業白書によると、「輸出の開始を準備または検討している国・地域」は、トップである中国(中規模企業43.9%、小規模企業46.6%)の次にインドネシア(同28.0%、17.8%)が来ており、次いでタイ(同27.3%、21.9%)となっており(同白書P401)、輸出先有望市場として人口の多いインドネシアが注目されている事がわかる。
また、「直接投資先として準備または検討している国・地域」では、生産機能では中国、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンと、インドネシアは3番目に位置付けている。一方、販売機能では中国、北米、タイ、ベトナム・ミャンマー、インドネシアとかろうじて5番目となっている(同白書P406)。
中小企業は、進出先としていまひとつインドネシアの魅力又はイメージがはっきりと見えないからであろうか。同国は広大な領域と多くの島々からなるものの、経済の6割がジャワ島に集中しており大きな地域間格差や、民主化が進められてから10年ほどしかたっておらず、法制面での不透明性、インフラの未整備等の欠点があるのは事実である。(平成26年10月2日 日刊工業新聞掲載)

ASEANの大国、インドネシアの魅力は?(中)

人工増で高い成長潜在力/インフラ・物流網充実必須

   長谷川正博(東京支部)

インドネシアの今後経済発展が期待されている。それが実現していくとされる背景は、第1に、生産年齢人口がまだしばらくは増え続けるということ。第2に、世界でも有数の豊富な天然資源を持っていること。天然ガス(165兆立方フィートの埋蔵量)や石炭(世界第2位の輸出国)、パーム油(世界最大の輸出国)、カカオ(世界第2位の輸出国)、スズ(世界第2位の輸出国)、ニッケル(世界全体の12%の埋蔵量)、ボーキサイト(世界第4位の生産国)などがある。第3に、東西5200キロメートル、南北1870キロメートルという広大な領域を持ち、水産業や海洋資源開発の面でも大きな可能性を秘めていること、などである。
 国の市場規模を示す人口をみると、2013年で2億4800万人と、日本の人口の2倍に達し、中国、インド、米国に次いで世界第4位の規模を誇る。産児制限をしていないインドネシアでは、中長期的に見ても人口の大幅増加が見込まれ、国連の中位推計によると、14年2億5100万人、19年2億7000万人、24年2億8000万人になるとみられている。
人口増加は、将来労働力が潤沢に供給されることを意味している。また、同国は、働いて収入を得る生産年齢人口が、子供や老人など養われる側より多い「人口ボーナス」期が2025-30年頃まで続くとみられ、「インドネシアのマクロ経済が軌道に乗り所得水準の向上が進展するならば」の前提条件付きではあるが、消費活動が活性化され、経済成長にとってプラスの要因として働くことになる。
また、商品・サービスの購買力を示す中間・富裕層の存在では、現在、全人口の約30%に当たる7,400万人おり、毎年新たに約800万-900万人が当該層に移行しており、20年までに同層は1億4,100万人(うち、世帯可処分所得年1万5000ドル超~3万5000ドルの上位中間層は5750万人)、人口全体の53%に達すると見込まれている。
 上述の「潜在力」を十分生かし切り、経済成長を達成していくためには、政治の安定性確保はもちろんのこと、同国が現在課題として直面している電力や各種インフラの整備、人的資源の質向上、労使関係など法制上の更なる整備、投資家保護の不備の解消など、政府が本気になって取り組んでいくことが必須条件となる。
また、産業の総合発展のためには生産拠点のみでなく物流ネットワークの充実が欠かせない。この意味からも現在進めているMP3EI(後述)の進捗を見守りたい。(平成26年10月9日 日刊工業新聞掲載)

ASEANの大国、インドネシアの魅力は?(中)

高所得国へ国家戦略/機器・サービス需要増に商機

   長谷川正博(東京支部)

 インドネシア政府は2011年5月27日、11-25年の長期計画、「経済開発迅速化・拡充マスタープラン(MP3EI)」を発表した。これはA4判で204ページに及ぶもので、25年までに名目GDP(国内総生産)を10年(7000億ボル)の6倍超にし、GDP規模世界トップ10入りを果たすという目標を掲げている。
詳細は紙幅の関係上割愛する。特に注目すべきポイントは、マクロ経済目標として、①11~14年間の年平均実質経済成長率6.4~7.5%(ちなみに実績は、11年6.5%、12年6.2%、13年5.8%)、②15-25年間同8-9%③この成長率達成のためのインフレ率は11-14年6.5%/年(実績は11年3.8%、12年4.3%)、15-25年は3%/年④25年での名目GDP4兆-4兆5,000億ドル、1人当り国民所得1万4,250~1万5,500ドルと25年に高所得国になることを目指している。
さらに、45年には名目GDP15兆―17兆5000億ドル、1人当り国民所得4万4,500-4万9000ドルへと一層の高所得国化を目指すとしている(対ドルルピアレートは1ドル=9,000ルピア程度に設定)。
重点分野は、本計画の投資総額4,000兆ルピアのうち約半分に当たる1,900兆ルピアを当てているインフラ整備(電力・エネルギー開発、道路整備、鉄道整備など)である。更に、主要な島々を「六つの経済回廊」に分け、各経済回廊による経済の潜在性の開発、国家の連結性強化、人材能力の強化と科学技術向上を主な戦略として打ち出している。
同回廊の各々のターゲットは①スマトラ経済回廊=天然資源生産加工センター、エネルギー供給基地②ジャワ経済回廊=国家工業・サービス促進③カリマンタン経済回廊=鉱産資源生産加工センター、エネルギー供給基地④スラウェシ経済回廊=農水産業・石油ガス・鉱産物生産加工センター⑤バリ・ヌサトゥンガラ経済回廊=観光のゲートウエ-、国家食糧補助⑥パプア・マルク諸島経済回廊=食料、漁業、エネルギー、鉱業促進センター-としている。もちろんこの野心的な長期開発目標を達成するためには、現在直面している課題を克服していく必要があることは前述した。
上記の開発計画遂行に伴い出てくる各種機器・サービス需要への対応、またインドネシア国内市場の拡大に合わせた製品・サービスの充実を図ることにより、日本の中小企業にもビジネスチャンスが出てこよう。インドネシアのこれからの動きに注目したい。(平成26年10月16日 日刊工業新聞掲載)

未体験の物価上昇

差別化・差異化商品を訴求/“競争しない”戦略実現を

   河上 晃(近畿支部)

4月の消費税増税を節目に、消費の現場に変化が起き、国産インフレが出始めている。
身近な事例では、4月の消費税増税後に、3月まで98円(消費税込み)のリンゴが本体価格100円になり、それに消費税がブラスされて108円で売り出され、ガソリンはレギュラー価格が1リットル当たり約170円と高止まりしている。
仕入れ価格が高くなったとの要因もあるが、取扱店数の減少というこれまでとは違う供
給者と消費者との関係の変化も大きいと言える。特に生活に密着した飲食料品小売店数は
1982年を100として、2009年には実に50%強、ガソリンスタンドも94年を100として
11年には60%強の店舗数など、小売店の店舗数は想像を絶するほどに減少している。(出
典 商業統計、エネルギー白書)。
小売店の価格設定は、デフレ基調に進んでいたものの、今春は消費税増税を期に値上げしたところ、抵抗も少なく値上げが進むので、小売店は価格決定に自信を取り戻している。
高齢化に伴う消費者の買い物範囲の狭小化や店舗数減から寡占状態になり、小売店に価
格決定権が戻ってきていると言える。需要も、供給も十分にあるのに流通経路の縮小が価
格に上昇圧力を与えている。
雇用面では、求人件数は増えても給料は変わらず、春闘でのベアの恩恵も少なく、実質
賃金指数は、13年7月から連続マイナスになっている。(出典 毎月勤労統計調査 厚生労働省)。物価上昇に賃金が追い付いていないため、消費者の購買行動も慎重になっている。
自動車販売では、低グレード車の商談が多いといわれ、円安でも輸出数は増えずに貿易収支は赤字というしばらく経験していない経済状況に、消費者や企業は不安を感じて購入を抑えているために、中小企業や小売店は苦境に陥っている。この環境を打ち破るには、差別化・差異化した全社的マーケテイングが必要になる。
縮小した流通経路の良さを活かしながら、商品の良さを消費者や購入企業にやさしく結びつける、販売技術や接遇などの質的な高度化が求められる。
ITの活用や商品のアピールに比べ、販売の現場は軽視しがちだが、現在の苦境の克服
には、差別化・差異化した商品を消費者や企業へやさしく結びつけ、社会全体の満足につなげるオーソドックス・マーケテイングが求められていると考える。
いわば競争しない新しい競争戦略の実現が求められている。(平成26年10月23日 日刊工業新聞掲載)

企業が生き延びるための、QC手法の活用

他社に先駆け新商品を/企業環境分析ニーズ明瞭に

   永井 守(東京支部)

企業の目的は、結果として利益を得ないとこれらの目的は達成できないと考えている。利益を上げるには、「売れる商品」を適切な時期に市場に出さなければならない。
しかし、今売れている商品を市場に出荷しても、既に競合他社が市場を占有していれば、その競合他社を上回る「魅力」ある商品を市場に送り出す必要がある。携帯電話を見ればその理由は即座に理解できる。斬新な機能やデザイン、他社を凌駕する性能を持った商品であり、後発企業は製品価格を下げなければ市場を占有することはできない。
このことから、他社に先駆けて市場に出す事が重要になる。スマートフォンでは、各社が多機能・低価格を競争ポイントにし、利益は目減りし部品およびサブ組み立企業にしわ寄せが来て、最終的には撤退する。このように、興味深い新商品が生まれ→市場で育ち→成長し→市場で飽和状態になり→やがて当たり前の商品となり、メーカの撤退が始まる。 従って、社会が欲している興味深い新商品を発掘し、その興味深い新商品を開発可能な技術を予測し、開発し市場が欲した状況下に販売を始める。市場が欲した状況下とは、その商品を購買可能な経済状態であり、社会がその商品を活用可能な生活環境になった事が必要。
従って、企業が利益を上げ続けるには他社に先駆けて新商品を市場に送り出し、利益が目減りした時点で新たな新商品を出せば良い事になる。それには、企業環境を十分に分析し、長期戦略を練る必要があり、特に昨今「環境問題」、「PL(製造物責任)問題」、「少子化・高齢化」が大きく叫ばれている中、これらを考慮した戦略が不可欠になる事は推測がつく。
企業環境を分析すると、将来どのようなニーズが発生するか見えて来ます。
例えば、「少子化」により国内労働力は不足し、海外労働者を必要となって来ると、言葉の問題が発生し、携帯可能な翻訳器が考えられ、一人の子供に費やす教育費が当てられ、「高齢化」により足腰が弱まり足腰を補助するロボットお手伝いさんロボットなどが考えられる。
この考え方は、新QC七つ道具の連関図を活用すれば導き出す事は可能です。(平成26年10月30日 日刊工業新聞掲載)

海外進出事例(日刊工業新聞掲載)

  • 海外進出「あの時」25年10月〜26年3月

「経営士の提言」原稿募集

日刊工業新聞社のご厚意により、日刊工業新聞の紙面に経営士からの提言・提案、また持論や研究成果などを発表する場として「経営士の提言」欄を設けていただいています。
日刊工業新聞は、経済界・産業界をはじめ各企業・事業所において広く読まれている専門紙です。この読者を通じて、経営士としての考え方や活動の実態を知っていただく良い機会となります。また、このコラムに投稿することにより個人の活動領域を広げる手段にもなり、日本経営士会の知名度向上にも役立ちます。
投稿要領は下記のとおりです。皆様の投稿をお待ちしております。

-  記  -

テーマ: 自由
原 稿: ワード原稿 横書き、3回まで連載可能
文字数: 約900文字(69行x13文字)
掲載決定: 編集・掲載の決定は日刊工業新聞社編集部
紙上掲載: 日刊工業新聞(毎週水曜日)
原稿募集はこちら

論文ご紹介

  • ①上田隆一氏 研究論文
  • ②大野信行氏 研究論文
  • ③木村正彦氏 研究論文
  • ④近藤肇氏 研究論文
  • ⑤畑和浩氏 研究論文
  • ⑥松永準一氏 研究論文
  • ⑦三品冨義氏 研究論文
  • ⑧溝渕新蔵氏 研究論文
  • ⑨山本英夫氏 研究論文
  • ⑩小林祥三氏 研究論文
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